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【特派員発】空前の「日本式飲食店」ブーム 本格おもてなし、旅行での体験追い求めて 韓国・桜井紀雄

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ソウルの夜の街に浮かび上がる「金泳兌の居酒屋村・夢の横町」の建物(桜井紀雄撮影)
ソウルの夜の街に浮かび上がる「金泳兌の居酒屋村・夢の横町」の建物(桜井紀雄撮影)

 ソウルの流行の発信地、弘益(ホンイク)大周辺地域。奥まった路地に入ると、人だかりが目についた。札幌式ジンギスカン専門の「一流・弘大(ホンデ)本店」の前だ。屋号も日本語通りに「いちりゅう」と読む。

 「オソオセヨ(いらっしゃいませ)」。赤ちょうちんが掛かった入り口ののれんをくぐると、従業員が日本式に声をそろえて客を迎える。順番待ちスペースにも人があふれていた。

 韓国でいま空前の日本式飲食店ブームが起きている。ソウルの歓楽街には日本式居酒屋が立ち並び、ひらがなや漢字といった日本語の看板も目立つ。日本語がタブーだった時代には、想像すらできなかった光景だ。何が韓国人を引きつけるのか。

付きっきりで調理

 「一流」が2017年版から2年連続で「ミシュランガイド・ソウル」に紹介されたことが人気に拍車を掛けた。週末には2時間待ちもざらだという。

 1990年代の日本のヒット曲が流れ、壁際には日本の居酒屋で目にする木製ロッカー。赤いだるまも鎮座する。カーブしたカウンター席にいくつも丸みを帯びたジンギスカン鍋が並ぶ。1組の客に1人の従業員が付きっ切りで調理するのが特徴だ。

 20代の娘に誘われ、わざわざ南西部の木浦(モクポ)から来て1時間半並んだという朴恵●(=さんずいに隣のつくり)(パク・ヘリン)さん(56)は「味もサービスも抜群。待ったかいがありました」と笑顔。「今度は札幌に行って本場の味と食べ比べてみたいです」と話した。

 「一流」4店舗を展開する朱成俊(チュ・ソンジュン)代表(50)は、日本で出合ったジンギスカンのおいしさと羊肉なのに臭みがないことに衝撃を受けた。「韓国で他に誰もやったことのない店を」と日本で料理法やノウハウを学んだ。

 こだわったのは良質の肉と五感で味わってもらうこと。さらには徹底した日本流の「おもてなし精神」だ。従業員が日本を知るため、あえて日本人アルバイトも多数雇っている。

 唐がらしを使ったキムチも置かず、生ビールなど酒類も日本式にこだわる。臭いがきつい印象のある羊肉料理とあまりの徹底した日本式に、周囲は「韓国では、はやらない」と反対した。その声を押し切り、今や浮き沈みが激しいといわれる弘大地域で不動の人気を得た。同店をまねたジンギスカン店も増え続けている。

江戸と昭和の雰囲気

 弘大地域の別の一角では、日本の屋敷を模した大きな店舗が照明で浮かび上がり、幻想的な雰囲気を醸し出していた。アニメ映画「千と千尋の神隠し」から飛び出してきたような建物だが、至る所に日本語の看板やポスター、ちょうちんが掲げられている。

 店内には、日本の居酒屋式の個室のほか、屋台をイメージした席もある。

 すしチェーンを展開していた金泳兌(キム・ヨンテ)代表(39)が昨夏、韓国の家屋を丸々改装してオープンさせた「金泳兌の居酒屋村・夢の横町」で、日本留学時代に日本料理にはまった金代表の「夢を形にした」店だ。

 「韓国人が最も日本らしく、明るいと感じる江戸と昭和の時代」がコンセプトだといい、テーマパーク「新横浜ラーメン博物館」や東京の温浴施設「大江戸温泉物語」がモデルになった。

 子供を連れて友人らと来ていた30代女性は「まず、きれいな外観にびっくりしましたが、日本に来たような感じが良いです」と話した。金代表は「安くておいしいことが大事ですが、お酒を飲む場所は雰囲気も重要なんです」と説明する。

