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【一聞百見】変わる医学部入試 医療の担い手を送り出して20年 河合塾近畿地区医学科進学情報センター長・山口和彦さん(54)

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約1700人の医学部受験生を送り出してきた河合塾“名物チューター”の山口さん。「合格者ひとりひとりの喜ぶ顔が浮かびます」 =大阪市北区(須谷友郁撮影)
約1700人の医学部受験生を送り出してきた河合塾“名物チューター”の山口さん。「合格者ひとりひとりの喜ぶ顔が浮かびます」 =大阪市北区(須谷友郁撮影)
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 間もなく受験シーズンを迎えるが、来年度から大学入試が大きく変わるのをご存じだろうか。知識だけでなく「思考力・判断力・表現力」や「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」なども評価される。その流れに対応し、一足先に入試改革に取り組んでいるのが全国の大学の医学部だ。そのねらいは何か。20年以上にわたって医学部に受験生を送り出している大学受験予備校の名物チューター、河合塾近畿地区医学科進学情報センター長の山口和彦さん(54)に、医学部受験事情や入試改革への期待などを聞いた。(聞き手 編集委員・北村理)

■医学部入試 面接で適性はかる

 --新入試では受験生を多角的、総合的に評価するとされますが、医学部入試ではすでに面接や集団討論が実施されていますね

山口 医学部がある国公立、私立大学は全国で82校ですが、1校を除いて面接試験を課してきました。残る1校も来年度は実施します。やはり人の命を左右する職業ですからね。大学は面接を通してその人の適性をみたい。いくつかの大学の入試要項に「不適格と判断されれば不合格となることがある」と記載があります。医学部ならではの選考基準でしょう。

 --討論や面接の内容は

山口 複数のテーマを示して集団討論させたり、仮想の場面を示してどのように対応するのかをプレゼンさせたり。ただ工夫された社会性を問うような面接試験はまだ多くありません。

河合塾のウェブサイト紹介チラシに登場する「やまさん」のキャラクター。受験生のよき相談役ぶりを発揮する
河合塾のウェブサイト紹介チラシに登場する「やまさん」のキャラクター。受験生のよき相談役ぶりを発揮する
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 --一般的な入社試験のように質問をぶつけて反応をみるケースが多いですか

 山口 将来医師になる適性をダイレクトに知りたいということでしょうね。親の仕事や尊敬する人物を聞かれたり、女子受験生の場合は出産など将来の人生設計にかかわることを聞かれたりすることもあるようです。こうした質問をされると、受験生は実力以外で合否が判定されるのかと不安になりますね。

 --女子や多浪生に不利になった入試不正が大きな社会問題になりました

 山口 面接の評価は国公立では6割強が点数化していますが、ほとんどの私立は得点化を明示していません。入試改革で受験生に社会性を求めるというのなら大学も社会性のある評価を目指すべきでしょう。

河合塾在籍25年のうち20年以上、医学部受験生の指導に当たる。「数ある予備校のなかでも珍しいと思います」 =大阪市北区(須谷友郁撮影)
河合塾在籍25年のうち20年以上、医学部受験生の指導に当たる。「数ある予備校のなかでも珍しいと思います」 =大阪市北区(須谷友郁撮影)
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■地域医療 問われる「本気度」

 --最近の受験生気質についてどう思いますか

 山口 人の命を預かる医師になるために医学部受験を目指しながら、社会に役立とうという志があまり感じられず、自分の将来という狭いキャリアのことにしか関心のない受験生がいます。それが一昔前に比べ、増えているように思うのです。以前は、病気で困っている人を助けたいとか、医学に貢献したいという理想を持った受験生は少なからずいました。

 --なぜでしょう

スタッフと談笑する山口さん(右から2人目)。「悩める受験生に心強い存在でありたい」という =大阪市北区(須谷友郁撮影)
スタッフと談笑する山口さん(右から2人目)。「悩める受験生に心強い存在でありたい」という =大阪市北区(須谷友郁撮影)
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 山口 例えば最近、社会人を招いてその経験を中高生に聞かせるキャリア教育が盛んです。本来は社会にどう役立つのかという観点から、「仕事とは何か」を考える機会のはずです。ところが、生徒は単純な職業選択の機会の一つととらえてしまう。そんな弊害が出ているのかもしれません。社会にいかに貢献するかということは、職業を選ぶ前提として重要なはずです。

 --大学医学部の教員から聞いた話ですが、さほど志がなく医学部に入学すると、その後勉強しなくなったり、忙しい救急や外科、産科・小児科など負担が大きいとされる科を避けたりする傾向もあるようです

 山口 実は裏返しの現象として、ここ数年の好景気のせいか、医学部の受験者数が減っています。難しい医学部受験で頑張らなくても、ほかの職業で高収入が得られるというような判断があるのかもしれません。

