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南海トラフ地震、警戒高める時期 教訓からリスク把握を

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 阪神大震災から25年。南海トラフ地震の切迫性が高まっているとして政府は南海トラフ周辺の地震を解析し、国民に警戒を促すための情報公開を始めた。阪神大震災を機に研究者の道を歩んできた遠田晋次・東北大教授(地震地質学)と矢守克也・京都大防災研究所教授(防災心理学)はこの25年を振り返り、「教訓を生かせたことと生かせてないことを見極め対策を急ぐべきだ」と強調している。 (編集委員 北村理)

今後30年間で 確率70~80%

 矢守 平成7年阪神大震災から25年たちました。ということは、南海トラフ地震の発生が近づいているということをも意味します。政府は今後30年間で南海トラフ地震が起る確率を70~80%とし「切迫性が高い」としています。

 遠田 読者の関心が高い次の地震の時期について説明すると、前回の昭和19年東南海、21年南海地震がそれ以前の南海トラフ地震よりも小さい地震だったため、次の地震は早く起るという見方があります。昭和東南海、南海はマグニチュード(M)7・9と8・0でしたが、それ以前の地震はM8・4クラスですので、昭和東南海、南海は地震のエネルギーが開放しきれておらず、次の地震を起こすエネルギーが早く蓄積されるという考えです。

 矢守 南海トラフ地震の年表をみると、地震の間隔は100~200年ですが、昭和東南海、南海地震は前の安政地震から90年後に起きています。次はそれより早く起きる可能性があるということですか。

 遠田 今年は昭和南海から74年たちますので、そろそろ警戒を高めるべき時期ではありますね。

 矢守 次の地震の規模はどれぐらいでしょうか。昭和の地震では東海地震が起ってない点も気になります。

 遠田 地震の発生間隔が早くなる場合、地震のエネルギーの蓄積が小さいと考えられるので、地震の規模も小さくなるという考え方もありますが、歴史をみると、M8・4ぐらいをイメージするのが妥当かなと思います。

 矢守 政府は平成23年東日本大震災クラスのM9の想定(死者32万人)を公表していますが、この想定は大きすぎるということですか。

 遠田 M9の想定は南海トラフ地震が東日本大震災と同じ規模になるようなモデルを示したにすぎません。しかし、東日本大震災の津波が大きかったのは、地震に伴う大規模な海底地滑りがひとつの原因ともされています。巨大地震がもたらす影響や不確実性は計り知れないので、過小評価は禁物です。

主要都市直撃 未体験の被害

 矢守 津波への関心は高まっていますが、地震の揺れによる影響が未知数です。昭和東南海(死者1223人)、南海(同1362人)の時と現在は人口や都市の過密さが異なります。また、30年北海道胆振(いぶり)東部地震で見られたように、地震と降雨が連動した土砂災害、液状化や関東大震災級の火災など、複合災害も想定しておかねばなりません。

 遠田 次の地震の被害で注意するべきことのひとつは南海トラフ地震のような海溝型地震特有の長周期地震動です。ゆっさゆっさという周期の長いゆれが1分以上続き、高層ビルなど大型施設に被害をもたらす可能性があります。

 矢守 阪神大震災であれほどの都市災害を経験しながら、高層ビルなど大型施設は増える一方です。

 遠田 東日本大震災では震源から約800キロ離れた大阪で高層ビルが被害を受けましたが、南海トラフ地震は東日本大震災に比べ震源が陸地に近く、首都圏から九州までの日本の主要都市を直撃するので、未体験の被害を覚悟しなければなりません。

喫緊の課題は 避難対策改善

 矢守 阪神大震災以降、進歩したこととそうでないことがあります。避難所の問題は悪化しています。東日本大震災と28年熊本地震では地震後体調を崩すなどして亡くなった震災関連死はそれぞれ3739人、220人です。熊本地震は直接死が50人ですから4倍強です。2025年に高齢化はピークを迎え、次の南海トラフ地震では関連死が一層深刻になります。すべての避難所で医療・福祉レベルを高める取り組みは喫緊の課題です。

 遠田 阪神以降、地震観測の精度は格段にあがり、スロースリップ(ゆっくりすべり)という現象がとらえられるようになりました。この現象は海側のプレートと陸側のプレートの境界で起る地震動を伴わないゆっくりとしたすべりです。数日~数カ月、数年続くこともあり、周辺で群発地震が起こることもあります。この現象がプレート境界にあるプレートとプレートがくっついた固着域に影響すると、固着域がはがれ、南海トラフ地震が起きます。スロースリップの情報活用が避難対策に何らかの形で寄与する可能性があります。

 矢守 スロースリップなど南海トラフ周辺の現象が巨大地震に関連するかどうかについて、気象庁が毎月南海トラフ地震関連解説情報を公開しています。緊急性のある場合は臨時情報がだされ、事前避難開始が促されます。

 遠田 地震対策は家具固定と耐震補強が基本です。緊急地震速報も進化しており、南海トラフ地震には有効です。南海トラフ地震の発生前の期間には内陸直下型地震が起りやすいことが歴史から分かっています。30年大阪府北部地震の影響もまだ若干残っています。近年地震の経験のない地域は警戒が必要です。

 矢守 阪神大震災から25年で分かったことは被災者の被害の様相が誰ひとりとして同じでなかったということです。この教訓を防災に生かすなら、国民ひとりひとりが自分自身にふりかかるリスクを把握し避難計画を立てる。手助けが必要の場合、地域で助け合う。それも困難であれば行政が支援する。この役割分担が事前にできていれば被害は軽減できます。

 政府は平成29年11月から南海トラフ地震へ国民の警戒を促すための情報公開を始めた。気象庁は、南海トラフ周辺の地震活動を解析し、毎月「南海トラフ地震関連解説情報」をホームページなどで公開している。緊急性のある場合、「臨時情報」として「巨大地震注意」「同警戒」などの表現で随時情報公開し、避難の開始など南海トラフ地震への備えを国民に促すことを目的としている。

とおだ・しんじ 昭和41年生まれ。著書に「活断層地震はどこまで予測できるか」(講談社ブルーバックス)など。

やもり・かつや 昭和38年生まれ。災害時の対応力や判断力を養う教材「クロスロード」開発。

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