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【一聞百見】存続危機の男子校「顧客満足度アップ」で大改革 興国学園理事長・興国高校校長の草島葉子さん(58)

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白を基調にした開放的な雰囲気の校舎で、授業の様子を廊下から見守る草島葉子さん=大阪市天王寺区の興国高校(南雲都撮影)
白を基調にした開放的な雰囲気の校舎で、授業の様子を廊下から見守る草島葉子さん=大阪市天王寺区の興国高校(南雲都撮影)
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 大阪の下町にある男子校-そんな汗臭いイメージを覆し、受験生が殺到する人気校がある。大阪市天王寺区の興国高校。京大など国公立大や医学部など理系の難関学部へも多く進学する一方、プロのJリーガー、公務員就職など、多彩な生徒の進路を実現して、その学校経営の手腕が注目されるのが理事長・校長を務める草島葉子さんだ。受験生大幅減の危機も、学校をあげた大改革で乗り切った大阪私学界の“マドンナ”に話を聞いた。(聞き手 編集委員・北村理)

 ■白亜の校舎…母親が来たくなるような場に

 「ヤクザ映画の登場人物の母校としてロケの依頼があったこともある汗臭い男子校」という時代もあった興国高校。ところが実際に訪問すると、かつてのそんなイメージへの“期待”は見事に裏切られた。校舎は白色を基調とし、結婚式場といってもいいおしゃれなデザイン。女性理事長ならではのセンスかというと、そうでもなさそうだ。

 「将来、社会を背負っていく子供たちだからこそ、いつも背筋を伸ばして襟を正していてほしい。そして保護者、特に男の子の発育に影響が大きい母親が足を運びたくなる場でもありたい。また、教員は誰に対してもオープンマインドでいてほしい-。そんな学校からのメッセージです」

 そう話す草島さんの言葉から興国の教育を一言で表現するなら、「生徒も親も教員もお互い成長しあう場づくり」だろう。進学もスポーツも就職も、さまざまな分野で活躍する人材を幅広く輩出する男子校ならではの哲学である。

 そんな教育の成果を目の当たりにしたことがある。昨年末、プロサッカーのJリーグに同校生徒5人が内定し、晴れの会見が開かれた席での出来事だった。

 「3年間、いろいろあったけど、お母さん、本当にありがとう…」。一人の生徒が保護者や仲間の前で号泣した。この言葉は、学校や保護者が一緒になって成長を見守ってきた、3年という長い時間の蓄積を感じさせた。

 そのサッカー部は、全国大会出場経験はないが、過去10年で大学進学者も含め14人がプロ入団したことで知られる。指導者である内野智章監督の教育方針は「勝利より育成」だ。

 草島さんは「人生で壁を乗り越えてきた人を教員に採用します。そういう人が生徒の心に火をつけるのです」という。内野監督もその一人。病気でプロ生活を中断し、夢の続きを興国での教員生活に見いだしたのだった。

 草島さんは社会人経験を経て平成9年、祖父の草島惣治郎氏が大正15年に創立し、父・一氏が理事長・校長を務めていた興国学園の常任理事に就任した。

 ところが平成12(2000)年の入試で、例年2500人ほどいた受験生が半減するという危機に。周囲の女子校が共学校に変わり、男子の受験生が他校に流れたのだ。もともと商業学校だった興国高校は、商業科と普通科があったが、進学実績はあまりなかった。

 「有名大学に入学者が出たと思ったらスポーツで優秀な生徒だった…というような状態でした」

 そんな状況で、進学実績で他校と競うのは現実的ではない。そう考えた草島さんは、まずは門戸を広げて多様な生徒を入学させ、個性に応じた教育で成果を上げることに活路を見いだそうとした。危機からの脱却を図る、学校を挙げての大改革である。

 ■先代の個性大切『ONLY ONE教育』を発展

 「改革に着手した先代の校長(父の一氏)は、個性を大切にする『ONLY ONE(オンリーワン)教育』をうたい、温厚な人柄を教員らはみな慕っていました。その校長が『このままでは学校がつぶれる』と危機感をあらわにしたのです。改革に向けて一致団結することができました」

 また、草島さんがそれまで人材派遣・研修企業で培った経験も生きた。“顧客”である生徒や保護者の満足度をどう向上させ、教育効果をあげるのか。全教員を対象に意見を求めたのである。

 教員らはそれに応えた。「家庭とのかかわり」や「習熟度別」、「ITビジネス」「進学」「クラブ活性化」「国際化」といったテーマを掲げてプロジェクトチームを編成。経営側とともにプラン作りに取り組んだ。

