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【変革 ハウス食品グループ】タマネギで涙 謎突き止めイグノーベル賞 

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試行錯誤の末、栽培に成功した涙の出ないタマネギ「スマイルボール」
試行錯誤の末、栽培に成功した涙の出ないタマネギ「スマイルボール」

ニンニクと混ぜると緑に

 米ハーバード大での授賞式。スピーチはどうしようか、気をもんだ。「人々を笑わせ考えさせてくれた業績」に与えられるイグノーベル賞。スピーチでも笑いを求められる。だが、心配は杞憂に終わった。

 「タマネギが人を泣かせる生化学的なプロセスは、科学者が考えていたより複雑であることを明らかにした」。司会者が授賞理由を説明すると、会場は笑いに包まれた。同賞ならではの賛辞だ。

 「大の大人が一生懸命研究するようなことか、と面白かったのでしょう」。ハウス食品グループ本社基礎研究部の高度研究参事、今井真介(62)は2013年の受賞式をそう振り返る。業務での研究をきっかけに、タマネギに含まれる「催涙成分」の生成を促す酵素「LFS」を突き止めたのだ。

 きっかけとなった研究は1990~91年ごろに始めた、レトルトカレーの製造に関するものだった。ニンニクとタマネギのペーストを混ぜてきつね色に炒める工程で、なぜか緑に変色してしまうことがあった。廃棄処分せざるを得ず、解決策を求められていた。

 今井はタマネギとニンニクそれぞれに含まれる成分「アリイナーゼ」が変色に関係していることを見つけ、混ぜる前にニンニクを十分に加熱すれば変色しないことを確認した。

 研究はおよそ3年に及んだが、そこで終わらなかった。「タマネギ由来の粗精製のアリイナーゼを使った場合の変色はニンニクのそれに比べて弱い。何か未知の成分がある」。アリイナーゼが催涙成分や風味にも関係していることが、今井の好奇心に火をつけた。

 試行錯誤の末、未知だった成分を見つけてLFSと命名。さらに「この成果を生かせば、何か面白いタマネギができるかもしれない」と今井らは研究続行を会社に申請した。

 役員が居並ぶ会議。専務の小瀬●(=日へんに方)(あきら)(72)=後に社長、会長を歴任=が、メモをびっしり書き込んだ資料を手にしていたのが今井から見えた。小瀬は、必死にプレゼンする今井にいくつか質問をぶつけた後「面白い。続けなさい」。

 2002年、英科学誌「ネイチャー」に論文が掲載されると、すぐに海外から共同研究の申し出があった。「一緒に涙の出ないタマネギを作ろう」

苦節10年「スマイル」咲いた

 「今、読みましたよ」。ニュージーランドの研究機関「プラント&フード・リサーチ」から、今井のもとにメールが届いたのは2002年10月。今井の論文が英科学誌「ネイチャー」に掲載されてすぐのことだった。共同研究をしたいという。

 論文は、今井らが発見し命名したタマネギの催涙成分合成酵素(LFS)に関するもの。LFSは、タマネギに含まれる特定の成分を分解し、人に涙を流させる催涙成分にする。今井は論文中で、LFSの働きを抑えれば「涙の出ないタマネギ」を作ることができる、という仮説を唱えた。

 植物の遺伝子組み換えに強いプラント&フード・リサーチは、今井の仮説に飛びついたのだ。共同研究でLFSを生成しないよう遺伝子を操作し栽培したところ、狙い通りに催涙成分が減った。しかし、遺伝子組み換え植物では商品にできない。

 そこで路線変更。理化学研究所の協力を得て、元素加速器を使ってネオンイオンをタマネギの種子に照射し突然変異を促した。栽培して涙が出ないかを確認して、有望なものから種子を採り栽培と評価を繰り返した。

 成果はなかなか出ない。社内では「いつまでやるつもりか」と言われたこともある。

 メンバーの熱意に押され、論文発表から10年あまり。ついに涙の出ないタマネギが完成し、15年の日本園芸学会での発表にこぎつけた。ただ狙いとは少し違って、LFSではなく催涙成分生成に必要なもう一つの酵素を抑えたものになった。味は甘く、ハウスは「スマイルボール」の商品名で15年、販売を始めた。

 「人々を笑わせ考えさせてくれた業績」をたたえるイグノーベル賞を13年に受賞するなど注目を集め、今井には講演依頼も舞い込むようになった。研究の楽しさを考えるとき、友人から聞いた四つ葉のクローバーの話を思い出す。

 「四つ葉のクローバーが幸せのしるし、とされるのはめったに見つからないからではない。実はたくさんある。なのに人は探そうとせず踏みつけてしまっている」。有望な研究の種も同じだという。(敬称略)

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