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今年も「1000人の金田一耕助」 西日本豪雨から復興願い実現

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西日本豪雨で被災した家屋の前を練り歩く「1000人の金田一耕助」の参加者ら=11月24日、岡山県倉敷市真備町地区
西日本豪雨で被災した家屋の前を練り歩く「1000人の金田一耕助」の参加者ら=11月24日、岡山県倉敷市真備町地区

 西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町地区は、推理小説の名探偵・金田一耕助の「生誕の地」として知られる。作者の横溝正史(1902~81年)が戦争で東京から疎開中に金田一が初登場する小説を執筆したためで、ファンが集うコスプレイベント「1000人の金田一耕助」(同市など主催)が毎秋開催されている。10回目の今年は豪雨被害で開催が危ぶまれたが、全国のファンらの後押しもあり、過去最多の118人が参加して11月下旬に開催。参加者や地元の住民らが復興へと心を新たにする特別な一日となった。

金田一さん集合

 独特のお釜帽に、はかまという金田一ファッションに身を包んだ人たちが11月24日、真備町地区に隣接する同県総社市のJR清音駅前に集まった。金田一シリーズの他の登場人物に扮(ふん)した参加者も多く、白いゴムマスクの「犬神佐清(すけきよ)」(犬神家の一族)や怪老女「おりん」(悪魔の手毬唄)、頭部に懐中電灯を付けた「田治見要蔵」(八つ墓村)の姿も…。

「ここまで水がきました」。旧疎開宅の手前、浸水の最終到達地点を確かめる参加者=岡山県倉敷市
「ここまで水がきました」。旧疎開宅の手前、浸水の最終到達地点を確かめる参加者=岡山県倉敷市

 参加者は真備町地区にある横溝の旧疎開宅方面への約7キロ間を歩き、途中では地域の人が寸劇や甘酒、ぜんざいの接待などでもてなした。見知らぬ参加者同士が「それは何の作品のどんなキャラクター?」と声をかけ合ったり、記念撮影したりするのも、このイベントの特徴だ。

 「見渡せば、なじみの顔があちらこちらに…」。被災後、ツイッターで「名探偵のふるさと募金」を立ち上げ、開催の“立役者”となった倉敷市の会社員、川崎修さん(40)は、今年も同じ光景が見られたことで安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 募金への寄付額は前日23日時点で約320万円。「当初予想の5倍で、ありがたい。寄付した方からは『私たちの受け皿になってくれた』と逆にお礼を言われ恐縮した。それだけこの行事を愛し、実現を強く望む人がいるんだと痛感した」と川崎さんはいう。

愛される金田一シリーズ

 金田一は、難解な事件を見事な推理で解決に導く私立探偵。シリーズ第1作「本陣殺人事件」は、横溝が真備町岡田に疎開中に執筆。同小説中で金田一が初登場した日が昭和12年11月27日とあるため、イベントは平成21(2009)年から毎年、この日に近い11月下旬の土曜に開かれている。

金田一耕助に扮した参加者には復興を願うゼッケンも=岡山県倉敷市
金田一耕助に扮した参加者には復興を願うゼッケンも=岡山県倉敷市

 「本陣-」の舞台も真備町周辺で、最初に金田一が降り立ったとされる場所が清音駅のため、イベントは作中の情景に思いをはせて歩く「聖地探訪」のおもむきだ。最近は「獄門島」の釣り鐘や「病院坂の首縊(くくり)りの家」の風鈴など、作中事件で重要な役割を果たしたものを模した人もいて、「よくぞ、あんな工夫を」と周囲を楽しませている。

豪雨で開催が危機に

 倉敷市は、今年度も関連行事を合わせ「巡・金田一耕助の小径」の事業名で210万円を予算化。市と実行委を構成する地元の「岡田地区まちづくり推進協議会」などと、例年通り開催を計画していた。ところが7月の西日本豪雨で真備町地区は水没し、51人が犠牲に。復興も道半ばの中、イベントについて地元では「亡くなった人が多い中、不謹慎だ」との声も出た。過去にも、コース付近で死亡事故などがあった年に内容を控えめにしたこともあるという。

