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国の36億円排水ポンプ故障 西日本豪雨で役立たず

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7月6日夕の矢口排水機場。住民によると、水の流れが止まっていたという=広島市安佐北区(住民撮影)
7月6日夕の矢口排水機場。住民によると、水の流れが止まっていたという=広島市安佐北区(住民撮影)

 7月の西日本豪雨で大きな浸水被害が発生した広島市安佐北区の口田(くちた)地区。一級河川の矢口川の氾濫によって過去何度も浸水している地区で、今回は国交省中国地方整備局が36億円をかけて4月に新しい排水機場を設置した。しかし豪雨当日は故障で稼働せず、またも被害を出した。整備局は「想定以上の雨で、流入した大量のゴミなどがポンプをつまらせた」と説明。ただ正常に稼働しても排水能力を超えていたという。設置当初は「10年に1度の豪雨でも大丈夫」と“安全宣言”も出していただけに、住民らは「裏切られた」と怒りが収まらない。(山本尚美)

過去に何度も浸水被害

 矢口川は、広島市内を北から南に流れる一級河川の太田川に合流する支流。合流部の口田地区は矢口川の近くまで民家が立ち並び、本格的な堤防もないため、過去にも頻繁に浸水被害が発生してきた。

 降雨で太田川の水位が上がると、矢口川への水の逆流を防ぐため矢口川の水門が自動閉鎖され、行き場を失った矢口川の水があふれる。浸水はこうして起きており、構造的な問題も指摘されてきた。

 そこで矢口川には平成元年、浸水対策として毎秒4トンの排水能力を持つ排水機場が設置された。豪雨時に矢口川の水をポンプでくみ上げ太田川へ流す仕組みだが、それでも雨量によっては排水が追いつかず、最近では17年、22年と立て続けに床上浸水が起きている。

 こうした実態を踏まえ国と県、市は24年、矢口川総合内水対策計画を策定。ハード面の対策として整備局が行ったのが、毎秒4トンの排水能力を持つ新たな排水機場2基の設置だった。

 2基は工期5年と総工費36億円をかけ4月に完成。これで既存の排水機場と合わせ、計3基で毎秒計12トンの排水が可能となり、整備局は住民に「10年に1度の豪雨でも大丈夫」と説明していた。

 ところが、わずか3カ月後の7月6日、西日本豪雨でまたも川は氾濫した。

なぜ、川はあふれた?

 排水機場から約400メートルに位置する「山下医院」事務部長の増原隆行さんは同日午後5時過ぎに水位を心配して川に向かい、目を疑った。川の水位は河岸の高さまで30センチの余裕もないほどだった。

 排水機場を見ると、ポンプによって吸い込まれるはずの水が停滞したまま動いていない。身の危険を感じた増原さんは即座に整備局に電話し、すぐポンプを動かすよう要請した。

 その後、ポンプは稼働し、水位は下がり始めた。祈るような思いで川を見つめていた住民も安堵(あんど)し、家路についた。だが住民らによると、その約20分後の午後5時半ごろ、川が氾濫し、地区内に水が流入してきたという。

 あわてて避難を始めたものの、水の勢いは急激に増し、流木や車も流れ始め、一帯は危険な状態に陥った。

 浸水発生当時、山下病院には透析患者約30人、入院患者約10人がいた。医院の隣の薬局によると、一時は床上約160センチまで水位が上昇。夜になってレスキュー隊が到着し、孤立した患者の一部を運び出した。

 浸水域ではないが、午後6時前には矢口川の少し上流の地区で山崩れが起き、土砂が民家を押しつぶし3人が死亡している。

 市によると、口田地区の浸水域は約8・6ヘクタールに及び、死者はなかったが、3000余りの世帯のうち床上・床下浸水が約110軒に上り、最大60人が避難した。

 地域から水が引いたのは翌7日午後。排水機場が新設されたのになぜ今回も浸水被害が起きたのか。整備局からは説明がなく、不審を抱く住民も多かった。

 何度も床上浸水を体験してきた薬局経営者は「今回が一番ひどい」と証言。避難が遅れ、孤立者が多数出たことに、「排水機場ができ、誰もが今度こそ安全だと思っていたのに、裏切られた」と話した。

想定以上の雨で故障

 「新設のポンプ2台のうち1台が正常に稼働していなかった」。整備局は10月末になってようやく口田集会所で住民説明会を開き、正式に発表した。被害があってから3カ月余りがたっていた。

 原因は、排水機場に備わる、流木などのゴミを取り除く除塵(じょじん)機が大量の土砂やゴミを排除しきれず停止。このため排水機場内の水槽に土砂などが流入し、水槽の水位が下がったことで、ポンプが間欠運転(止まったり動いたりする運転)を繰り返し、排水能力が低下したという。

 さらに流入した泥によってポンプの軸受けが破損したことも、排水能力を下げた一因という。

 住民からは「もしポンプが動いていれば、浸水は起きなかったのか」との質問も出たが、整備局側は「申し訳ないが、それでも浸水は起きた。雨は想定以上で、排水能力が足りなかった。もし前回の説明で(当時の担当者が)『二度と浸水被害が起こらない』と言ったのなら、大変申し訳なく思う」と回答した。

 しかし、こうした説明に約100人の住民からは「泥やゴミくらい最初から考慮すべきだ」「いざというときに動かんのじゃあ、36億もかけた意味がない」「排水能力不足の設備をなぜ作ったのか。これは人災だ」と怒りの声が噴出。一部では被害の賠償を求める声も出ている。

 整備局はポンプ増設は難しいとして、故障したポンプを改良して再設置するとしている。

 整備局の担当者は「同型ポンプは全国的に採用されている平均的な構造だが、雨が想定を上回った。(土砂や流木が多く見込まれる)山から近いこの場所への設置は適していなかったのかもしれないが、当面の対策として、矢口川の上流側に土石流を捉えるワイヤネットを設置した。今後はポンプの改良に加え、除塵機の増強なども検討したい」と話す。しかし住民らは納得せず、「春の雨すら怖い。せめてスピーカーでもつけて、危険を知らせほしい」との声もある。

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