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【一聞百見】ベビースター誕生60周年 育ててくれた地元に恩返し おやつタウン社長、松田好旦さん(71)

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「頭は“これから”に向いています」と話す松田好旦さん =津市(沢野貴信撮影)
「頭は“これから”に向いています」と話す松田好旦さん =津市(沢野貴信撮影)
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 誰もが知っている菓子「ベビースターラーメン」の製造販売元「おやつカンパニー」は、津市郊外に本社と工場を構える。今夏、その隣に体験型テーマパーク「おやつタウン」がオープンした。同社会長の松田好旦(よしあき)さんが「育ててくれた地元への恩返し」と私財を投じて建設したのだ。そこには、最高のものを作る、やるからには必ず成功させる、という「企業家魂」も込められている。(聞き手 編集委員・粂博之)

■コバンザメにはならない

 津市中心部からクルマで約30分の丘陵地。工業団地の一画に「おやつタウン」はある。7月20日にオープンし、8月31日に来場者数10万人を達成した。年間で40万人来場、売上高12億円を目指している。「厳しめの目標ですが、達成できそうです」と話す松田さんの表情にあるのは安堵(あんど)の色ばかりでもない。「頭は『これからどうしていくか』の方に向いています。オープンは一つのステップに過ぎません」

 構想は20年以上前にさかのぼる。ベビースターは子供に人気で売れ行きは安定、キャラクターの認知度も高い。工場見学には年間約2万人が訪れる。それなら「体験型テーマパークを作ろう」。企画書をまとめ、三重県内で立地場所も物色した。一番の観光スポットである伊勢市、サーキットで有名な鈴鹿市、大型リゾート施設がある桑名市…。有名どころに依存する“コバンザメ商法”を考えたが「それでは埋没してしまう」と思い直し、現在の「何もない辺鄙(へんぴ)な土地」を選んだ。全国で販売するベビースターは、すべて津市の工場で作っている。一方、同市は観光スポットに乏しい地域。「ここには工場とテーマパークしかない」もうたい文句になると見込んだ。

今夏オープンした体験型テーマパーク「おやつタウン」 =津市(沢野貴信撮影)
今夏オープンした体験型テーマパーク「おやつタウン」 =津市(沢野貴信撮影)
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 ただ当時は「持っているエネルギーの97%」をおやつカンパニーの経営に使っていたし、もうかるかどうか、本業に貢献するかどうか分からないテーマパークに会社の利益をつぎ込むことなどできない、と踏みとどまった。道が開けたのは平成26年。同族企業からの脱皮と海外展開を目的に、米投資ファンド、カーライル・グループの出資を受け入れ、業務提携したことで歯車は回り出した。創業家2代目の松田さんは、保有株式をカーライルに譲渡。その結果、テーマパーク開設に必要な資金を手にした。

 「準備はしっかりしていたので、すぐに動き出すことができました」。27年にテーマパーク運営会社を設立し、29年におやつカンパニーの社長から会長に就くと、テーマパークに注力することを宣言。「エネルギーの97%」を夢の実現に注ぎ込める態勢を整えた。

「簡単にまねできないものばかり」という松田さん =津市(沢野貴信撮影)
「簡単にまねできないものばかり」という松田さん =津市(沢野貴信撮影)
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■目標は子供の満足度100%

 万華鏡をモチーフにしたトンネルが来場者を迎える「おやつタウン」。色とりどりの光があふれるトンネルで、子供たちの歓声が弾ける。その姿を眺めながら、運営会社社長の松田さんは「もっと色を強くしたいですね。くっきりした方がいい」と細部にまで目を光らせる。私財を投じてつくったパークだ。「どんどん改良していきますよ」。建物は2階建て延べ床面積約4千平方メートル。オリジナルの風味のベビースターラーメンを作れる体験コーナー、国内最大級の屋内型アスレチック施設、ベビースターを使ったメニューをそろえた飲食コーナーなどで構成する。総投資額は約35億円。

 松田さんのこだわりが垣間見えるのが、飲食コーナーだ。鶏の唐揚げは人気店にこっそり教えてもらったレシピを使い、それぞれの料理のトッピングなどに用いるベビースターの味は商品とは少しだけ変える、といった工夫で「簡単にまねできないものばかり」という。味だけでなく見た目も子供が楽しめるように細心の注意を払う。「子供たちが百パーセント満足できる」施設をつくることが目標。実現には、プロのノウハウも必要だった。東京ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランド、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)といった名だたるテーマパークから人材を招き入れた。

