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【文芸記者が読む】“芥川賞芸人”、又吉直樹さんの新作「劇場」 いつの時代の読者でもわが身を振り返る青春という永遠の普遍性 

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“芥川賞芸人”、又吉直樹さんの新作「劇場」 いつの時代の読者でもわが身を振り返る青春という永遠の普遍性 

文芸記者が読む更新
小説「劇場」のゲラに手を入れる又吉直樹さん=今年2月、東京都内(新潮社撮影) 1/2枚

 2015年に芥川賞を受けたお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さん(36)の新作「劇場」が、文芸誌「新潮」(新潮社)4月号に一挙掲載された。

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 原稿用紙にして約300枚の長編で、自身初となる恋愛小説-。

 出版元のそんな前宣伝も世間の興味をかき立てたのか、「新潮」の発行部数は文芸誌では異例の5万部に達している。

 さて肝心の中身は? 「作家・又吉直樹」の真価が問われる新作を、早速読んでみた。

着手は「火花」よりも前

 「2作目、着手してますね。そっちの方、先に書いていたんですよ。お笑い? いや、また全然別のものです」

 初の純文学作品「火花」を文芸誌「文学界」(文芸春秋)に発表した後の15年2月。インタビューに応じてくれた又吉さんはそう話していた。

 ここで2作目、と語られていたのが今回の新作「劇場」ということになる。書き始めたのは「火花」より前という。ならば、「何としてでも言葉にしたい」という作者の熱や切実さが、「火花」に劣らずこもっているのは間違いない。

 期待を胸に「新潮」を開く。冒頭から印象的な文章が目に飛び込んできた。

詩的な文章で始まる

 〈まぶたは薄い皮膚でしかないはずなのに、風景が透けて見えたことはまだない。もう少しで見えそうだと思ったりもするけど、眼を閉じた状態で見えているのは、まぶたの裏側の皮膚にすぎない。あきらめて、まぶたをあげると、あたりまえのことだけれど風景が見える〉

 「火花」は熱海の花火大会の情景から書き起こされていた。この「劇場」の冒頭は、ただ風景を切り取るのではなく、どこか内省的な印象。一編の詩のような味わいもあって、一気に引き込まれた。

 主人公は、東京で劇団を率いる劇作家の「僕」(=永田)だ。郷里の友人と旗揚げした劇団の舞台は酷評にさらされ、客が入らない。バイトもクビになり収入はほとんどない。

 食費を削る日が続き、病的に痩せた「僕」は、肉体と意識が別々のように感じる異様な状態のまま、あてもなく東京の街をさまよう。

 そんなとき、原宿の雑踏で見かけた1人の女性に声をかける。高校を卒業、女優を目指して青森県から上京して服飾関係の大学にも通っている学生の沙希だ。「僕」は下北沢にある沙希の家へ転がり込み、2人での東京生活が始まる。

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  • 又吉直樹さんの新作「劇場」が掲載された「新潮」4月号