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【「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記】目先の“ほほ笑み外交”に飛びつく危険…暗黒球団史繰り返すな

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シートノックの際に足を滑らせてベンチに戻る阪神・糸井嘉男=甲子園球場(撮影・山田喜貴)
シートノックの際に足を滑らせてベンチに戻る阪神・糸井嘉男=甲子園球場(撮影・山田喜貴)

 糸井の脚部不安で腰が浮いてはいけません。打撃力アップのための緊急トレードは“ご法度”です。阪神の糸井嘉男外野手(37)は5日の甲子園球場での練習中に脚部を故障。12日の中日戦(ナゴヤD)からのチーム合流を延期させる方向ですね。昨季も脚部故障で119試合の出場。年齢的な問題もあって攻守のパフォーマンスに暗雲が立ち込めます。一方で阪神球団には楽天などパ・リーグ複数球団から投手の譲渡を求めるトレードの打診が相次いでいます。打者補強のために投手の放出…。これに動けばまた失敗の歴史を繰り返すハメになりますよ。

腫れ物に触る?糸井の扱い

 やはり…というべきでしょうか。オープン戦に入ったばかりの矢野阪神に暗雲が立ち込めました。今季も右翼・クリーンアップを期待する糸井が5日の甲子園球場での練習中、ノックを受けた際に足を滑らせて故障。病院で診察を受けたもようで、当初予定していた12日の中日戦からの“実戦配備”も遅れる見通しになりました。

 「滑ってやったのがちょっとだけ炎症があるみたい。予定はもちろん名古屋なんですけど、ひょっとしたら名古屋は行けないかも。監督も含めてですけど(糸井)嘉男に任せている。本人が行きたいというなら連れていきます」とは清水ヘッドコーチ。

 下半身のどの部分にどれほどの炎症を起こしたのかは不明ですが、非常に心配な事態です。なぜなら糸井はこれまでチームでただ一人、実戦出場がありません。春季キャンプ中からずっと別メニュー。「シーズンに入って成績を残してくれたらいい」という首脳陣の配慮ですが、いくら何でも“腫れ物に触る”感じの扱いが続いていました。今から考えれば春季キャンプ中から下半身の状態が上がってこなかった…とも推察できます。

膝の不安、守備に影響も

 このコラムでも春季キャンプの当初、「今季の矢野阪神は金本前監督が鍛えて育てたチルドレンの成長がなければ躍進はあり得ない」と書きました。オフの間に野手陣の大きな補強はありませんでした。そして、福留、糸井の大ベテランにいつまでも頼っていてはチーム力の向上はない…と見えたからです。今季中に42歳となる福留、38歳になる糸井がいつまでも絶対的な主砲であり続けるならば打線の破壊力&得点力のアップはあり得ないと思ったからですね。

 さらに糸井に関しては過去に左膝や右足首などの大きな故障歴があります。昨季も守備面での不安を指摘する声が甲子園球場のネット裏には充満していました。

 「膝が悪いから打球に対してチャージできないんだ。盗塁の際は二塁ベースに足を突っ込めるので不安感がないが、守備では膝の不安があって滑り込めない。だから打球に対して攻めていけない。なので守備範囲が狭く、投手陣から不満の声が漏れていた」

 阪神OBらが指摘していた下半身の不安。今回の故障にも何らかの影響があったとすれば、たとえ炎症が治まっても守備面のパフォーマンスの向上は見込めない…ということになります。守備面での不安が投手陣の防御率に悪影響を及ぼすことにもなりかねません。

 糸井は昨季、119試合に出場し、打率3割8厘、本塁打16本、打点68でした。しかし、死球による骨折や左肩腱板部損傷などで24試合欠場しました。チームも糸井不在の試合は大きく負け越しましたね。球団側からは「今年は休まないでください」と要請されていましたが、開幕前に脚部不安の発生…。先行きが心細い限りです。