「獄門島」の釣り鐘に見立てた手作りコスチュームで参加した女性=岡山県倉敷市
「獄門島」の釣り鐘に見立てた手作りコスチュームで参加した女性=岡山県倉敷市

 やや高台の旧疎開宅は浸水を免れたが、参加者の交流会に使う地元公民館は天井まで浸水し、保管していた寸劇用の道具類は使えなくなった。

 中止ムードが濃厚だったが、それを一変させたのが川崎さんの始めた募金サイトだった。「道具類の買い替え費用に」などとして、横溝作品の登場人物をはじめ「江戸川乱歩」や「シャーロックホームズ」など推理小説ゆかりの匿名で寄付が増え始めたことも話題を呼んだ。

 こうして9月初め、同協議会は開催の方針を決定。地元の意向を踏まえ、市も10月に正式開催を決定した。協議会の黒瀬正典会長(65)は「多少は落ち着いてきたので、夏祭りをはじめ何もかも中止にするのでなく、こういう時だからこそ開催で地域を元気付け、募金をしてくれた多くの全国のファンの期待に応えようではないか、となった」と話す。

 開催決定の反響は大きく、今年は初参加の人も多かった。横浜市の池田健さん(28)は豪雨以降、仲間とつくった音楽ユニットで何回か慰問に訪れていたが、イベントは初参加。「金田一関係では門外漢ですが、縁のできた真備での貴重な交流の場なので」と佐清姿でコスプレに加わった。

「帰れ、帰れ」とファンに“荒い歓迎”をする「濃茶の尼」=岡山県倉敷市
「帰れ、帰れ」とファンに“荒い歓迎”をする「濃茶の尼」=岡山県倉敷市

 豪雨では小田川など8カ所の堤防決壊で約1200ヘクタールが浸水し、全壊を中心に5970棟の家屋が被災。コース内にも廃屋同然の被災家屋が何軒もあり、到達水位を示す表示も設置されていた。

 映画版「本陣-」に登場するジーンズ姿の金田一で初参加した香川県小豆島町の町職員、本郷学さん(51)は「私の町でもいつ、どんな災害が起きるか分からない。仕事上、後学のためにも現状を見ておきたかった」と話した。

“聖地”に勢ぞろいした金田一ファン=岡山県倉敷市
“聖地”に勢ぞろいした金田一ファン=岡山県倉敷市

 また横溝の次女、野本瑠美さん(79)が、旧疎開宅に東京から駆けつけるサプライズ演出もあった。野本さんはここで家族5人で過ごした幼少期を振り返りながら、「金田一とは父そのもの。自分の姿を金田一に投影していたと思えるだけに、こうも多くの方に集まっていただいたことに父は今頃、空の上から照れてみていることでしょう」と述べ、ファンを感激させた。

 最後に常連の参加者有志から、地元に感謝の気持ちを表す記念品が贈られた。贈呈の発案者で10回連続の皆勤参加を続ける東京都の自営業、赤堀友康さん(55)は「30~40人で歩いた最初の頃から、年ごとの盛り上がりを見てきた。今後も復興への進捗(しんちょく)を毎年見届けたいが、その中で真備のためにできる何かを見つけられたら…」。他の参加者からも「きょうの思い出を持ち帰り、何らかの協力を仲間に呼びかけたい」との声が聞かれた。

 黒瀬会長は「開催を疑問視する声もあったが、当日は『こういう機会がないと真備に戻り、みんなと再会できない』と地区外から手伝いにきてくれた元住民もいた。単なるイベントでなく、横溝先生が人と人とをつなげてくださった」と感慨深げだった。

被災家屋の前を歩く「1000人の金田一耕助」の参加者=岡山県倉敷市
被災家屋の前を歩く「1000人の金田一耕助」の参加者=岡山県倉敷市

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