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【オーケストラ神話のゆくえ 第5楽章】ゲーム、初音ミク…異ジャンルを攻める

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派手な演出で、クラシックのコンサートとは違った熱気に包まれた「初音ミクシンフォニー2019大阪公演」(ハヤシマコさん撮影)
派手な演出で、クラシックのコンサートとは違った熱気に包まれた「初音ミクシンフォニー2019大阪公演」(ハヤシマコさん撮影)
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 娯楽が多様化する中、現代に求められる音楽とは何か-。オーケストラがゲーム音楽など異ジャンルの生演奏に挑戦する機会が増えている。チケットが即日完売する人気公演も多く、貴重な収入源となっているだけでなく、これまでクラシック音楽になじみのない客層にダイナミックで豊かなオーケストラサウンドの魅力を伝える絶好の機会としても期待されている。          (安田奈緒美)

♪未経験の熱狂

 オーケストラのリズムに合わせて、銀色のテープが派手に舞う客席に対し、舞台の照明は限界にまで絞られている。ステージで注目を集めるのは、スクリーンに映った青色の長い髪をした人気バーチャル歌手、初音ミクの姿だった。

 音楽の殿堂・フェスティバルホール(大阪市)で昨年12月に開かれたコンサート。動画サイトに投稿された初音ミクの人気曲を、オーケストラの生演奏で聴かせる趣向だ。ファンたちは、ふだん聴きなれた電子音楽とは違い、100人近くの音楽家が奏でるふくよかで迫力ある音色に酔いしれ、ホールには雄たけびのような「ブラボー」の声が何度も飛んだ。

 演奏を担当したのは大阪交響楽団(堺市)。事務局の山科孝義さんは「満席のお客さんの熱狂は、ふだんのクラシックコンサートでは味わったことがない」と感慨深げ。「クラシック畑で育ってきた楽団員も初音ミクやゲーム音楽のコンサートを重ねるうちに、自ら楽しみ、客席を楽しませようという意識が高まってきた」と思わぬ効果を強調する。

 大阪交響楽団はここ数年、初音ミクをはじめ、ゲーム音楽や映画音楽、ポップス歌手との共演など、従来のクラシック音楽のプログラムとは一線を画したコンサートを増やしている。その回数は平成28年度はわずか1回だったが、今年度は「モンスターハンター」といったゲーム音楽やポップス歌手との共演などで7回のコンサートを開催。来年度は12回を予定する。これらは企画会社などからの依頼公演で、楽団経営を維持するための貴重な収入源の一つになっている。

 ゲーム音楽に力を入れるオーケストラは増加傾向にあり、ゲーム音楽情報を紹介するウェブサイト「2083WEB」の運営会社によると、ゲーム音楽のコンサートは2000年代には全国で年間数回にとどまっていた。しかし、10年代に入ると50回を超え、昨年は143回を記録するなど、衰えを知らない。

 大阪交響楽団ではチケットが即日完売の公演も多く、聴衆の大半を若い世代が占める。事務局長の赤穂正秀さんは「足を運んでくれた若者たちは、あくまでゲームのファン。すぐに私たちの自主公演の集客につながるとは思いません」と冷静にみているが、「何とかオーケストラ音楽に耳を傾けてもらう入り口にしたい」と期待もする。

♪挑戦するDNA

 日本屈指の老舗オーケストラである大阪フィルハーモニー交響楽団(大阪市)でも、最近は映画音楽やゲーム音楽を取り上げたコンサートが増えつつある。橋下徹氏が大阪府知事や大阪市長を務めた間に補助金を大幅にカットされ、年間2億円近く収入が減ったことで経営体質の強化が急務となったためだ。異ジャンルへの進出は、収益力を高める戦略の柱の一つになっている。

 人気の企画が、映画の上映に合わせて劇中の音楽を生演奏したり、映画の名曲を集めたりしたコンサートだ。「私たちは昔からクラシック作品以外を演奏することに抵抗はありません」と事務局次長の福山修さんは明かす。

 楽団の歴史は昭和22年、故・朝比奈隆によって関西交響楽団として設立されたことに始まる。その頃は、昼にクラシックの演奏活動を行い、夜は日本のハリウッドと呼ばれていた京都・太秦の映画撮影所で演奏録音に臨む日々。「羅生門」「瞼の母」「山椒大夫」…。映画音楽の演奏録音は25年からの10年間で1500本に及び、その収入が楽団員の給与の支払いにあてられた。

 多忙を極めるようになったため、35年にクラシックの演奏を専門とする大阪フィルと撮影所専属オーケストラに分割されたが、大阪フィルにはジャンルにとらわれず挑戦するDNAが今も受け継がれている。

 「私たちの役割は、現代に伝わる素晴らしい芸術作品を再現すること、音楽を聴いてくれる人の想像をかき立てる演奏を続けることです。大フィルの表現力を生かせる場面はまだまだ多いと思う」と福山さんは自負する。

♪需要は拡大

映画音楽を演奏する大阪フィルハーモニー交響楽団のコンサート。子供たちをステージにあげて交流を図った(飯島隆さん撮影)
映画音楽を演奏する大阪フィルハーモニー交響楽団のコンサート。子供たちをステージにあげて交流を図った(飯島隆さん撮影)
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 異ジャンルの音楽とのコラボレーション公演が増えるオーケストラは、あらゆるエンターテインメントにアクセスできる可能性を秘めている。

 ゲームや映画のオーケストラコンサートを手掛けるプロデューサーの一人は「ゲームや映画に音楽は欠かせない要素。オーケストラの演奏を聴きながら、没入しているゲームや好きな映画の情景を浮かべて楽しむことができるので、ファンの間ではこれからも需要は高まるはず」と予測する。

 チケット収入だけで経済的に自立できないオーケストラの存続には、公的助成や民間支援が不可欠だが、娯楽が多様化する中で前例踏襲のままでは生き残るのは難しい。地域に密着した教育や福祉活動への参加、集客のための積極的PR、そして変化を恐れない挑戦を続け、社会や街に必要とされる存在でなければ、「オーケストラはつぶれない」という神話を紡ぐことはできないだろう。

                                  =続く

≪間奏曲≫

◆ゲーム音楽

 テレビや携帯ゲーム機などを使って遊ぶゲームで流れる音楽で、基本的に歌詞はついていない。1980年代には短いメロディーの音楽が中心だったが、現代は映画音楽のような壮大な曲も増えている。日本でゲーム音楽を演奏する本格的なコンサートが開かれるようになったのは、1987(昭和62)年のドラゴンクエストのコンサートが始まりとされる。欧州でも人気で、ロンドン交響楽団などの有名オーケストラが演奏するコンサートなども開かれている。

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