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【書評】自民党が分裂しない理由は「建物」にあり 御厨貴著「時代の変わり目に立つ-平成快気談」

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政界へのご意見番、御厨貴さんの講演などをまとめた新刊「時代の変わり目に立つ」
政界へのご意見番、御厨貴さんの講演などをまとめた新刊「時代の変わり目に立つ」

 聞き取りを記録する「オーラルヒストリー」の第一人者が、平成30年3月から令和元年9月にかけての御代替わりの時期に各所で行った講演や雑誌の対談などをまとめた。

 「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の座長代理を務めた経験から、平成は30年12月31日で終わらせ、令和元年は1月1日からとすべきだったと主張する。5月1日から新元号とした理由は、1月は国会があり予算編成で忙しく、2月はまだ積み残し法案があり、3月は年度の変わり目で準備があるため、4月は統一地方選があるためだったことを明かし、政府の姿勢に対し違和感を持ったという。

 現在の上皇さまの譲位のメッセージについて、「日本も高齢化社会になった。(中略)天皇、皇后のお二人も年を召されるのですよ」と受けとめたという。

 平成という時代の特筆すべきことに小選挙区制が導入されたことを挙げている。その上で、「二大政党制にはならず、今はあのときは考えもしなかった野党がなくなるというすさまじい事態になって、国会はいったいどうなるんだ」と嘆く。

 戦前の日本の政界には人材がたくさんいたことを強調。「今一番心配なのは、人材が生まれていないということです。ある時期まで、本当に冗談のように『ポスト安倍は安倍だ』と言っていましたが、今やこれが真剣に考えられる時代になった」との指摘からは、強い危機感が伝わってきた。

 著者は建築にも関心を寄せており、自民党の政党本部である自由民主会館に言及している。自民党が今日まで分裂することなく続いている理由として、他の政党の本部と比較しながら、この建物で集まって議論をしたり食事をしたりしていることが自民党の強さの理由だと主張している。結束の中心に建物があるというのは、城が武士の心のよりどころだったのと似ていて、説得力があり面白い。

 政治をテーマにした座談番組「時事放談」の司会を長く務めた。番組に最も多く出演したのは、自民党の幹事長などを歴任した野中広務氏だという。その姿勢にはある種のすごみがあった。「スタジオでは対談相手が『格下』であっても、必ず下座に陣取った。相手を立てているようでいて、野中さんに上座に『座らされて』しまった人間にとって、こんなプレッシャーはないはずだ」と回想する。政治の世界ではこんな恐ろしい駆け引きが行われているのだ。

 著者にとって100冊目となる著書だという。前書きで、最近大病を患い、長期入院も経験したと明かしている。ユーモアを交えての軽妙な筆さばきに感心するとともに、筆者の健康と健筆を祈らずにはいられない。

みくりや・たかし 昭和26年、東京都生まれ。東京大先端科学技術研究センター客員教授、サントリーホールディングス取締役、東京大・東京都立大名誉教授。著書に「政策の総合と権力」ほか。(櫛田寿宏)

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