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「悲鳴あげている人に寄り添う」 芥川賞初候補の2作家に聞く

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「幼な子の聖戦」で第162回芥川賞候補になった木村友祐さん
「幼な子の聖戦」で第162回芥川賞候補になった木村友祐さん
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 15日に受賞作が決まった第162回芥川賞・直木賞。ノミネートされた計10人のうち7人が初候補というフレッシュな顔ぶれだった。文学離れといわれて久しいが、作家たちはどんな思いを抱きながら文学と向き合っているのか。

人間と書物のバランス

 「いろんな本を読む中で、人生の指針になるものもかなりあり、こういう生き方をしたいという人もたくさん知ることができた。その人たちが書いていたときの気持ちを一番知りたい」。「最高の任務」(群像12月号)で芥川賞初候補となった乗代雄介さんは多量の読書を背景にした知的かつ技巧に満ちた作風で知られる。

 北海道江別市に生まれ、幼少時に家族と首都圏に転居。子供時代から本が好きで、学校の国語の成績は抜群だった。小説執筆を始めたのは法政大在学中。卒業後は塾講師のかたわら個人ブログで短編を創作した。

 高校生のころから、読んだ本で興味を覚えた部分をノートに書き写すことを始め、今もそれを日課にしている。筆写時には「作者が書いていたときに近づくような瞬間がある」と語る。

 今作は丁寧な風景描写が魅力だ。ここ2年ほどは週2、3回近所の公園などに赴き、風景をノートに描写する練習を重ねた。作品舞台の茨城、群馬両県には数十回通った。その風景をバックに、ブッキッシュ(書物偏重)な主人公と家族とのつながりが描かれる。書物の世界は魅力的だが、生きる上では生身の人間との関係は避けられない。それは自身のテーマでもある。「そのバランスをどうとっていくか。そんな小説を書いていけたらな、と思います」(磨井慎吾)

 のりしろ・ゆうすけ 昭和61年、北海道生まれ。法政大卒。平成27年、「十七八より」で群像新人文学賞を受賞しデビュー。30年、野間文芸新人賞。

疎外されている人書く

 「既得権益を持つ者が強く、都会との格差が埋まらないのは日本の縮図。書かなきゃと」

 若手村長候補を、長老があの手この手で妨害する地元・青森県内の選挙を題材にした「幼な子の聖戦」(集英社)で芥川賞候補に初ノミネートされた木村友祐さんは執筆動機をこう話す。

 立候補者の同級生である村議の視点で描いた作品は、南部弁が疾走感を生み、登場人物が抱えるやるせなさを増幅させる効果があり注目された。

 もともとは漫画家になりたかったという。絵にはある程度自信があり、ストーリーを上達させたいと入った大学で衝撃を受ける。短歌の講義で、言葉を巧みに操る力がないことを痛感。苦手を克服したいと物書きを目指すようになった。

 作家は安定すべきではない-と卒業後、定職につかなかった。ビルの窓ふきや高齢者の送迎…。現在は週4日、害虫駆除のアルバイトに励む。妻と暮らす都内の自宅は「2匹の猫が寄ってくるから」と、近所の喫茶店が仕事部屋だ。

 「人に聞こえないところで悲鳴をあげている人に寄り添うのが文学。疎外されかけている人を書かないでどうする-という気持ちはあります」。冷え込む社会を低い視線でとらえ続ける。(伊藤洋一)

 きむら・ゆうすけ 昭和45年、青森県生まれ。日大卒業後、平成21年に「海猫ツリーハウス」ですばる文学賞を受賞しデビュー。23年発表の「イサの氾濫」が三島由紀夫賞候補になった。

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