PR

【政界徒然草】「まるで成長していない?」自民党総裁選、石破茂氏の名刺と首相の演説からみえる投票結果

PR

その他の写真を見る(1/6枚)

 9月20日開票の自民党総裁選は、安倍晋三首相(64)が国会議員票(405票)で圧倒し、石破茂元幹事長(61)が党員・党友票(405票)で事前の予想を上回る善戦をしたと評される。しかし裏を返せば、石破氏は平成24年総裁選から国会議員票を減らし、首相は党員票で苦戦した。なぜか。両氏が議員の投票直前に配った名刺と、地方で行った演説を分析すると、理由の一端がみえてくる。

 開票前日の19日、首相と石破氏はそれぞれ、衆参両院の議員会館にある自民党議員の事務所を回り、名刺を配りながら支持を呼びかけた。

 両氏の名刺に目をこらすと、首相の名刺には「宜しく御願い致します」と手書きで添えられていたが、石破氏の名刺には手書きの文字はなかった。

 両氏を含め、5人が出馬した24年総裁選でも、候補者は同様に名刺を配り「最後のお願い」に繰り出した。実はこのときも、当時有力候補とされた石原伸晃元経済再生担当相(61)や首相の名刺には手書きメッセージがあったが、石破氏の名刺にはなかった。

 石破氏はこの総裁選で、党員票の55%を獲得し、第1回投票で首位を確保。しかし過半数には届かず、国会議員のみの決選投票で108票を得た首相が、89票の石破氏を上回り、逆転で当選を果たした。

 当時、あるベテラン議員は「石破氏の名刺は『少し冷たいな』と感じた。この冷たさが議員の間にはびこる『石破嫌い』の一因かもしれない。細かい気配りを積み重ねていれば、19票差は逆転していた可能性もある。石破氏はもっと成長できる」などと語っていた。石破氏が人間関係をどう築いているのか、その姿勢が敗因の一つだったとの見方だが、この種の忠告は石破氏に届かなかったらしい。

 麻生太郎副総理兼財務相(78)は21日、24年総裁選の決選投票の197票よりも、今回の総裁選で議員票が405票に倍増したことを紹介し「石破さんは(24年に)89票を取った。倍に増えているんだから89が178ぐらいにならないとおかしいんだけど、現実は73に減ったんだよ」などと述べ、「どこが善戦なんだ。ぜひ聞かせてほしい」と述べた。

 実際、24年総裁選で石破氏の軍師となった浜田靖一元防衛相(62)や梶山弘志地方創生担当相(62)は今回、首相の支持に転じている。

 石破氏は常々、あらゆる選挙について「握った手の数しか票が出ない」と語り、「どぶ板」選挙を徹底する。その一方、石破派(水月会)の議員が、総裁選での支持拡大を目指し、党内の議員と酒を酌み交わすよう何度促しても、石破氏は「本を読みたい」などと消極的だったという。実際、石破氏は21日「一緒に食事をしたり、飲んだ人でも支持してもらえなかった人もある」と言及。人付き合いという点での「成長」には前向きとはいえない。

 一方、一般党員に向けたアピールはどうか。首相は16日、インターネット動画サイト「ニコニコ動画」主催の討論会で、石破氏の「すごいところ」として「やっぱり演説力だ。石破さんは聴衆をぐぐっと引きつける磁石のような魅力がある」と評価した。実際、15、16両日に両氏が並んだ京都市や津市での党主催演説会では、党員から「石破氏の話は新鮮だった」との声も聞かれた。

 首相は雇用増など政権の成果を数字を交えて説明することに重点を置きながら、こんなエピソードも口にした。

 「5年近く前に従業員9名の小さな町工場を訪問した。若い工員さんは『安倍さん給料が上がったからさ、発泡酒がビールに変わったんだよ』。こう言っていた」

 5年前は第2次安倍政権発足から約半年しかたっておらず、長期政権の成果を語るには古い話だ。3月の党大会でも話しており、党員にとって新鮮味があるとはいいがたい。今回の総裁選では、地方の街頭演説の機会も大幅に縮小されただけに「首相のスピーチライターが余裕をみせすぎてサボタージュした」(無派閥中堅)との批判まで聞こえてくる。

 対する石破氏は、細かい知識を披露した。津市では地元食品メーカー「おやつカンパニー」が、アイスクリームの上にベビースターラーメンを乗せた「ベビースターラーメンonアイス」を開発したことを紹介し「津のベビースターラーメンと私の鳥取のアイスクリームが合体した。税込み213円。こんなことが想像できたか。これが売れる」と笑いを誘った。

 そのうえで「どうやったら人が喜んでくれるか全力で考え、そこに雇用と所得が生まれる。国が作ったメニューを地方が受けるんじゃない。いろんなアイデアは地方にある。国はそれを精一杯応援する」と地方創生の重要性を訴える話術をみせつけた。

 総裁選の党員票の得票率は、首相が55%、石破氏は45%。山形、茨城、群馬、富山、三重、島根、鳥取、徳島、高知、宮崎の10県で石破氏が首相の得票を上回った。

 石破派の斎藤健農林水産相(59)が首相陣営から「辞任圧力」を受けたとされる問題などが報じられ、石破氏が批判票の受け皿となったとの見方が強いが、石破氏が地方行脚を続け地力を蓄えてきたことも、見逃すべきではないだろう。(政治部 沢田大典)

この記事を共有する

おすすめ情報