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【ニュースを疑え】繰り返すなイースター島の悲劇 温暖化対策訴え ジャレド・ダイアモンドUCLA教授

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 地球温暖化対策で各国の足並みがそろわない。米カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)のジャレド・ダイアモンド教授は、環境破壊によるイースター島社会の崩壊を挙げ、「宇宙で孤立した地球の縮小モデルだ」と警鐘を鳴らす。歴史から学べる教訓とは。来日した同教授に聞いた。(坂本英彰)

 ジャレド・ダイアモンド氏 ピュリツァー賞受賞の「銃・病原菌・鉄」など独自の視点で人類史を解き明かし、現代社会に通じる問題を示している=京都市(永田直也撮影)
 ジャレド・ダイアモンド氏 ピュリツァー賞受賞の「銃・病原菌・鉄」など独自の視点で人類史を解き明かし、現代社会に通じる問題を示している=京都市(永田直也撮影)
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 --昨年12月の国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)は、パリ協定の実施ルールで合意できませんでした。明らかな危機に対し人類は適切な対処ができていません

 「世界中で画一的に進行するわけではない温暖化の認識は、科学者の間でも20年はかかりました。一部で寒くなる場合もあるのです。日本や米国を襲った近年の激しい台風などのように、温暖化現象のひとつは極端な気候です。トランプ大統領はパリ協定離脱という、ひどく近視眼的な決定をしました。科学を無視し、ファンタジーの中で生きているかのようです」

 --日本も同会議で、石炭火力発電の利用を継続する方針が批判されました

 「台風リスクを抱える日本はとりわけ、温暖化の原因である化石燃料の消費を減らす努力をすべきでしょう。日本の銀行は世界の石炭火力発電所への融資の上位3位を独占し、日本の年金基金が石炭ベース産業に多額投資されているとの調査があります。日本政府が台風被害を防ぎたいと考えるなら、そのような投資は適切ではありません」

ジャレド・ダイアモンドUCLA教授=京都市東山区(永田直也撮影)
ジャレド・ダイアモンドUCLA教授=京都市東山区(永田直也撮影)
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イースター島で起きた最悪のシナリオ

 --原子力発電は温暖化対策には有効ですが、福島第1原発事故を受けて稼働には批判があります。どうすればいいのでしょう

 「環境に打撃を与えないエネルギーがただで手に入る理想的な世界なら原発はいりませんが、現実は違います。原発のリスクは好ましくないが火力発電よりはるかに小さいといえる。これまでの原発事故ではチェルノブイリなど直後に31人が死亡し、長期的には恐らく何千人も亡くなりました。ところが火力発電も原因である大気汚染によって毎年、世界で何百万人も死者が出ています。しかも火力発電は温暖化の原因ともなっているのです」

 --理性的な計算が必要ということですか

 「ええ。電力の80%を原発で賄っているフランスは一度も重大事故を起こしていません。フィンランドもそう。日本の原発事故は津波のためで、将来の立地を経験から学ぶことができます。新幹線で一度も列車死亡事故を起こしていない国は原発でも、再び重大事故を起こさない運転はできるでしょう。エネルギーは必要で原発は重要な供給源です。代替はあるがはるかに悪いというのは難しい話ではなく、これは政府が主導できる事案です」

ジャレド・ダイアモンドUCLA教授=京都市東山区(永田直也撮影)
ジャレド・ダイアモンドUCLA教授=京都市東山区(永田直也撮影)
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 --著書「文明崩壊」で、環境破壊によるイースター島社会の崩壊を説明しています。現代人が学べることはありますか

 「イースター島で起きたことは、過剰な資源収奪がもたらす最悪のシナリオです。この島は太平洋で孤立し、森林伐採など自然を破壊したときに助けを求める社会が他になかった。宇宙では地球も孤立しています。だからイースター島は世界の縮小モデルなのです。人間は自身が依存している資源を破壊してはいけないのです」

