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【ビジネス解読】欧州狙うEV主導権 仏が仕掛ける野望

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EV電池連合の結成で握手するルメール仏経済・財務相(左)とアルトマイヤー独経済相=5月2日、パリ(ロイター)
EV電池連合の結成で握手するルメール仏経済・財務相(左)とアルトマイヤー独経済相=5月2日、パリ(ロイター)

 欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)との経営統合交渉や日産自動車との企業連合のあり方をめぐり、ルノーの筆頭株主として“影の主役”を演じるフランス政府。注目の合従連衡劇の舞台裏で、その仏政府が、自動車市場の競争図を塗り替えるもう一つの大仕掛けを進めている。その野望が実現すれば、韓国のある主要産業の地盤沈下を招きかねない。

EU電池版エアバス構想

 仏政府の野望は、白紙となったルノーとFCAの交渉で、仏政府がFCAに突きつけた統合条件で、「次世代電池供給への参画」という項目に隠されていた。他の条件に比べると一見、末節にも映るが、実は極めて重要な意味を持っている。

 それを読み解くカギは5月初め、仏政府がドイツ政府と行った、電気自動車(EV)向け電池供給の仏独連合結成の共同会見にある。

 「欧州は技術の輸入に頼るわけにはいかない」

 ルメール仏経済・財務相は決意をこう語り、アルトマイヤー独経済相は「過去に例のないプロジェクトだ」と述べた。米国の独壇場だった旅客機市場に風穴を開けるべく、仏独主導で設立した航空機大手に例えて「EV電池のエアバス」ともいわれる産業育成の連帯で、欧州連合(EU)の欧州委員会も後押しする一大プロジェクトとなる。

 車載電池は、現在の車のエンジンに当たる。車両の製造原価の約3割を占めるとされ、一回の充電で走行できる距離などEVの競争力の生命線ともいえる。

 だが、現状は最大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)、パナソニック、中国・BYD、韓国のLG化学とサムスンSDIといったアジア勢が車載電池の市場シェアの過半を占め、欧州勢のシェアは3%程度にとどまるという。

 仏独のEV電池版エアバス構想には、この市場の構図を打破し、欧州自動車大手がEV開発で自ら主導権を握り、アジアの電池各社への依存度を低下させる狙いがある。

 構想では、両政府の補助金を含め、官民で最大60億ユーロ(約7500億円)を投じ、2020年以降、工場を建設して高性能の電池を開発・生産。

 つまり、ルノーとFCAが統合すれば、主要国の仏独イタリアがそろい踏みし、“欧州大連合”の枠組みが整う。同時にFCAの米クライスラー部門を通じて世界2位の米自動車市場への影響力も確保することで、EU内でEV電池を一大産業に育成するという政策的な戦略の側面もある。

環境規制が後押し

 FCAの参画はお預けとなったが、2018年の自動車大手の世界販売台数をみると、ルノーや、独フォルクスワーゲン(VW)、仏PSA(旧プジョー・シトロエン・グループ)といった欧州大手の合計は約1860万台と、米自動車市場の年間販売台数(約1727万台)も上回る規模だ。

 もちろん、自動車各社の現在の販売台数すべてが直ぐにEVに置き換わり、電池の供給対象になるわけではないが、環境規制への対応で新車のEVシフトは世界的に加速している。

 特に問題なのが「CAFE(企業平均燃費)」規制だ。車種別ではなくメーカーの総出荷台数を加味した平均燃費(過重調和平均燃費)に規制をかける方式で、各社は新車販売の一定割合をEVに転換する必要に迫られている。

 最も厳しい欧州は21年から燃費・CO2排出規制の基準が段階的に引き上げられ、30年の規制水準は現在走っている車のほぼ半分をEVに置き換えないと達成できないともいわれている。このため、VWは既に30年までに総販売台数の40%以上をEVとする方針を打ち出している。

アジア各社に影響も

 電池価格の引き下げには量産規模が大きな威力を発揮するだけに、欧州自動車大手のEVシフトを追い風に、電池版エアバスが軌道に乗れば、アジアの電池各社には間違いなく大きな脅威になる。

 最も危機感を抱いている電池メーカーは韓国勢だろう。CATLやBYDには世界最大の中国自動車(約2800万台)と政府支援という強力な後押しが自国にあるの対し、韓国の国内自動車市場規模はわずか約180万台。自動車大手も現代自動車グループに限られるため、韓国の電池各社は欧州自動車大手向けに生産投資を拡大してきた。

 実際、VWの欧州事業は、電池調達でLG化学、サムスンSDI、エネルギー大手のSKイノベーションの韓国3社と契約している。自動車部品は、複数のメーカーから購入する分散調達が危機管理の基本のため、VWと韓国電池各社との取引関係は今後も続くだろう。だが、先行きは調達量の相当分が欧州資本の電池メーカーとなる電池版エアバス構想に流れる公算は大きい。他の欧州自動車大手も同様で、韓国勢は力を入れてきた欧州市場で割を食うことになり、EV向け電池ビジネスでシェア低下に直面する恐れがある。

 一方、電池版エアバスの出現には、日本もうかうかできない。仏独連合が量産を狙う次世代の全固体電池は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、パナソニックなどが「オールジャパン体制」で開発をリードしてきた分野だからだ。

 規制を背景にEVシフトで欧州自動車各社が先行すれば、全固体電池の量産で巻き返される懸念もある。

 仏政府とルノーの日産の取り込みを狙う動きも気がかりだ。仏政府とルノーの影響力が、オールジャパンの一角を占める日産の電池技術の知的財産管理などに及べば、日本のEV戦略も揺さぶられかねない。(経済本部 池田昇)

全固体電池

 正極、負極、電解質がすべて固体の電池。車載電池で現在主流のリチウムイオン電池は可燃性の液体電解質(有機電解液)を使用するため、液漏れや発火の恐れがあるほか、高温・低温の温度変化の影響を受けるため、車の航続距離を伸ばすエネルギー密度の向上に限界がある。全固体電池はこれらの課題を解決できるため、電気自動車用電池の本命と期待されている。

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