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【一聞百見】建仁寺塔頭・禅居庵副住職で映像作家、上松正宗さん(39)/京都・祗園の禅寺で絵本展、人も本も集まる「絵本堂」再建を

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「会う人会う人に絵本のことを聞いてみました」と笑う上松正宗さん=京都市東山区の禅居庵(永田直也撮影)
「会う人会う人に絵本のことを聞いてみました」と笑う上松正宗さん=京都市東山区の禅居庵(永田直也撮影)
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 「平成」から「令和」(れいわ)へ、時代の変わり目を迎える今年の大型連休。観光客でにぎわう京都祇園の古刹・建仁寺の塔頭(たっちゅう)、禅居庵(ぜんきょあん)(京都市東山区)で、ちょっと変わった絵本展が開かれている。100人の協力者の中には、歌手の木村カエラさんや女優の本上まなみさんの名も。仕掛け人は、副住職で映像作家でもある上松正宗さん(39)。人が集まる場としての寺から、情報発信を続けている。(聞き手 山上直子)

■寺と絵本 心ふれあう場所

 「子供の頃に読んで心に残っている絵本は何ですかって聞くと、びっくりするような打ち明け話が返ってくることも。絵本にはそんな力があるんですね」。今年で3年目を迎えた「はじまりの絵本~100人の子どもと大切な絵本」。いわゆる絵本展なのだが、コンセプトがいっぷう変わっている。年齢も職業も有名無名にもこだわらず、100人に「大切な絵本を教えてください」と頼むのだ。

 聞くのは、「子供の頃に心に残っている絵本」と、「いま大切な人にとどけたい絵本」。計2冊紹介してもらい、そのうえでどちらか1冊の絵本を展示して選者からのメッセージカード2冊分を添える。つまり100人で、絵本は100冊、カードは200枚。有料(500円、大人同伴の未就学児は無料)だが、訪れた人は自由に本を開き、メッセージを読むことができる。時間の過ごし方は自由だ。きっかけを聞いた。

 「自分の子供が生まれて、最初は会う人会う人に聞いてみたんです。すると、普通、初対面では聞けないような、でも本当の話をしてくださる。つらい子供時代の話でも、です」

 絵本には不思議な力があることに気付いた。人の心を自然に開き、子供時代の思い出を語らせ、時に共感し、心のふれあいが生まれるのだ。友人知人のつてを頼ってみると、意外なことに多くの人が快く応じてくれる。例えば昨年はフェンシング協会会長の太田雄貴さんや俳優の竹中直人さんが、一昨年は俳優の浅野忠信さんや満島ひかりさん、作家の吉本ばななさんも協力してくれた。絵本が持つ力に寺という場所の可能性が加わって輪が広がる。それに気付いたのは、上松さんの感性だろう。

■いじめにあった中学時代

 京都の由緒ある寺に生まれた。祇園にある臨済宗建仁寺派の大本山・建仁寺境内の南にある禅居庵。7頭のイノシシに乗った秘仏「摩利支天像」を祭る。「(僧侶に)なりたくなかった時期はありませんでしたね」。そんな上松さんにも、苦しい時期があった。中学の3年間、学校でいじめにあったのだ。悲しいときに、つい笑う癖がついた。「加害者、被害者という図式ではないと思っていて、理由はいじめる側にあってその人個人の問題なんだろうなと。ただ、そのイライラをぶつけられるわけで、毎日まともに受けていたらもたない。心が悲しくても笑っている方が楽だったんです」。高校に進学していじめはなくなったが、「その癖がなかなか抜けなくて苦労しました」

 抜け出せたのは、大学に入って好きなことを始めてからだ。母方の祖父が記録映画などを手がけた映画監督だったこともあって、映像に興味を持ち、大阪芸大の映像学科で学んだ。友人と映像制作ユニットを立ち上げ、京都の老舗企業などの映像作品を創作するようになる。「映像を作るのにシナリオを書くんですが、それで人間のおもしろさに気付いた。追求したいと思いました」

 一方で、20代半ばで建仁寺の修行道場に。禅寺の修行は厳しいことで有名だが、「本質を見ないとものは作れない」という強い思いがあった。以来、僧侶と映像作家という二足のわらじをはく。どちらも人間性の追求という点では、似たところがあるようだ。

 「寺にいると、苦しみや悲しみを抱えてお参りに来られる方もいて、いろいろな悩みも聞きます。でも、いつもニコニコしている人というのは、悪いできごとからも学んでいる。尊敬できる人は、自分の力で今よりよい方向へと変えていける人だと思うようになりました」。絵本の展覧会を始めたのも、絵本をきっかけに多くの人の「学び」の体験を知ることができるからだ。「人が集まる、そして何かを伝える、伝わる。そんな“装置”を作りたい」

■夢は「絵本堂」

 ♪はんにゃーはーらーみーたー(般若波羅蜜多)。美しいギターの調べに乗せて歌うのは、般若心経。禅居庵で開かれたイベント「ざわざわ~座禅とお話のじかん」。僧侶でミュージシャンの薬師寺寛邦さん(40)(キッサコ)がゲスト出演し、動画投稿サイト・ユーチューブで100万回を超える再生回数を記録して話題になった楽曲を披露した。上松さんとは長年の友人だ。「ざわざわ」は座禅と話をかけたもので、仕事帰りや週末に気軽に参加できる会として開催。人が集まる、必要とされる寺をめざす。

 今、最も力を入れているのが絵本展だが、たいへんなのはその絵本を探すことだという。中にはなかなか出合えない希少本も。「スチャダラパーのBose(ボーズ)さんが選んだ『ふたごのピッピとプップ』はたいへんでした」と苦笑。ネット上で毎週のように検索、ようやく探し出すことができたという。

 大きな夢があった。「絵本堂を建てたい」という。聞き慣れない言葉に一瞬、考えて納得した。あ、絵本の本堂か…。「焼失した本堂を再建したい。でも、それは皆さんに必要とされる本堂であってほしい。例えば10年、絵本展を続けたら1千冊の本が集まる。1千人の思い出が詰まったお堂ができるんじゃないかと」。一方で、インバウンドに沸き、ご朱印や観光ニーズでにぎわう現状にも冷静な目を向ける。「お寺ブームがずっと続くわけではない」。座禅と絵本とお話と-。上松さんが見つめる先にあるのは、新しい令和の時代に生きる寺と僧侶の未来像だ。

     ◇

【プロフィル】上松正宗(うえまつ・しょうじゅう) 昭和54年、京都市生まれ。大阪芸術大学映像学科を卒業後、映像作家、グラフィックデザイナーとして活躍。臨済宗建仁寺派大本山・建仁寺の塔頭、禅居庵の副住職を務める。

【用語解説】禅居庵(ぜんきょあん http://zenkyoan.jp/ )

 京都市東山区。鎌倉時代後期、元からの来朝僧を開基とし開かれ、秘仏「摩利支天像」を祭る。開運勝利、亥年の守護として信仰を集め、「日本三大摩利支天」の一つ。「はじまりの絵本展」は2019年4月28日~5月6日。

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