 ソウルの繁華街には、他にも日本の昭和を連想させる大きな居酒屋のほか、日本統治時代前後のソウル(当時・京城)をイメージした飲食店も次々オープンしている。

 韓国紙がクレジットカード大手の数値を基に報じたところでは、韓国内の日本式飲食店は2017年現在、約4700店と13年に比べ、4割以上増えた。

ノウハウ学び成功

 日本式飲食ブームの理由としてまず挙げられるのは、日本を旅行する韓国人の急増だ。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、17年の訪日韓国人は約714万人と13年の約3倍にふくれ上がった。

 韓国酒文化研究所の文宣喜(ムン・ソニ)理事(41)は「旅行先で日本の味を直接、体験した人たちが本場の味を求めるようになった」と指摘する。「おまかせ」という日本語がそのまま通じる店も増えている。

 日本式料理店は他の飲食店に比べ、事業上、失敗が少ないともいわれる。韓国料理なら母国料理だと気安く考え、味の研究をおろそかにして開店するケースもあるが、「日本式料理店は、日本の料理学校などできちんとノウハウを学んで開業する人が増えた」ことも成功の背景にあると文理事はみている。

 公務員らへの接待などを厳しく制限するため、16年に施行された「金英蘭(キム・ヨンナン)法」の影響も指摘される。飲食接待の上限は3万ウォン(約3千円)と定められ、「会食文化」の変化とともに飲食に対する意識も変化した。

 自分でお金を払い、探してでも行ってみたい店を選ぶ人が増えたという。少人数でお気に入りの酒とつまみを味わう日本式料理店の需要が生まれたわけだ。

 一方で、日本式飲食ブームを特集した韓国紙の中央日報はコラムで、特に日本統治時代を連想する「○○倶楽部」という名前の飲食店が乱立する現状に、「いくら日本の料理がおいしく、文化が良くても、日帝強占期(日本統治時代)の郷愁に訴える浅はかな商法は少しやり過ぎという感じだ」と苦言を呈した。

 こうした日本式飲食店のブームを好ましく思わない韓国人もいることに、「夢の横町」の金代表は「いろんな意見があるのは仕方がない」としつつ、こう強調する。

 「お客さんにとって選択肢が増えることは良いことで、好きな人が来てくれればいい。ただ、日本の良いところに学び、取り入れていくことは大切なことなんです」

日本由来の漢字語は「残滓」 強まる排除

法令・軍隊用語 学校の号令も

 韓国の繁華街で日本語を書いた飲食店の看板が増える中、日本統治時代の日本式家屋を修復してカフェやギャラリーとしてオープンさせる動きも各地で見られる。「敵産家屋」と呼ばれ、かつて厄介者扱いされたが、「おしゃれなスポット」として写真を撮って訪ね歩く若者もいるという。

 一方、依然、続いているのが日本統治時代の名残を残す日本由来の漢字語などを排除しようとする動きだ。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は3月、法令で使われる日本式用語を韓国式に改める作業に関し、「憲法においても韓国固有の言葉に修正する作業が必要だ」と指摘した。

 複数の韓国紙は、国防省が最近、軍隊内で警察業務に当たる「憲兵」という名称を「軍事警察」に変更する方向で検討に入ったと報じた。憲兵は日本統治時代に強権を振るい、独立運動を弾圧した憲兵隊のイメージがつきまとうことが原因だという。

 軍隊内で使われる「古参」や「各個点呼」などの漢字語や「ショーブ(勝負)」といった言葉もやり玉に挙がっている。

 日本統治時代から使われてきた学校の教頭に当たる「校監」という名称を「副校長」に改めるべきだという改正案も野党議員が国会に発議した。議員は校監も「日本式表現の残滓(ざんし)だ」と主張する。学校での朝礼台や「気をつけ」「敬礼」といった号令も「日本の軍事文化の名残で、清算すべきだ」との議論に加え、東西南北など、方位を名称にした校名も日本式だとして改称を求める意見もある。

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