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【一聞百見】黄金世代を生んだ“勝利への改革” 日本女子プロゴルフ協会会長、小林浩美さん

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小林浩美会長。全英オープンから帰国した渋野日向子(右)とVサインでツーショット(早坂洋祐撮影
小林浩美会長。全英オープンから帰国した渋野日向子(右)とVサインでツーショット(早坂洋祐撮影
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 今や男子の3倍以上のギャラリーを動員する女子プロゴルフ界。今年8月に全英女子オープンを制した渋野日向子(ひなこ)や畑岡奈紗(なさ)を両輪に、勝みなみや原英莉花(えりか)、河本結(ゆい)、小祝さくら-と“黄金世代”(平成10=1998=年度生まれ)が一気に花咲いた。プロ入り数年目の彼女たちが、なぜ勝てるのか。平成23(2011)年に会長に就任して以来、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の「勝利への改革」を推し進める小林浩美会長(56)に聞いた。(聞き手 編集委員・田所龍一)

■世界で勝つ選手を作るツアー強化

 なぜ、黄金世代が強いのか-。小林会長は「ツアー強化」の成果が最大の要因だという。平成25年から開始した大がかりな組織改革。大目標は「世界で勝てる選手を作る」こと。そのためには今までの「ツアー」をさらに変える必要があったという。「日本選手が海外ツアーでなかなか勝てなかったのは、日本でやっているツアー環境とまったく違うところが多いからなんです。たとえば…」

 日本の女子ゴルフは3日間競技が主流。だが、欧米ではほとんどの大会が4日間競技。「たった1日増えるだけで、体力の消耗もまったく違う。それに3日間競技は日本では全員が午前中にスタートしますが、4日間競技は午前と午後に分かれています。海外に出た日本選手はまず試合のリズムの変化に戸惑ってしまう。生活では言葉や食事の違い、難しいコースセッティング。慣れるのに時間がかかる」。13年間、アメリカツアーに挑んだ小林が初勝利を挙げたのは渡米4年目。宮里藍も同様。岡本綾子でも勝つのに2年を要した。「だからそのギャップを詰めていければ…と思ったんです」

 小林はまず下部ツアー(ステップアップツアー)の強化から始めた。今までの5試合から20試合に増やし「2日間競技、ギャラリーなし、テレビ放映なし」を「3日間、ギャラリーあり、テレビの生中継、世界ランキングポイント加算」と上部と同じ環境に変えた。それは若い選手に緊張感と競争力が芽生え、選手の育成と強化を加速させた。

 そして次はレギュラーツアーの強化。年間5試合しかなかった「4日間競技」を14試合に増やした。4日間競技になって選手たちは“体力強化”の必要性に気づく。スタミナと筋力が強化されるとショットの威力が増し集中力や心の粘りもでる。さらに協会はゴルフ場にお願いし、多様な「コースセッティング」に変更した。従来のセッティングから芝の成長やグリーンの速さ、硬さなどを組み合わせ、パーを取るのも難しいコースやバーディーを狙っていかなければいけないコースなど、いろいろなバリエーションをつけた。それは「海外のどんなコースにでも対応できる技術がつくように」という思いからだ。

小林浩美会長の平成2(1990)年頃のドライバーショット。ヘッドはパーシモン(柿の木)だ
小林浩美会長の平成2(1990)年頃のドライバーショット。ヘッドはパーシモン(柿の木)だ
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 “黄金世代”は中学や高校時代からプロに交じってトーナメントでもまれ、ネットを通じて世界のゴルフに触れ「どうすれは自分たちはプロの世界で勝てるのか」を考えてきた世代。だからこそ「海外と同じ環境に近づければ、きっと彼女たちは勝てる」と小林会長は信じていたのである。

生き残るために、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の強化に着手した小林浩美会長 =東京都中央区(鴨川一也撮影)
生き残るために、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の強化に着手した小林浩美会長 =東京都中央区(鴨川一也撮影)
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■改革への反発 何度も頭を下げ

 3日間競技から4日間競技へ。たった1日の変更だが、言葉でいうほど簡単なことではなかった。「1日長くなれば、それだけ経費もかかるし賞金額も増える。“世界で勝てる選手を育てたい”という私たち協会の思いにスポンサーさんが賛同し、ご支援していただいたおかげです」。プロスポーツの絶対条件は強いこと。その信念のもと小林は「ツアー強化」を実現させるため、何度でも頭を下げた。当初、ツアー関係者からは反発もあった。〈4日間にしたら勝つのは、体力のある外国人の選手ばかりになってしまう〉と。だが小林は「一時は沈むかもしれないけど、必ずジャンプするから」と応じてきた。

 同時に小林は協会の「組織力強化」にも乗り出した。法人改革で平成25年、社団法人から一般社団法人へ移行したからだ。税率も約20%から40%へ跳ね上がった。このままの運営では「破綻」は見えていた。生き残るためには組織として財務改善は必須だ。そこで25年、協会初となる中期経営計画をたてた。

〇第1期2016ビジョン「協会のブランドの確立」

〇第2期2019ビジョン「変革。そして成果へ」

 結果、選手の技術は向上し、ゴルフ場には毎週多くのギャラリーが詰めかけた。大きな成果だ。

 鈴木愛や渋野ら20代の選手がツアー優勝者の7割をしめる中、会長にこんな質問をしてみた。

 --選手たちにテレビ映りがよくなるよう“お化粧をしなさい”と会長が指示した-と聞いたんですが?

