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【中国軍事情勢】急増する中国の脅威 「待ったなし」だった台湾のF16V調達

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8月中旬、台北で開かれた展示会に登場したF16Vの模型。燃料タンクを増設した胴体背部の膨らみが特徴(台湾・国防部提供)
8月中旬、台北で開かれた展示会に登場したF16Vの模型。燃料タンクを増設した胴体背部の膨らみが特徴(台湾・国防部提供)

 トランプ米政権は8月中旬、台湾に戦闘機F16Vを売却すると議会に通知した。台湾への戦闘機供与の決定は1992年9月以来、27年ぶり。台湾は当初、「第5世代」のステルス戦闘機F35Bの売却を求めていたが、「第4世代」の最新版で妥協した形だ。背景には、台湾には最新鋭兵器は供与しない米国の慣例に加え、急増する中国の脅威の前にF35を待ちきれないという台湾の事情がある。(台北支局 田中靖人)

■報道先行、異例の発表

 今回の売却は、トランプ政権が議会に「非公式に通知した」とする米メディアの報道を、トランプ大統領が追認する形で公になった。米国が、台湾を含む海外へ武器を売却する際の多くを占める対外有償軍事援助(FMS)は、国務省が形式的に議会に通知し、その内容を国防総省の国防安全保障協力局が公表するのが通常の流れだ。だが、トランプ氏が売却許可を明らかにした18日(現地時間)の段階で、両省の公式発表はなかった。

 一方、トランプ氏の発言を受け、台湾の総統府は「感謝の意」を、中国外務省は売却計画の「即時取り消し」を求める声明をそれぞれ発表。中国は「一切の結果(の責任)は米国が負うべきで、中国側は必要な措置を取る」と警告した。

■飛行連隊を増強へ

 台湾の空軍司令部は16日、フェイスブックで、今回要求したのは、F16の最新型のV型(ブロック70)66機だと公表。台湾が保有するF16A/Bと異なり、レーダーの性能やエンジンの出力、航続距離などが向上すると明らかにした。

 F16A/Bは1992年にブッシュ(父)政権が150機の売却を発表。97年に1機目が引き渡され、2002年に最後の部隊が完成した。

 その一方、台湾側は将来の戦闘機の退役を見越し、2003年から新型機の売却要求を開始。陳水扁政権(00~08年)下でF16C/D66機の売却を正式に要求しようとしたが、当時のブッシュ(子)政権は、要求書の受け取りすら拒否した。

 オバマ政権は11年、F16C/Dの新規売却ではなく、1992年に売却したF16A/Bの能力向上改修を決定。改修は2017年から始まり、「質」の面では一定の改善をみている。

 米台商業協会の10年の報告書によると、台湾が当時保有していた戦闘機は、F16が145機(購入時より少ないのは墜落などで失われたため)▽自主開発の「経国」が126機▽フランスから購入したミラージュが56機▽米国製のF5が60機の計390機。このうち「第3世代」のF5は15年までに全機退役、25年には経国とミラージュも退役し、残るはF16のみと10年比で保有機数が4割を切ることが見込まれた。

 実際には経国に寿命延長改修が行われ、練習機となっているF5の退役も先延ばしされているが、「量」の面ではジリ貧なのが現状だ。

 空軍司令部は今回、F16Vが供与されれば新たに戦術戦闘機連隊を編成するとし、ミラージュの後継機とするとの観測を当面は否定した。数的には純増となり、新連隊はF5が駐留する南東部・台東の志航基地に配備され、手薄となっていたバシー海峡方面の防空・警戒を担当する見通しだ。

■現実の脅威を前にF35B断念

 台湾空軍に対する脅威は、台湾海峡に面する中国の東部・南部戦区に配備された600機(米国防総省年次報告書)の戦闘機ばかりではない。

 台湾の国防部(国防省に相当)は、中国が台湾正面に配備する短距離弾道ミサイルや巡航ミサイル約1500発により、戦闘の初期の段階で各地の滑走路が破壊されることを想定。このため、新たに購入する戦闘機は、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)のF35Bが望ましいと考えていた。

 厳徳発(げん・とくはつ)国防部長(国防相)は今年3月、立法院(国会)で、F35の売却を米国に打診したと答弁。その後、正式には要求していないと訂正しており、検討はしたもようだ。

 ただ、米国はこれまで、台湾には一般的に最新型ではなく“型落ち”の兵器を供与してきた。近年、攻撃ヘリAH64アパッチについては最新型のE型「ガーディアン」を供与するなど改善はみられるものの、第5世代のステルス戦闘機は「高根の花」との見方が強かった。

 中央通信によると、国防部の関係者は、今回のF16Vはエンジンの出力が従来型と比べ18%向上することから、離陸距離を従来の520メートルから50メートル以上、短縮できると説明している。F35Bは断念しても「短距離離陸」だけは実現したと取り繕う意味合いがあるとみられるが、やや苦しい説明だろう。

 別の国防部の元高官は、産経新聞の取材に、F35Bは現在も開発中で将来の性能が見通せない上、「もし売却が認められるとしても、すでに多数の購入先が決まっており、台湾の順番は10年以上後になる」と指摘。地元メディアも、操縦士の訓練期間などを含めると、部隊として実戦に投入できるようになるまで18年間かかると予測している。

 それに比べ、F16Vはすでに保有するF16と部品や修理の面で共通点が多い。台湾メディアは、早ければ20年にも引き渡しが始まると見込んでいる。

 防空態勢に穴の空けられない台湾にとり、実戦化までの時間が短いF16Vは、合理的な選択だったといえるだろう。

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