PR

京大院卒リケ女が大手IT企業内定辞退して選んだ「振り売り」の生き方  

PR

振り売りの場はお客さまとの大事なコミュニケーションの場=京都市左京区
振り売りの場はお客さまとの大事なコミュニケーションの場=京都市左京区
その他の写真を見る(1/3枚)

 農家が店舗を持たずに顧客に京都の地野菜などを売り歩く“振り売り”。今では見ることも珍しくなった販売スタイルだが、1人の若い女性がこの振り売りに挑戦、注目を集めている。京大大学院修了後、大手IT企業内定を辞退してこの世界に入った角谷(すみや)香織さん(31)。被災地支援で訪れた福島で野菜に出合ったことがきっかけで、自分の生まれ育った京都の野菜と人をつなげる活動を続けている。(田中幸美)

軽自動車の荷台に野菜

 「今なら大根がお薦めです。わさび菜は生だとピリッとおいしいですよ」

 京都市左京区北白川の閑静な住宅街にあるカフェの駐車場。角谷さんは、軽自動車の荷台にぎっしり積まれた大根、金時ニンジン、水菜など約20種類の旬の野菜の説明をしていた。

 毎週月曜日の午前にやってくる角谷さんを目当てに、近所の主婦らが集まってくる。カフェを経営する梅棹(うめさお)マヤオさん(68)の妻、美衣(みい)さん(71)も「決まりきった野菜だけでなく、種類をいろいろそろえて工夫しているので選ぶのが楽しい」と話す。

 毎週3回、夕方から早朝にかけ、市内の契約農家から野菜を仕入れ、軽自動車に積み込み、お得意さんに届ける生活だ。日々の会話が新しいアイデアにつながることもある。今では京都市内の約20の農家と取引があり、フェイスブックやLINE(ライン)、ブログなどのインターネットツールを使って、回る場所や持ち込む野菜などの情報を発信している。

福島の農家の姿勢にひかれ

 京都市立堀川高校を卒業後、京大、大学院を通じて建築を学んだ角谷さんは、興味のあったインターネット広告やメディア事業を展開する大手IT企業から内定を得ていた。

 そんなとき出会ったのが東日本大震災の被災地、福島の農家の人たちだった。

 福島第1原発事故による風評被害で農作物が売れず苦しいはずなのに、「大きな流通だけに頼って消費者とのつながりを大事にしなかった自分たちにも非がある」と話す農家の人たちの前向きで強い姿勢にひかれた。

 このまま何もしなければ華やかな前途が待っていたかもしれない。でも、福島で出会った自分で仕事を切り開く人々に触発された。敷かれたレールを進むことにも疑問と不安を感じた。平成24年12月、せっかく得た内定を辞退した。

 もっとも、やりたいことがあったわけではない。手あたり次第何ができるか模索する日々が続いた。

地元の農業体験を機に

 そんな角谷さんを、京都市北区で八隅(やすみ)農園を経営する八隅真人(まさと)さん(38)が振り売りの世界に誘った。きっかけは26年11月、角谷さんが同農園で体験した京野菜のすぐき菜の皮むきなどの様子をSNSで発信したことだった。「どこで買えるのか」「どうやって食べるのか」。予想外の反応があり、試しにインターネット上で販売したところ、約30キロを売り上げた。これを見た八隅さんが「配送が大変だから、いっそのこと振り売りしてみたら」と切り出したという。

 かつて振り売りの女性から祖母が買ったトマトを食べたことがあったという角谷さん。「おもしろそう。やりたい」とすぐに飛びつき、翌年4月から振り売りを始めた。自分の野菜への目利きに自信がなかった当初は八隅農園の野菜を主に扱っていたが、八隅さんの紹介などで徐々に取引農家も増やしていった。

 その結果、自分も振り売りをするという八隅さんが「こんなに差をつけられるとは」と苦笑するほどの成長ぶりを見せている。

 京都の新鮮な野菜を食べたいが、どこで買ったらよいかわからない人に届けて、喜んでもらえることに価値を見いだしているという角谷さん。今後は、農家に消費者の生の声を届けてモチベーションを上げたり、一緒に問題点を解決していったりすることが目標だ。

 「自分が役立てる場所はそこかなと思う」。そう言うと、楽しそうに笑顔を見せた。

この記事を共有する

おすすめ情報