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【ビジネス解読】アフリカ豚コレラで中国、米国からの豚肉輸入急増

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 世界最大の豚肉消費国である中国で、アフリカ豚コレラ(ASF)が猛威をふるっている。豚肉価格の高騰を受け、中国当局は政府備蓄の豚肉を市場放出するなど対応に追われている。貿易交渉協議で米国から譲歩を引き出したい習近平政権は、米国産豚肉の輸入を拡大し、トランプ米大統領から譲歩を引き出しながら、中国国内の豚肉価格も引き下げる「一石二鳥」の策を描く。ただ、市民は犬やウサギの肉を代替として消費しはじめるなど、豚肉不足は相当に深刻だ。

 中国江西省万安県の地方都市にある食堂にはメニューがなく、客は直接調理室で野菜や肉を選び、好みの調理法を指定する。だが、最近は厨房に豚肉はなく、店員は犬の肉を勧めるという。伝統的な料理ではあるが、最近はあまり人気がない。それでも、高騰する豚肉に比べ、求めやすくなっているようだ。同県内のスーパーでは、ウサギの肉も特売され、同じ価格で買える豚肉は、ほとんど肉がついていない足の骨ぐらいだという。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)が22日、現地の様子を伝えた。

 ASFは日本でも感染が拡大している豚コレラとは別の病気で致死率が高く、ワクチンもないため、封じ込めが難しい。アジアでは昨年8月3日に中国で初めて発生が確認されて以降、感染地域が拡大している。豚コレラと同じく人には感染しないが、1頭でも感染すれば同じ養豚場の豚をすべて処分しなくてはならない。

 中国国家統計局は、今年8月の消費者物価指数の発表の中で、豚肉価格が前年同月比46・7%上昇と、大幅に値上がりをしているとした。「計画経済」を看板とする中国政府は、養豚業者支援のさまざまな施策を打ち出す一方、9月19日に政府が備蓄する豚肉を市場放出すると発表。10月1日の国慶節(建国記念日)の大型連休前に、中国の消費者にとっては食肉の中でも「繁栄」など特別の意味合いを持つ豚肉の供給拡大と価格引き下げに躍起となった。

 一方、米国農務省(USDA)は、2020年末までに、中国の食肉用の豚が感染前より4割減少し、米国産豚肉の対中輸出が急増するとの見方を示した。実際、S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスによると、8月の対中豚肉輸出は5万6700トンで同月として過去最高を記録した。米トランプ政権が「貿易戦争」を中国に仕掛ける前の2016年8月の倍以上にあたり、今年1~8月の輸出量は昨年実績をすでに超えた。

 米国の養豚業者は、肉質をコントロールするため、飼料にラクトパミンと呼ばれる薬剤を混合する。だが、中国ではこの薬剤が禁止されているため、中国向け輸出増を見込んで薬剤混合をやめる米養豚業者も現れているという。

 ASF問題は、米中の貿易摩擦の過熱と同時期に深刻化した。中国が米国の対中制裁関税(第1弾)に対する報復措置として、豚肉を含む米国の畜産物など約340億ドル規模の米国産品の輸入に25%の追加関税を賦課したのは、感染が発覚する約1カ月前の昨年7月6日だ。

 自らの「ディール(取引)」手腕を自負するトランプ米大統領は今年9月11日、自身のツイッターで、中国に対する追加関税税率を25%から30%に引き上げる時期について、国慶節の10月1日から15日へ2週間延期を表明。中国国営新華社通信は、米国からの一定量の大豆や豚肉などの輸入について、「追加関税賦課の適用除外措置を講じる」との政府方針を報じた。緩和措置の詳細は不明ながら、関税引き下げにより、中国の消費者は米国産豚肉を安く購入できるようになる。

 報復関税発動で“殴り合い”を続ける米中は、豚肉の輸出入で「ウィンウィン」の関係を構築し、貿易交渉でも建設的な議論を加速できるのだろうか。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は10月7日付で、そんな楽観論を牽制するように、ASFの深刻さを指摘した。中国政府は9月中に計3万トンの豚肉を政府備蓄から市場に放出し、全体では20万トンの備蓄体制があるとして、消費者不安の払拭に努めている。だが、中国で消費される豚肉は年間5000万トンで、世界で消費される半分の豚肉は中国人の胃袋に入っている。また、中国の豚肉のほとんどが国内産でまかなわれている現状を考えると、今年だけで3割、1600万トンの豚肉供給量の減少が、政府備蓄の放出や米国からの輸入で賄いきれるわけはなく、価格下落効果も見込めないのが実情だ。(経済本部 吉村英輝)

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