 --医療環境の改善が求められている僻地(へきち)や地方よりも、都市部の病院に医師が偏在するという問題も指摘されます

 山口 大阪ですらそうです。そのため国公立では、一定期間の地方勤務を前提に「地域推薦入試」や「地域医療枠」を設ける大学が増えてきました。こうした入試にチャレンジするためには、地域医療にどこまで貢献できるのか「本気度」が問われます。その都道府県の医療政策も理解しておかなくてはいけません。こうした指導は高校ではしませんので、私が高校に出向いて面接指導をすることもあります。

 --受験テクニックの伝授というよりは、地域医療を支える人材育成への貢献といってもいいですね

 山口 そういえるかもしれませんが、本来、その地域で必要な医療人材の育成は、行政がもっと前面にでて、大学など教育機関と連携してやるべきことだと思います。

兵庫県内で開催された地域に根付く医師育成の教育プログラムで講演する山口さん
兵庫県内で開催された地域に根付く医師育成の教育プログラムで講演する山口さん
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 --医療への思いは長年の経験からでしょうか

 山口 医学部受験生は医学部しか受験しません。文系のようにいくつも学部を並べて決めるというようなことはないのです。人生をかけて予備校に来ているわけですから、毎年約400人以上の学生相手に真剣勝負です。予備校だからといって医学部に合格したらそれで終わりではなく、やはり社会に役立ってもらいたいという思いがあります。

「医療の人材育成は教育機関だけでは難しい。地域をあげての取り組みが必要」という山口さん =大阪市北区(須谷友郁撮影)
「医療の人材育成は教育機関だけでは難しい。地域をあげての取り組みが必要」という山口さん =大阪市北区(須谷友郁撮影)
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■100歳時代の教育、新しい発想で

 --医療は今後、さらに高度化・複雑化し、診断や治療はAI(人工知能)やロボットが担う一方で、多職種連携が進むとされています。医学、歯学、薬学、看護、介護やリハビリ、心理士などですが、求められる医師像も変化しますね

 山口 100歳時代になると、病気を治すだけではなく、長期的に患者の生活の質をみる目や判断力も必要でしょう。病院では多職種との連携、在宅医療では病院・診療所・訪問看護・介護事業所などとの連携が必要といわれています。つまり、これからの医師には幅広い知識とコミュニケーション能力が求められるのです。

 --なるほど

 山口 そういった背景を理解しているかどうか、受験生も面接で問われることがあるようです。ある大学の自己推薦文の課題では「ダイバーシティ(多様性)と寛容について、経験や将来医療人として生きていく立場から述べよ」というものもありました。

 --とはいえ入試だけではかるのは難しいですね

 山口 ですから新入試は知識だけでなく「思考力・判断力・表現力」や「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価するというわけです。

 --学校側の受け止め方はどうですか

 山口 高校も保護者も、どうしても新入試のテクニカルな話に関心が偏りますね。教育改革では学校・家庭教育にも変化を求めていますが、そこまで理解がいたっていない気がします。ですから、講演では「変化の激しい時代には、新しい発想で自分のあり方を考えるための教育が求められています」と、踏み込んで話すようにしています。

20年にわたり受験生と苦楽を共にした経験をまとめた山口さんの受験指南書
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 --医療の多職種連携が進んで多様な人材が幅広く求められる。となると、社会全体で人材育成に取り組む必要がありそうです

 山口 そうですね。この夏、興味深い体験をしました。医師が少ないといわれる兵庫県北部で開催された医師養成合宿で講演したのです。地域における人材育成を考える民間団体の主催でした。地元出身の医師養成を目指し、医師不足を解消する「医師の地産地育」の試みです。

 --地産地育ですか

 山口 地元の中高生が参加して、地元出身の医師から話を聞いたり、地域医療について理解を深めるグループワークに熱心に取り組んだりしていました。この合宿は医師養成が目的ですが、医師だけでなく地域医療を担う他の多くの職種も対象に、こうした取り組みを進める必要があると思います。

 --いわば“幼なじみの関係”を保ちながら、それぞれが将来、地域医療を担うようになればいい

 山口 われわれ予備校も、今後の教育改革の潮流に乗って、100歳時代を迎えるための社会変革の一翼を地域社会の一員として担う。そんな役割を期待されるように頑張りたいと思います。

     ◇

【プロフィル】山口和彦(やまぐち・かずひこ) 昭和40年京都市生まれ。大学卒業後、大阪府内の高校で社会科講師。一般企業を経て、平成4年河合塾入社。大阪、京都の各校で東大、京大などの国公立や関関同立などの私学を志望する受験生を指導。医学部受験生の指導は約20年におよび、約1700人を送り出した。その経験を河合塾ホームページ「医の知(いのち)の森」、産経新聞のニュースサイト「産経ニュース」で「医学部受験の現場から」として連載中。著書に『どうしたら、できるように、なるだろうか 医学部合格のための習慣』(平成31年、同塾刊、非売品)。

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