 夏休みには、全教員が学校案内を手に400にのぼる中学校に足を運んだ。効果的だったのが、入学の手続き時から、教員が全生徒と向き合う習慣をつけたことだ。

 「教員は休み返上でしたが、こうした習慣を続けることで、保護者や生徒への対応力を高めていきました」。これぞ、顧客満足度の向上である。

 カリキュラムも、生徒の中学時代の成績をもとに、基礎から積み上げることを徹底した。難しいのは意欲、やる気を引き出すことだ。「勉強ぎらい、スポーツ好きの生徒にどう前向きにさせるかを工夫しました」。例えば、教員が知恵を出し合い、クッキングやダンスのなかで英語に親しむような授業も始めた。

 現在、同校の生徒は約2270人。一人一人違うその個性を、社会に貢献できる人材へと育てようというのが「ONLY ONE教育」だ。そのためには、従来のように教員がただ生徒に教え込むだけの知識偏重型の教育では実現できない、と草島さんは考えている。

 改革に着手して約20年。生徒数は倍増し、今春の進学実績は過去最高となった。多様な目標を持つ生徒一人一人に合わせた独自の教育方針が、支持されたのである。

 ■多様な生徒 多彩な未来探る

 校内を案内する草島さんの足取りはテンポがいい。こちらがボーッと見学していて振り返ると姿が消える、というより、出会う生徒らに声をかけている。

 「社会人生活から学校に戻るとき、経営者の先輩方から、とにかく現場の声に耳を傾けてあなたは調整役、オーケストラの指揮者に徹しなさい、とアドバイスをいただいたのです」

 多様な個性を持つ生徒たちがいるのが同校の特徴だ。草島さんはそれぞれが奏でる音に耳をそばだて、生徒の心を読み取ろうとしているかのようだ。

 「進学、就職、プロスポーツまで多様な目標を持つ生徒がいます。成績で輪切りにして進学実績を伸ばすといった、従来の学校運営はなじまないのです」

 その言葉通り、同校では、進学▽運動部参加が前提のアスリート▽公務員などへの就職▽ITビジネス-の各コースがある。2年次からさらに細分化され、プロスポーツやITゲーム・デジタル技術習得、保育や小中教員志望者向け、といった具合だ。

 「多様な生徒の居場所をまず作り、生徒が社会にでて活躍できるよう成長させる最適なコースを生徒や教員、保護者みんなで探るというイメージでしょうか」

 そのためには、郊外活動には教員も生徒と一緒に参加する。スポーツの海外研修や企業研修、自衛隊の訓練参加、大学と連携した地域おこし、企業と共同した製品開発、専門家の講演会…といった具合だ。

 「本物を経験させると男の子たちは目の色が変わります。教員も経験を積むので指導力の向上につながります」という草島さん。

 やりたいことを見つけるためのしかけもある。放課後を利用した自由参加の「寺子屋」で、なんと32コースも用意されている。英検や簿記などの資格取得、語学のほか、介護・調理師・理容師体験、トレーニングルームを使ったプログラムなど多彩だ。

 過去には、ここで初めてピアノを学んだ生徒が音大に進学したり、不登校だった生徒が簿記検定に合格して大学進学したり、中学レベルから英語をやり直して有名私大に合格した生徒もいる。「やりたいこと」が見つかれば子供は伸びる、その好例だろう。

 「個性を大切にする教育の目指す先は、人生の壁を乗り越え、社会に貢献できる人材の育成です。その教育方針はどのコースでも徹底しています」

 プロ選手を輩出し続けて話題のサッカー部、内野智章監督。自身、プロ在籍時代に自動車メーカーで社員として働いた経験があり「常にアイデアを求められました」という。その経験から、プロで活躍するということは変化に対応できる柔軟性をもつこと-と生徒に教えているという。

 躍進著しい興国高校はこれからどこへ向かうのか。

 「入学式で保護者が『この学校で良かったな』と生徒に話しているのを度々聞きました。学園全体で積み重ねてきたことが正しかったということ。これからもこうした言葉をいただけるように、みんなで知恵を出していきたいと思います」

     ◇

【プロフィル】草島葉子(くさじま・ようこ) 大阪府出身。神戸女学院大文学部卒業後、高校教員をへて、人材派遣、研修会社で育成や研修企画、コンサルティングに携わり、JRやNTTなどを担当。松下幸之助が創設したPHP研究所で研修講師を務めた。平成9(1997)年祖父・惣治郎氏が創立し父・一氏が理事長・校長を務める興国学園の常任理事に就任。事務局長、副校長を経て、平成25(2013)年学園理事長・校長に就任。大阪教育大夜間大学院スクールリーダーコース講師も務めた。現在、大阪府高校野球連盟副会長、大阪私立中学校高等学校連合会副会長。

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