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【ビジネス解読】変わる日本人の仕事観 背景には正社員の「不自由さ」

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金融庁が入る中央合同庁舎第7号館
金融庁が入る中央合同庁舎第7号館

 正社員となって終身雇用で会社に勤めることが理想とされた日本人の仕事観が、変化し始めている。背景の一つが正社員としての雇用にまつわる不自由さ。異動や転勤などで生活が大きく左右される正社員ではなく、より自由な働き方を選ぶ志向も強まっている。また、国際競争にさらされる企業の側も、終身雇用の維持が難しくなっていると指摘する。ただし、正社員に代表される日本型雇用は日本企業の強みでもあり、働き手にとっても正社員の安定性は魅力。多様かつ不安のない働き方の実現のための仕組みが求められている。

 「自分で仕事を選んでいるという気持ちが時代にマッチしているのでは」

 インターネットサービス開発などの仕事をプログラマーなどフリーランスのIT人材に紹介する事業を手掛ける「レバテック」(東京都渋谷区)ITソリューション事業部の三井賢太事業部長はこう話す。

 レバテックは自社に登録するIT人材に、企業から寄せられたサービス開発などの案件を紹介。企業との委託契約を成立させている。IT人材の側は賃金などの条件を考慮しながら自分が挑戦してみたい案件を選ぶなど、キャリアアップを見据えた柔軟な働き方が可能だ。現在の登録者数は数千人。平成17年のサービス開始以来の累計では10万人にのぼる。

ミスマッチの解消

 フリーランス志向の背景にあるのは、企業で働く正社員が「ミスマッチ」に悩んでいる現実だ。プログラマーのような専門性の高い職種でも、任される仕事は、実際にプログラムを書く業務から大規模なシステムの設計、顧客企業との折衝まで多岐にわたる。三井氏は「正社員として就職してから数年でフリーランス転向を選ぶIT人材も多い」と話す。

 企業がこぞってインターネットサービスを打ち出す中、IT人材への需要は強く、フリーランスの待遇は正社員に見劣りしない。機械学習関連のIT人材なら月額75万~120万円の報酬を受け取ることも可能だ。

 家庭との両立を見据えたフリーランス転向もある。ある40代のIT人材のケースでは、大手システム開発会社の正社員として遠方の顧客企業に常駐し、情報管理のため携帯電話も持ち込めない職場で働いていた。しかし、家族が要介護状態となり、フリーランスになることを決意。現在は、自宅近くの緊急時の連絡が取りやすい職場で働いているという。

終身雇用の強み

 「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきたのではないか」

 日本自動車工業会の豊田章男会長は5月13日の記者会見で、日本型雇用維持の難しさを吐露した。トヨタ自動車のトップでもある豊田氏の発言は、日本人の働き方が転機を迎えていることの表れにみえる。

 日本の労働慣行では、経営不振などを理由とした正社員の解雇には、人員削減の必要性や解雇を避けるための努力を十分に行ったかなどを示す必要がある。経営者視点に立てば、経営環境の急変で事業再編が必要になっても迅速に対応できず、国際的な競争力を落とす要因になりかねない。

 ただし、日本企業は終身雇用の廃止を目指しているわけではない。長期間で人材を育成してノウハウを蓄積し、自社に貢献してもらう手法は日本企業の強みとされてきた。人事コンサルタントの秋山輝之氏は「トヨタのような企業ほど、日本型雇用の社会的重要性を理解している」と指摘。必要なのは固執するでも否定するでもなく、時代に合わせた終身雇用のあり方を考えていくことだとみる。

正社員人気

 総務省の労働力調査によると、労働者に占める正社員の割合は平成30年で62・1%まで減ったが、定年退職後の高齢者が契約社員などとして働き続けることが多くなったという要因もある。逆に20~29歳の若い世代では全体の4分の3程度が正社員で、その割合は25年を底として上昇傾向だ。働き手の間でも「安定して働ける正社員になりたい」との要望は根強い。

 企業は経営環境にあわせた柔軟な雇用調整とともに、優秀な働き手を確保する必要がある。一方、働き手は子育てや介護といった人生の節目ごとに自分にあった仕事を求めつつ、解雇されにくい安定的な立場で働きたいとも望む。

 企業や働き手の多様な要望は、正社員のような一つのスタイルだけを追及していては実現しない。中央大経済学部の阿部正浩教授は「一つの会社で安定的に働くだけでなく、複数の企業で切れ目なく働くことで得られる安定もある。それを実現しやすい仕組みを社会全体で構築する必要がある」と話している。(経済本部 小雲規生)

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