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【北海道利尻島にヒグマ】(下)山麓から高地へ? 気になる動向、4日には「歴史的一日」が…

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106年前に海を渡って利尻島に上陸、撲殺されたヒグマ(利尻富士町提供)
106年前に海を渡って利尻島に上陸、撲殺されたヒグマ(利尻富士町提供)

 明治45(1912)年以来、106年ぶりに上陸したヒグマを追い求めて記者は、北海道利尻島を訪れたが、今月12日を最後に途絶えた痕跡を見つけることはできなかった。ヒグマはどこにいるのか? 利尻山麓から山菜を求めて高地に移った可能性もある。くしくも利尻島は今、「歴史的な」日を迎えようとしている。

記録写真と回想

 かつてヒグマが上陸した場所は偶然にも記者が徒歩で歩いた近くの浜だった。

 利尻島郷土資料館(利尻富士町)で一番目立つところに飾られているのが、あごを鉄砲で支えられたヒグマの周囲を多くの人が囲んだ写真だ。

 資料館によると、明治45年5月22日ごろから島にヒグマが上陸。その後、海に戻ったが、再度上陸しようと泳いでいるところを漁場の若者に発見されオノで撲殺された。騒ぎを知った写真館の店主が浜辺でヒグマの大きさがわかるよう頭を鉄砲で支えて記念撮影した。この時代、これだけの立派な写真が残ったのは貴重だ。殺されたヒグマはオスで体長2・4メートル。体重300キロに及んだ。

 資料館で働く福田富士子さん(61)は「この騒動で新しい資料も出てきた」と、文芸「りしり6号」(昭和59年発行)の「一枚の写真より」を見せてくれた。著者の金田幹男さんは写真に感銘を受け、写真におさまっている当時6歳の佐藤末吉少年を探し、78歳になっていた末吉氏にクマの捕物騒動を聞き取り、再現している。

 要約するとこうだ。

 《(末吉少年が)妹と海岸で釣りをしていると、岩の上にクマが上がっているのが発見され、騒ぎとなる。クマは海に逃げ、沖の船に向かって泳ぎだした。クマはその船に爪を立てて上がろうとする。末吉少年の父親が追いかけて小船を近づけると、クマが向かってきた。父親はマサカリを頭に振り下ろした。父親の兄弟も助けにいきマサカリを振り下ろす。息絶えたクマを岸に上げ、写真撮影となったという。

 「熊の住むことのない利尻島に佐々木末次郎さん(末吉少年の父親)と金蔵さん(少年の叔父さん)の勇敢な兄弟の、熊打ちの事は町の大きな出来ごととして、一枚の写真と共に、長く語り伝えられております」》

 捕物騒動が新たな話題を提供している。今年、利尻島にヒグマが上陸したことが全国的なニュースとなったことから利尻町立博物館に、106年前に殺されたヒグマのものとされる爪が届けられたのだ。博物館は真偽のほどを確かめている最中だという。

捕獲駆除は困難!?

 「利尻の小動物で一番大きいのはイタチかリス。ヘビもいない。海のトド撃ちはいても、クマを撃てるハンターはいない」

 利尻富士町の松谷大輝総務課長補佐は話す。

 町は道庁に相談し、専門家にも来てもらった。島の各家庭に設置している防災無線でヒグマへの注意を毎日促し、生ゴミを夜のうちに出したりしないよう徹底しているという。利尻町も同様だ。両町は何かあれば対応できるよう、道庁からヒグマの捕獲許可を取り、稚内の猟友会にもアドバイスを受けている。

 だが、現状では捕獲駆除は難しいという。まず、ヒグマが人の目を避けておりどこにいるかわからない。北海道ヒグマ管理計画の有害性「0」段階の「非問題個体」と類型され、「経過観察し、(生ゴミなどの)誘因の除去する」対策をとることになっている。

 これが「人を恐れず避けない」「農作物への被害、人間活動に実害を及ぼす」段階となると、有害性が進むことを意味し、駆除などの対策もとらなければならなくなる。ワナを仕掛ける場合、エサをおくが、失敗すれば逆にエサの味を覚えさせるリスクもある。

両陛下がご訪問

 利尻へ登山に来た静岡県熱海市の星子繁さん(66)はヒグマ上陸を知りクマスプレーやクマよけ鈴を持ってきたと話す。大阪の登山グループも「念のためスプレーを持参した」という。

 一方、地元住民の反応はやや異なる。北海道では人口200万人弱の札幌市でもクマの目撃情報がしょっちゅうあり、山にクマがいる前提のため、利尻島にクマが生息していなかったこと自体知らずに来る登山客も少なくない。

 宿を経営する岡本順治さん(65)はクマの上陸が判明した前日、足跡が見つかった付近の山に妻と山菜採りに行っていたという。

 「山菜採りも以後は控えた。ヒグマがいるとなるとタケノコもキノコも取りに行きづらい。早くいなくなってほしい」と話す。

 成田明美さん(60)は「クマが襲うという知識がないから、小学6年の息子は『独りぼっちのヒグマを確保して仲間のところに返してあげたらいいのに』と話している」という。

 こうした中、利尻島は間もなく「歴史的な一日」を迎える。8月4日、天皇、皇后両陛下が初めて利尻島を訪問されるのだ。「ご訪問前にヒグマをなんとかしたほうがよい」との声もあったが、このまま当日を迎えることになりそうだ。ご訪問を無事に終わらせるため、関係者は万端の準備を進めていることだろう。

 クマが出没するのは自然が豊かということでもあるのだが、人間とクマ、双方にとって不幸な“事故”に発展しないよう距離のとり方、適切な付き合い方が求められている。(札幌支局長 杉浦美香)

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