パ球団が虎投に熱視線

 ただ、ここで球団は腰を浮かしてはいけませんよ。春季キャンプ以来、阪神球団にはパ・リーグ複数球団から投手の譲渡を求めるトレードの打診が相次いでいます。春季キャンプ中盤には楽天の石井一久ゼネラルマネジャー(GM)が「かりゆしホテルズボールパーク宜野座」を訪れ、阪神の球団幹部と約1時間も話し合いを行いました。石井GMはGM就任後のオフ期間中、西武から浅村栄斗(ひでと)内野手(28)をフリーエージェント(FA)補強、広島から福井優也投手(31)をトレードで獲得するなど激しく動きました。そして、阪神球団に対して「投手を譲ってほしい」と打診してきたのです。

 「名前は言えないけど複数の投手を言ってきたな。藤浪? 彼は言ってこなかった。別の名前。楽天は則本が右肘?を故障して開幕に間に合わないんだろう。先発が足りない…と言っていた」 あくまでも想像ですが秋山、岩田、石崎に仙台出身の馬場あたりの名前が出てきたと推察しますね。もちろん、阪神球団は話を聞いただけで返答も何もしていません。

 楽天だけではなく、パ・リーグ複数球団からトレードの打診が続く裏側には何があるのか。間違いなく昨季の榎田大樹投手(32)の成功例があるからです。昨季の開幕前に西武との1対1のトレード(交換要員は岡本洋介投手)で阪神は榎田を放出しました。阪神在籍の7シーズンで通算13勝17敗。2年前は1軍登板はわずか3試合。チームとしては1軍戦力と見なしていなかったからこそ、放出したわけです。ところが榎田は西武で昨季、22試合に登板して11勝4敗1ホールドの好成績。リーグ制覇の大きな要因となったのです。

 つまり阪神ではくすぶっていても、新天地に移れば2ケタ勝利の可能性がある…。こんな前例が目の前にあればパ・リーグ各球団の偵察隊の熱視線が阪神投手陣に注がれるのも当然ですね。

 そして、糸井の脚部不安です。主砲の体調面に不安を抱える状況下、チームとすればどうしても打者の緊急補強が頭に浮かびます。手元に来ているトレードの打診を思わず振り返ってみてしまう状況が今、ここに存在します。極めて危ない状況ですね。

 野手の補強のために投手陣に手をつけるのは愚策です。あれは1992年オフ、阪神は攻撃力アップのためにオリックスから松永を獲得し、野田を放出しました。この“世紀のトレード”は大失敗でした。野田はオリックスでエースに成長し、移籍初年度は17勝をマークしました。逆に松永は故障が続いた上にわずか1年の在籍でダイエー(現ソフトバンク)にFA移籍したのです。かつての野田、そして昨年の榎田…。投手陣を切り売りした先に待っているのは泥縄…。まさに暗黒の球団史です。

 糸井の復帰時期は分かりません。3月29日・開幕のヤクルト戦(京セラD大阪)への影響も分かりません。ただ、最悪のシナリオを描いたとしても泰然自若に構え、チームとしての最大の武器である投手力は維持しなければなりません。それが阪神の球団史から学ぶべき教訓なのです。もし、糸井が厳しいなら、さらに若手の登用でピンチをチャンスに変えるまでのことでしょう。

 他球団のほほえみ外交に惑わされることだけは絶対に禁物-。これが開幕戦を19日後に控えたチームの舞台裏です。

      

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。ラジオ大阪(OBC)の金曜日、午後10時から「NEWS TONIGHT いいおとな」(http://www.obc1314.co.jp/bangumi/iiotona/caster.html)の『今日のトラコーナー』や土曜日午後6時45分からの「まさと・越後屋のスポーツ捕物帳」(http://www.obc1314.co.jp/bangumi/okini/)に出演中。「サンスポ・コースNAVI!」(http://www.sanspo.com/golf/tokushu/golf-t24944.html)ではゴルフ場紹介を掲載、デジタルでも好評配信中。

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