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【通崎好みつれづれ】見えなくて見えるもの

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榎並悦子さんが撮影した、トロンボーンソリスト・鈴木加奈子さんと、パートナーの盲導犬「アリエル」の一枚
榎並悦子さんが撮影した、トロンボーンソリスト・鈴木加奈子さんと、パートナーの盲導犬「アリエル」の一枚
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 右手に杖を持った人の左手を介助者が握り、2人で歩む後ろ姿。影が大きく伸びる。そんなモノクロ写真に、短歌が添えられている。「手をかれば歩めるこの身の幸せを見えぬ目をもて見つめていたり」(桑原てい)

 一目見て、ひきつけられた。視覚障害をもつ老若男女を撮った、榎並悦子(えなみ・えつこ)『光の記憶 見えなくて見えるもの-視覚障害を生きる』(光村推古書院、2020)に掲載されていた一枚だ。

 東京在住のカメラマン、榎並悦子さん(59)は、京都市の出身。大阪芸術大学写真学科に進学し、自身の作品制作について模索する中、ふと、中学時代、大掃除の手伝いで訪ねた盲養護老人ホーム船岡寮(京都市北区、その後移転)のお年寄りたちとの交流が記憶によみがえる。

 思い出させてくれたのは、下宿に飾っていた「都わすれ」の造花。高校生の時、船岡寮で入居者のおばあさんにもらったものだった。再び船岡寮に通い時間を重ね、24歳の時、撮りためた写真で展覧会を開き、写真集『都わすれ-盲老人ホーム<船岡寮>の日記』にまとめた。

 本書『光の記憶』は、「年女」に依頼することが恒例のフォトギャラリー、企画展のために撮り下ろされたものが主だが、冒頭に紹介した写真を含む24歳の時に発表した作品も収められている。

 20代の時の写真群が、体当たりで撮ったからこその重みを感じさせるのに対し、新作のカラー写真は不思議と明るさにあふれ、見ている者に希望をもたらす。モノクロ、カラー、あるいは時代の違いのみではなく、榎並さん自身の来し方がこのような表現を可能にさせたのだろう。

 目に障害を持つ子供たちは、どこか求道者を思わせる風情を持ちながら、遊びに興じ、学びに没頭する。「目が見えないことで耳が研ぎ澄まされた」というトロンボーンのソリスト・鈴木加奈子さんの柔らかな笑顔もすてきだ。東京2020パラリンピックの出場を目指すアスリートたちの姿もとらえる本写真集。是非手に取り「見えなくても見えるもの」を感じてみてはどうだろう。(通崎睦美 木琴奏者)

 つうざき・むつみ 昭和42年、京都市生まれ。京都市立芸術大学大学院修了。マリンバとさまざまな楽器、オーケストラとの共演など多様な形態で演奏活動を行う一方、米国でも活躍した木琴奏者、平岡養一との縁をきっかけに木琴の復権に力を注いでいる。執筆活動も手掛け、『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』で第36回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)と第24回吉田秀和賞をダブル受賞。アンティーク着物コレクターとしても知られる。

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