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【モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら】安住氏「壁新聞」事件がはらむ重大性

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立憲民主党などの衆院会派の控室ドアに張り出された東京都内発行朝刊の政治記事=4日、国会
立憲民主党などの衆院会派の控室ドアに張り出された東京都内発行朝刊の政治記事=4日、国会

新型肺炎さなか事件は起きた

 新型コロナウイルスを原因とする肺炎の流行で中国湖北省武漢市が事実上封鎖されたのが1月23日。わが国の通常国会が召集されたのが20日。論戦の主戦場となる衆参予算委員会で野党は相変わらず「桜を見る会」に執着し、喫緊の課題である新型肺炎対策には大した関心を示さなかった。国民の生命よりも、倒閣なんだろう。そう考えざるを得ない。「そんなことはない」というのであれば、特に立憲民主党と共産党には、質疑に費やした時間をテーマごとに開示してもらいたいものだ。

 そんな折に、あぜんとする事件が起きた。主人公は立憲民主党国会対策委員長の安住淳衆院議員。どんな人物か。安住氏の公式ホームページによれば、昭和37年1月、宮城県石巻市生まれの58歳。父は旧牡鹿町長を3期務めた安住重彦氏。早稲田大学社会科学部を卒業後、NHKに入り、秋田放送局を経て東京報道局政治部記者として首相官邸、自民党、文部省、自治省、政治改革などを担当したという。平成8年の総選挙で民主党公認候補として宮城5区から出馬、初当選を果たした。現在8期目。民主党政権時代には財務相を務めた。趣味は読書とゴルフで、愛読書は村上春樹作品や、池波正太郎の『鬼平犯科帳』などの人情味あふれる本だという。

小権力者の素顔明らかに

 産経ニュースは、安住氏が起こした事件をこう報じている。

 《立憲民主党の安住淳国対委員長らが4日、衆院予算委員会の質疑内容などを伝えた同日付の新聞各紙のコピーに「すばらしい!」「くず0点」「ギリギリセーフ」といった論評を書き添え、国会内の同党などの衆院会派控室のドアに張り出した》

 自民党寄りの記事には、「×」「出入り禁止」と書かれ、産経新聞は「論外」という評価だった。上等である。コピーは30~40分ではがされた。

 自分の気に入らない言論を平然とコケにし、差別する。誰にもそういう傾向はある。だが、安住氏は野党とはいえ権力者である。自分の立場をわきまえて冷静にふるまうことが求められるのは当然だ。それができない小権力者が絶対的な権力を握ったら、冗談ではなく、恐怖政治が始まるだろう。

 この事件によって、リベラルの仮面をつけた小権力者の素顔と、「人間は年齢と経験を重ねれば少しは利口になる」という通念が単なる迷妄にすぎないことが明らかになった。

 安住氏の行為は児戯のように見えるが、突き詰めて考えれば、民主主義の根幹を否定するに等しい行為であることを忘れてはならない。批判された安住氏は「笑い話でやって、記者さんも大笑いしていた。気に障ったとすれば申し訳ない」と釈明したという。

 行為も「論外」だが、釈明もひどすぎる。まともな記者なら本気で大笑いするはずがない。大半は腹の底からあなたにあきれて笑ったのだ。さもなくば、ゴマをするためのお追従(ついしょう)笑いだ。安住氏は、好きだという池波作品をきちんと読み直して、人間というものを勉強したらどうだ。遅すぎるかもしれないが。

 そして、立憲民主党の枝野幸男代表の対応にはあきれてしまった。党役員会で「報道機関にいたのだから、理性的に対応してほしい」と注意をしただけだという。どこまで身内に甘いのだろう。これに危機感を募らせたのが、同党の山尾志桜里衆院議員だ。山尾氏は自身のツイッターに次のようなコメントを連続投稿した。

 《公党が各紙の報道を上から目線で比較評価して、「論外」なんてコメントするのが論外だ。野党だって権力なのに》

 《表現の自由(憲法21条)への耐えられない無理解で「立憲」主義に反するし、民主主義のインフラに対する上から目線が「民主」主義に反する。立憲民主党にあるまじき行動。寛容とか多様性とか、党の大切な価値観と矛盾する》

 《自分が立憲民主党所属であることが恥ずかしいレベル。議員が幹部に物言わない党内文化が引き起こした結果でもあるから、自分自身も恥じてます》

 正論である。才気ある山尾さんは、この事件を機に自民党に移籍したらどうだろう。はるかに活躍の場を得られるはずだ。私は本気でそう思う。

自分は良心的と信じる人は不快

 モンテーニュは第2巻第17章「自惚(うぬぼ)れについて」にこう記している。

 《個人の場合にも公の場合にも、最も間違った意見を産み出し育てる母は、人間が自分について抱くところのあまりに善すぎる意見であるように思われる》

 立憲民主党や共産党の人々にささげたい言葉だ。自分が良心的であると信じ込んでいる人間ほど不快で手に負えぬ者はいない。毎週日曜朝に放映されるTBS系の「サンデーモーニング」を見て不快な気分になるのは、出演者全員が「自分は良心的」と信じ込んでいるように映るからだ。不快になりたくなければ、見なければいいだけのことではあるが、多様な意見を知るためには視聴せざるを得ないのだ。ものはついでだ。名コラムニストの山本夏彦さんの言葉を紹介しておこう。

 《実社会は互いに矛盾し、複雑を極めている。それは他人を見るより自分を見れば分る。自己の内奥をのぞいてみれば、良心的だの純潔だのと言える道理がない》

 民主主義には、与党に是々非々で対応する健全な野党が絶対に必要だ。民主主義を守りたいのであれば、立憲民主党や共産党は、与党の揚げ足取りにばかり執着するのではなく、与党が「なるほど」と思えるような現実的で建設的な提言をしてゆくべきだ。ボールはあなた方の手中にある。

 話を安住氏に戻そう。批判を受けたおりに、「私に人徳がなかった。深く反省している」とも答えたという。勘違いをしないでほしい。人徳の問題ではない。誰も政治家に人徳など求めてはいない。政治家として自分の立場をわきまえた言動ができないこと、それが問題なのだ。

 安住さん、このコラムを自室で読み、破り捨てるのはかまわないが、「論外」と書いて、衆院会派控室のドアには張り出さぬよう。

 ※モンテーニュの引用は関根英雄訳『モンテーニュ随想録』(国書刊行会)によった。   (文化部 桑原聡)=隔週掲載

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