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【久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ】ポンペオ氏訪朝の収穫なし 米は北の「サラミ戦術」に巻き込まれたのか

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7日、平壌で笑顔を見せるポンペオ米国務長官(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信撮影・共同)
7日、平壌で笑顔を見せるポンペオ米国務長官(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信撮影・共同)

 2回目の米朝首脳会談は米中間選挙後に行われることが決まったが、北朝鮮の非核化に向けた米朝交渉はポンペオ米国務長官の4回目の訪朝でも収穫はほぼゼロだった。北朝鮮はすでに爆破した豊渓里(プンゲリ)の核実験場への査察受け入れの姿勢をみせたものの、「用済み」の実験場査察に何の価値もない。焦点は米国の求めてきた核施設申告リスト問題に金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がどう言及するかにあったが、米朝協議は、シンガポールでの米朝首脳会談から約4カ月を経ても、入り口の非核化ロードマップ(行程表)をめぐる駆け引きが続き、そのドアさえいまだに開いていない状態だ。米国は北朝鮮の「サラミ戦術」にいつまでつきあうのか?

サラミ戦術の長期化こそ北朝鮮の思うつぼ

 ポンペオ氏の訪朝を「進展があった」と評価するのはトランプ米大統領と北朝鮮メディア、そして韓国大統領府だけという奇妙な状況が続いている。米国の北朝鮮専門家は「また時間稼ぎだ」と批判、日本の専門家も「中身はない」と指摘している。

 非核化の第1段階として核関連申告リストが重要とされるのは、それが今後のロードマップ(行程表)作成の基礎データになるのと同時に、どんな申告を行うかによって北朝鮮の真意が判明するからだ。申告には北朝鮮が主張する「朝鮮半島の非核化」の具体像が反映されることになり、どの施設を挙げるかで何を隠そうとしているかも明らかになる。

 北朝鮮がとっている外交戦術は、少ない議題や措置を、サラミのようにできるだけ薄く細かくスライスして外交の場(皿)に広げて並べ、あたかも数多い議論をしたかのようにみせて相手を懐柔する手法だ。第2次核危機の6カ国協議(2003年~2008年)では、中国、米国、韓国、ロシア、日本を相手に協議続行で時間稼ぎをする一方、ウラン濃縮をはじめとする核開発を進展させて06年に初の核実験を成功させた。

 現在、北朝鮮が「非核化」に向けた措置として言い出しているのは、(1)北西部・東倉里(トンチャンリ)のミサイルエンジン実験場廃棄や発射台の「永久廃棄」(2)北東部・豊渓里の核実験場(今年5月に爆破)の査察(3)寧辺(ニョンビョン)核施設の廃棄-だが、ミサイルエンジンはすでに完成、ミサイルは移動式に転換、寧辺施設は老朽化-といずれもパフォーマンスに過ぎない。さらに米国の専門家や国際原子力機関(IAEA)を現場に入れるとなれば、無意味な「非核化」の調整に時間を要して長引くだけだ。

 そもそも「サラミ戦術」とは冷戦時代、ソ連や中国、東欧諸国の共産国家などが1940年代から使ってきた常套手段で、元はといえばソ連のレーニンが指導した敵対勢力への対応策。無意味な交渉や最小限の譲歩を使って、相手に対価を要求していかに最大限の効果を得るか、という共産国家の伝統的手法なのである。

第2回米朝首脳会談の危険性

 北朝鮮にサラミ戦術を許してしまった原因は、6月のシンガポールでの米朝首脳会談にある。トランプ大統領は北朝鮮に「安全の保証」を約束したが、金正恩氏は「朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固とした揺るぎない決意」しか確認していない。「朝鮮半島の非核化」とは何かについて、両国間で定義がなされないままに始まった米朝協議は最初から難航が必至だったのだ。

 ポンペオ国務長官と金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長の実務レベルで「非核化」についての協議の土台を作るべきところが、結局、進展がほぼゼロのまま、今回、第2回の米朝首脳会談開催が決まったことで、実はシンガポールの失敗が繰り返される可能性が出てきた。

 北朝鮮はシンガポールの共同宣言の冒頭に明記された「米国と北朝鮮は新たな米朝関係の構築に取り組む」を根拠として、米国に在韓米軍撤退につながる朝鮮戦争の「終戦宣言」を要求し続けている。共同宣言には「米朝は、朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け、協力する」ともあることから、北朝鮮は「寧辺の核施設廃棄と終戦宣言」の取り引きを仕掛けてくる懸念がある。

 寧辺施設は1960年代から稼働してきた核開発のシンボルで、約10平方キロの敷地に2000人以上の職員が働き、初の実験用原子炉や使用済み核燃料工場、兵器用ウラン濃縮施設もある。この寧辺を「永久廃棄する」と北朝鮮が宣言すればパフォーマンスとしては効果絶大だ。

 しかし、実際の寧辺核施設はすでに使命を終え、実は「北朝鮮の核開発博物館」に過ぎないのだ。ウラン濃縮工場をはじめとする肝心の核施設はすでに寧辺以外に建設済みだ。

 第2回首脳会談もまた、米朝のビッグ・ディールの政治ショーとなれば、まやかしの「朝鮮半島の非核化」が現実のものとなってしまう。(編集委員)

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