PR

【iRONNA発】政治風刺 『笑点』の安倍ネタは笑えない 石平氏

PR

『笑点』の新メンバー発表後、記念撮影にのぞむ新司会の春風亭昇太さん(左手前)ら =平成28年5月29日、東京都千代田区(早坂洋祐撮影)
『笑点』の新メンバー発表後、記念撮影にのぞむ新司会の春風亭昇太さん(左手前)ら =平成28年5月29日、東京都千代田区(早坂洋祐撮影)

 日曜夕方のお茶の間で人気の『笑点』(日本テレビ系)がネットで炎上した。発端は番組の中で落語家が政権批判をネタにしたことだった。「この程度は昔からあった」「いや、ネタとして笑えない」。意見が分かれる今回の騒動を機に、お笑いと政治風刺の在り方を考えてみたい。(iRONNA)

 5月27日の日曜日、家のソファでくつろいでいた私は、日本テレビの名物番組『笑点』を久しぶりに見た。

 その日の『笑点』の大喜利では、「騒音」をお題に、耳をふさいだ落語家が笑いを誘う「珠玉の一言」を繰り出す設問があった。そしてその中で、いつもの顔ぶれの落語家たちの口から、次のような「政治ネタ」が連続的に放たれたのである。

 まずは三遊亭円楽さん、「安倍晋三です。トランプ氏から『国民の声は聞かなくていい』と言われました」。次は林家たい平さん、「麻生太郎です、やかましいィ」。そして最後には、林家木久扇さんは「沖縄から米軍基地がなくなるのは、いつなんだろうねぇ」と嘆いてみせた。

 ◆落語の芸さえ感じない

 正直、テレビでそれを見た私は「落語としてどこが面白いのか」と思ったのが率直な感想であった。例えば、木久扇さんのネタにしても、そこに何か笑いの要素があるのか。程度の差はあっても、1番目の「安倍ネタ」と2番目の「麻生ネタ」も同じようなものである。要するに、この3連発の政治批判は、落語としての機転も芸も感じさせない。

 そこにはむしろ、政治批判が目的であって『笑点』としての面白さは二の次となった、という感がある。はっきり言って、『笑点』の名を借りた政治批判にすぎないのである。

 しかも、批判の在り方は、一般庶民の視点からの政治批判というよりも、特定政党の視点からの批判である。例えば、沖縄の米軍基地について、基地がなくなってほしいと思っている庶民が、日本にどれだけいるのか。地元の沖縄でも、基地反対派と維持派が県民の中に両方いるだろう。要するに、『笑点』の政治批判は「反安倍政権・反米軍基地」であり、これはそのまま一部野党の看板政策と重なっているのである。

 私自身は『笑点』が結構好きで、日曜日の夕方に家にいれば、そしてチャンネル権が女房と子供に奪われていなければ必ずつけてみることにしている。だが、この日の『笑点』を見て、さすがにあきれて自分のツイッターでも下記のようにつぶやいた。

 「まるで社民党の吐いたセリフのような偏った政治批判が飛び出たことに吃驚(びっくり)した。大好きな笑点だが、そこまで堕(お)ちたのか」

 ◆私への批判は的外れ

 このツイッターは結局、ネット上で大きな反響を呼んだ。むろん、私のツイッターに対する批判や反発の声も上がった。お笑いタレントで演出家のラサール石井さんは、自らのツイッターで「時の権力や世相を批判し笑いにするのは庶民のエネルギーだ」「政治批判は人間としての堕落だと言いたいのか」と反論したのはその一例である。

 しかし、私からすれば、こういった反論と批判のほとんどが的外れである。政治風刺や政治批判を行うのは、確かに落語の良き伝統であろう。しかし、それは観客としての私たちが、落語の政治批判を何でもかんでも無批判のままで受け入れなければならない、という意味合いではない。

 政治風刺も政治批判も良いのだが、それには面白いかどうか、特定の政党や政治的立場に偏っているかどうかがつきまとう。それに対し、われわれ観客の一人一人が、自らの基準と心情に従って論評したり批判したりするのはむしろ当然である。

 要するに、『笑点』には政治を風刺し、批判する自由はあるが、われわれ観客にも『笑点』の政治批判に賛同したり、批判したりする自由がある。「『笑点』は庶民の声を代弁して権力批判をしているから、『笑点』を批判してはならない」というゆがんだ論法は、逆に『笑点』に対する批判を封じ込めて、『笑点』そのものを絶対的な権力にしてしまう恐れがある。これこそ、この問題の最も重要な焦点ではないのだろうか。

 iRONNAは、産経新聞と複数の出版社が提携し、雑誌記事や評論家らの論考、著名ブロガーの記事などを集めた本格派オピニオンサイトです。各媒体の名物編集長らが参加し、タブーを恐れない鋭い視点の特集テーマを日替わりで掲載。ぜひ、「いろんな」で検索してください。

【プロフィル】石平 せき・へい 昭和37(1962)年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学部卒。昭和63年に来日し、神戸大大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。平成19年、日本国籍を取得。近著に『結論! 朝鮮半島に関わってはいけない』(飛鳥新社)。

この記事を共有する

おすすめ情報