 --モアイ像の建立を競う島の氏族が資源利用で協力しなかったのですね

 「今日でいえば、たとえば水産資源です。日本は自国で得るほか、需要の半分あるいは3分の2を輸入している。EU加盟国の政府は漁船に補助金を出し巨大な漁船団を維持しています。どの国もできるだけ多く取ることばかり考えている。イースター島のシナリオを避けるためには漁業資源の管理について合意し、分け合うことが大事です」

科学的な江戸幕府の森林管理

 --一方、著書では資源管理の好例として、江戸時代の日本の森林管理を挙げています

 「そうですね。新幹線に乗ると、車窓から見える山々がすべて木に覆われているのが印象的です。多くの国々ではこんなにうまく森林は管理されていません。科学的な森林管理は世界の2カ所、ドイツやスイスと日本で発展しました。江戸時代の詳細な管理マニュアルはとても興味深い。木々の直径を測って番号をつけ、どの木を伐採すれば持続的にできるかを考えていました。それは今日の日本における森林管理のモデルにもなっているのです」

 --なぜそれほど多大な手間をかけたのですか

 「江戸時代は城郭含め木造建築に大量の木材が必要でした。しかも鎖国政策のため、自国で完結する必要もあった。木材を十分確保するには正確な森林管理が必要だと気づいたのです。イースター島と違い日本には中心となる強力なリーダーがいました。自然保護はボトムアップの手法もあるが、これは強い政府によるトップダウンの好例です」

ジャレド・ダイアモンドUCLA教授=京都市左京区の京都大学(永田直也撮影)
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 --ニューギニアにある石油企業シェブロンの油田を訪れ、予想に反し厳格な環境対策に驚いていますね

 「ええ。環境保護にとても熱心な企業でした。環境を保護することが今は、営利企業の金もうけを助けているのです。ひとたび原油流出事故を起こせばとてつもないお金がかり、環境を汚すような企業は会社としても魅力がありません。ノルウェーが北海油田の入札でシェブロンを選んだのは、環境を守る企業との評判も関係しているでしょう」

ジャレド・ダイアモンドUCLA教授=京都市左京区の京都大学(永田直也撮影)
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大量消費、あと数十年

 --グリーンランドで数百年生き滅亡したノルウェー人社会を「文明崩壊」に描いています。伝統に固執し変化に適応できなかったのですね。教訓はありますか

 「寒冷な気候で牧畜を続けることができなかったのに、彼らはやり方を変えようとしなかったのです。再び日本の例ですが、日本は明治になると一転して海外から資源を獲得する方針にかわった。ところがいま世界は資源が枯渇しはじめているのに、その方針を調整しようとしていない。いま行うべきは獲得への固執ではなく、世界の資源管理を主導することです。日本だけを責めているのではありません。私の国はもっとひどい状況なのですから」

 --社会の崩壊はピーク到達の後、急速に起きるとも指摘されていますね

 「人口も消費レベルも大きく、資源を急速に枯渇させている状況だからです。いま世界は人口も資源消費も過去最大です。チェイニー元米副大統領は『米国的な生活は交渉不可だ』と言いましたが、それは不可能です。いまのような大量消費を続けられるのはせいぜいあと数十年。好むと好まざるとにかかわらず米国的な生活は変わる。それを可能にする十分な資源がないからです」

 【プロフィル】

 ジャレド・ダイアモンド 1937年9月、米ボストン生まれ。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)地理学部教授。ハーバード大卒。英ケンブリッジ大大学院で生理学博士号を取得。鳥類学や環境学、地理学と研究を広げニューギニアなどでフィールドワークを実施。地球上の地域で発展が異なった理由を解き明かした「銃・病原菌・鉄」(1997)でピュリツァー賞受賞。他の著書に「文明崩壊」「危機と人類」など。昨年12月、地球環境問題解決への貢献で旭硝子財団の「ブループラネット賞」を受賞し来日。

【ニュースを疑え】

 「教科書を信じない」「自分の頭で考える」。ノーベル賞受賞者はそう語ります。ではニュースから真実を見極めるにはどうすればいいか。「疑い」をキーワードに各界の論客に時事問題を独自の視点で斬ってもらい、考えるヒントを探る企画です。

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