 すると小林は大笑いしながら大きく手を振った。「そんなこと私はいいませんよぉ。今の選手たちは黙っていてもお化粧はします。マニキュアもきれいに塗ってますし、とにかくおしゃれ。オフィシャルパートナーの『資生堂』さんが化粧の仕方や日焼けを防ぐ方法とかを新人研修のときに指導されています」

 プロテストに合格した新人選手は全員「新人研修」を受ける。日本女子プロ選手権での“裏方体験”は有名だが、パーティーマナーや礼儀、言葉づかいなども専門家の指導を受けている。「餅は餅屋にまかせなきゃ。だから私たちの仕事は強い選手を育てることです」。会長の笑い声がまた弾けた。

樋口久子さん(左)から「日本女子プロゴルフ協会(LPGA)会長」を引き継いだ小林浩美さん
樋口久子さん(左)から「日本女子プロゴルフ協会(LPGA)会長」を引き継いだ小林浩美さん
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■「女子プロができること」模索

 平成23年、小林は樋口久子前会長の後を継ぎ、第6代LPGA会長に就任した。躊躇(ちゅうちょ)はなかったのか? 「会長になるときは、もうありませんでした。重責に身が引き締まる思いでした。でも、理事になるときは…。実は、お断りしたんです」。だが、協会は小林を必要としていた。樋口会長や二瓶綾子元会長、清元登(たか)子元会長ら先輩や後輩たちから「海外ツアーで戦った経験がいまの協会には必要」-と熱心に誘われて決心した。

 小林は日本ツアーで5年、米ツアーは13年在籍した。現役時代は米国生活の方が断然長い。「グローバルに対峙(たいじ)できるように、さらに協会が成長発展する一助になれば」と「大変だけどやりがいのある仕事」に向かって小林は始動した。プロゴルファーは個人商売。協会運営はチームでの仕事。そして会長職は経営者。小林はマネジメント能力の重要性を感じた。2年ごとの理事選を経て、会長職9年が過ぎた。グローバルに勝負できる強さとエンターテインメント性への改革は着実に進んでいる。

 「今の選手たちは本当によく頑張っています。いま必死になって稼がないと、すぐに戦えない年齢になる。若い世代が台頭し、女子プロゴルファーの寿命はどんどん短くなってきている。だから彼女たちの“いま”と将来に向けてより良い環境を作りたいんです」。会員は現在1120人。その55%が45歳以上になり620人に上る。「プロになった以上、みんな1回は勝ちたいんです。レギュラーツアーで勝てなかったなら、シニアで勝ちたい。みんな試合が好きで生きがいです」

 だから多くの会員にもっと活躍できる場を作りたい-ともいう。だが、女子のシニアの試合は年間4試合。現実は厳しい。「試合だけでなく彼女たちのセカンドキャリアは大きなテーマです。次は何ができるのか、何がしたいのか、何で役立つのか、ゴルフを生かした何かを…」

夢を語る日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の小林浩美会長(鴨川一也撮影)
夢を語る日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の小林浩美会長(鴨川一也撮影)
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 子供たちだけでなく、サラリーマンや主婦にゴルフの楽しさをもっと知ってもらう。2年前、国の機関と協会や他のゴルフ団体が協力し、認知機能向上にゴルフも役立つ-というデータも得たという。「スコアを数えながら歩くという『デュアルタスク運動』が、脳に効果があるようなんです。ゴルフを始めることで、ゴルフ場という行く場所が生まれ、新しい友達ができ、ファッションに興味がわく。このデータを持って市町村と協力すれば、高齢化社会に何か役立ち、ゴルフの普及にもつながると思うんです」

 “夢”を語る小林会長の目はキラキラと輝いていた。(敬称略)

     ◇

【プロフィル】小林浩美(こばやし・ひろみ) 昭和38年1月8日、福島県出身。59年にプロテスト合格。ツアー5年目の平成元(1989)年に年間6勝を挙げ賞金ランク2位に。1990年からアメリカツアーに参戦。93年に「JAL・ビッグ・アップル・クラシック」で優勝。樋口久子、岡本綾子に次ぐ日本人3人目の米ツアー優勝を果たす。90年米国女子ツアー新人賞。日米欧ツアー通算15勝。平成20年に協会理事。23年に第6代会長に就任した。

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