 「それぞれの感性を発揮してもらう」ことを重視したという。「ただし任せっきりにはしません。任された側は自分たちの考えでいつの間にか妥協してしまいがちです。それでは私の理想は実現できない。彼らの尻をたたいています」。そのうえで「肝心なことは相談しない。自分で決める」。何を任せ、どの部分で自分の意見を押し通すのか、簡単に割り切れるものではない。これまでの会社経営で身につけた「動物的な感覚」で手綱をさばく。

新商品の打ち合わせをする松田好旦さん(左) =津市(沢野貴信撮影)
新商品の打ち合わせをする松田好旦さん(左) =津市(沢野貴信撮影)
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 夏休みシーズンにオープンし、上々の滑り出しをみせたところで、視線はクリスマスシーズンに向かう。飾り付けもそろそろ考えなければならない。1年目は、やるべきことが山積みだ。パーク内を歩いては来場者の様子を観察し、手を加える点はないか考え続けている。「体験コーナーは予想以上の反応」「飲食コーナーは少し狭い」とみて、来年の6月には増築したいという。一方で、パークを誘致したいとの声もかかり始めた。「ここよりも少し小さな規模にしますが、大阪と関東で検討しています。訪日観光客も取り込みたい」

ベビースターラーメンのキャラクターをデザインした大型の滑り台 =津市の「おやつタウン」
ベビースターラーメンのキャラクターをデザインした大型の滑り台 =津市の「おやつタウン」
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■「すごいパーク」と言わせたい

 「少子化と競争激化で、菓子業界は今が一番厳しい時代かもしれません」と松田さんは言う。創業家の2代目として経営の中枢を歩んできた。入社前後の高度成長期は子供も多く「作れば売れるという感覚でした」。その後、景気の変動はあっても、安価な菓子はさほど影響を受けなかったという。「子供にとっての菓子は、なくてはならない癒やしの商品」だからだ。子供のころに親しんだ味は、大人になっても忘れがたく、その子供にも伝えられていく。

 今年はベビースター誕生60周年。人気を保っているとはいえ「消費者はやはり価格にシビアになってきた」と楽観はしていない。おやつカンパニーが平成26年に米投資ファンド、カーライル・グループからの出資を受け入れたのも、経営の活性化、海外展開が狙いだ。29年には初の海外拠点として台湾工場を完成させた。カーライルが保有するおやつカンパニーの株式を売却し、投資利益を回収する「出口」は、この夏とみられていた。だが、1年ほど延長する見通しだ。パークがおやつカンパニーの企業価値をどれだけ高めるか、見極めたいとの思惑があるとみられる。

 松田さんは、パークは「第一に育ててくれた地元や子供たちに感謝し、恩返しするためのもの」としたうえで、おやつカンパニーの「側面支援にもなる」とみている。ベビースターを宣伝し、イメージアップを図る。パークのイメージをどう打ち出すか。広告代理店は、CMキャラクターに地元出身の有名人を推してきたという。だが松田さんは一蹴し、フィギュアスケーターの浅田真央さんの起用を決めた。「あらゆる年齢層に人気が高い」というごくシンプルな理由だ。

 「こんな辺鄙な場所にある小さなテーマパークに、こんな有名人を使うなんて、普通はあり得ないですよ。でも個人で作った施設だからできる」パーク運営会社は松田さんが個人で設立したため、おやつカンパニーと資本関係がなく、損失が出ても累を及ぼすことはない。思い切った手を打てるのだという。だからといって採算度外視というわけではない。パークの魅力を維持するには再投資が必要で、そのためには安定した収益が求められる。

 一番聞きたくないのは「やっぱり失敗したか、そらみろ」。寂しいテーマパークなど想像したくもない。人に言わせたいのは「すごいね」だ。「来場者が多くて、忙しいらしい」「なぜ?あんな辺鄙な場所で」「じゃあ、行って見てみよう」という口コミの流れを作りたいという。噂にたがわない、期待に応えられるだけのパークになるよう磨きをかけていくつもりだ。

     ◇

【プロフィル】松田好旦(まつだ・よしあき) 愛知学院大大学院修了。名古屋市の大手菓子卸売会社を経て昭和49年、松田食品(現おやつカンパニー)入社。専務、副社長を経て平成元年に社長。27年にテーマパーク運営会社「おやつタウン」を設立し社長に就任。津市出身。71歳。

【用語解説】おやつタウン

 津市森町1945の11。入園料は大人700円、子供(4~12歳)450円。アスレチックは500円から、オリジナルのベビースターを作る体験コーナーは800円など。物販コーナーでは、キャラクターグッズや全国各地の名産の味でアレンジしたご当地ベビースターラーメンなどを販売している。隣のおやつカンパニー久居工場の見学は無料。

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