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【高論卓説】減速させるな、印象評価の数値化 山口博

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会見に臨むリクルートキャリアの小林大三社長(左)=8月26日、東京都千代田区
会見に臨むリクルートキャリアの小林大三社長(左)=8月26日、東京都千代田区

 就職情報サイト「リクナビ」が、利用学生7万人のデータを用いてAI(人工知能)活用で算出した、内定辞退率予測サービスを38社に販売。しかし、8000人の学生からの同意が不十分だったことが分かり、サービスが廃止されるに至った。

 利用企業は次々と露呈され、異口同音に「評価には使用していない」「既にデータは破棄した」と説明。リクナビを運営するリクルートキャリアの小林大三社長は「新卒者の就職支援事業を抜本的に見直す」と謝罪した。言うまでもなく今回の問題は、個人情報取り扱いの観点から極めて深刻だ。リクナビのサービス廃止、就職支援事業の見直しも当然だろう。

 だからといって、この問題によって、内定辞退率予測サービス自体の開発や提供が永遠に閉ざされるようなゼロサムの判断に陥ってはならない。このサービスは、内定辞退率予測という、これまで担当者の印象評価に頼るしかなかった曖昧な領域を、客観的な数値で予測することに挑んだ取り組みだからだ。個人情報取り扱いが万全にされたサービスとして再び提供されることを望むばかりだ。

 印象評価にとどまっている領域の最たるものが、能力評価だ。業績評価は売り上げや利益など数値で捉えられるものも多いが、能力評価となった途端に、評価方法が、「Aさんは能力がある」「Bさんは能動的だ」「Cさんは実行力がある」というような上司の印象評価にとどまってしまう。

 その上司がどう思っているかという評価なので、1次評価者と2次評価者で見解が異なっても、「こう思う」「ああ思う」という印象のぶつけ合いという、いわば空中戦になり決着がつかないことも多い。どうやら能力評価は数値化できないという諦観さえ生まれている。

 しかし、実は、能力を数値で捉えるとても簡単な方法がある。それも、能動性、迅速性、理解力、実行力などの能力要素を数時間くらいの観察で見極められる方法だ。

 例えば、会議や研修で、自発的な発表をしたかしなかったかのデータを集積すれば能動性と受動性が数値化できる。全員が実施すべきことをどの順番で行ったかで迅速性と慎重性が分かる。進行役が説明した通りのアクションをしたかしなかったかにより理解力があるか独創力があるかを判明する。何番目に発言するかという計画と、実際の発言の順番のギャップが小さければ小さいほど計画実行力が高いとみることができるし、大きければ譲歩する傾向が強いと推定することができる。

 このように申し上げると、「たまたまその順番で発言しただけだ」「普段はその能力を発揮しているが計測された際にできなかっただけだ」というコメントが返ってくることがある。1データだけで捉えれば、大いに誤差があるだろうし、普段の能力発揮と乖離(かいり)している可能性もある。しかし、データ数を増やせば、かなりの程度、確からしい傾向値を得られる。

 自動車業界の経営者の方々に対して、8プログラム16時間の経営実践スキル向上プログラムを実施した。本来、目的はスキル向上であるが、そこで実施した延べ212回の演習結果を集計し、能動性、迅速性、理解力、正確性、計画実行力、スキルレベル、成長性を数値化した。「たまたまこうだった」ということを何回も同じように繰り出すことができる人は皆無なので、普段の姿が見えてくる。私たちのさまざまな行動を数値化することは可能だ。印象評価を数値評価し、曖昧なものを明確にし、空中戦の議論を廃止するための取り組みを減速させてはならない。

やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役、慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、平成29年モチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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