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【スポーツ異聞】走れぬ大砲が野球をつまらなくする? 「トリプル3」どころか「40本-40盗塁」を追う大リーガーを見習え

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走れぬ大砲が野球をつまらなくする? 「トリプル3」どころか「40本-40盗塁」を追う大リーガーを見習え

スポーツ異聞更新

 「求む! 走れる大砲」-。今季のプロ野球は3割、30本塁打、30盗塁の「トリプルスリー」がセ、パ両リーグで誕生するという記録ラッシュの様相を呈した。しかし、大リーグで「トリプル3」よりも高く評価されるのが40本塁打と40盗塁を組み合わせた「40-40」(フォーティー・フォーティー)である。本塁打と盗塁という“真逆”ともいうべき記録を同時に達成する希少性にこそ価値がある。プロ野球人気復活のヒントを握るのは、打棒と走力を兼ね備えた十種競技のようなスーパーアスリートなのかもしれない。

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走力は正しく評価されているか?

 プロ野球の入団テストは、誰にも「門戸」が開かれている。1次テストで試されるのが遠投と50メートル走。走力の目安は50メートル6秒5以内が一般的だ。抜群の運動神経がなくても十分クリアできるハードルといえる。そもそも、実際の試合で求められるのは50メートル走のタイムではなく、ベースランニングや投手のクセを盗むスキルである。走力に対する評価は単純ではない。

 大リーグでは強打者も走ることをいとわない。「トリプルスリー」を生涯に3度達成しているバリー・ボンズ(ジャイアンツ)は通算762本塁打を放った長距離砲だが、若い頃は俊足でならした。1996年には42本塁打、40盗塁を記録。大リーグの長い歴史の中でも「40-40」は数人しかいない。

 日本のプロ野球で「40-40」の達成者は一人もいない。87年、西武の主砲・秋山幸二が43本塁打、38盗塁で肉薄したが、盗塁数が2つ足りずに栄冠を逃した。「ドラフト外」の入団だが、強打者・秋山の潜在能力を見いだした当時の根本陸夫監督の「眼力」も看過できない。プロ野球史に名を刻む王貞治や長嶋茂雄、三冠王・野村克也にしても、トリプルスリーをなし得ていない。ON時代、この記録に重みがなかったことや、大打者に盗塁が求められていなかったという事情が影響しているようだ。

「世界の盗塁王」の凄さ

 野球は「失敗のスポーツ」といわれる。成功の陰には失敗の繰り返しがある。以前、ネット掲示板で考案されて話題になった「赤星式盗塁指標」というユニークな物差しがある。赤星とは元阪神の赤星憲広のこと。50メートル5秒6という俊足を武器にセ・リーグで5年連続盗塁王に輝いた。引退後、野球解説者となった赤星の「盗塁は成功数だけでなく、失敗数にも注目してほしい」という発言をもとに編み出されたユニークな評価法だ。例えば「100盗塁成功しても50盗塁死なら価値はゼロ」ということになる。

 阪急の黄金時代を築いた一人、福本豊はシーズン100盗塁、通算1065盗塁を記録したが、盗塁成功率は8割に達していない。実はこの男にはもう一つの「武器」があった。野球専門誌「読む野球」(主婦の友社)のインタビューで「ぼくは盗塁、盗塁言われますけど、こんなチビでも200本以上ホームラン打ってる。これがいちばん自慢できる」などと答えている。「世界の盗塁王」は入団当初、非力で、外野にすら打球が飛ばなかった。パンチ力のなさを不断の努力で克服し、168センチの小柄な男が通算208本塁打という長打力を身につけたのである。

 ちなみに、オリックス時代のイチローも盗塁成功率では福本の上を行く。232回試みて199回成功している。なんと8割5分の成功率である。

鈍足がチャンスをつぶす

 今季の「打撃10傑」に盗塁数ゼロの打者が両リーグにいるのをご存じか。高打率でチームに貢献しているとはいえ、盗塁を見込めない打者は自軍にとって併殺の元凶になる。塁上に“鈍足”がいるだけでベンチは作戦を立てにくい。さらに言えば、走者が出れば犠打で送って、適時打に期待する「予定調和」の作戦はファンにとっても面白みに欠ける。1番から9番まで果敢に次のベースを狙ってこそ、ダイヤモンドが躍動する。

 長距離砲なら鈍足でいいはずがない。プロ選手なら、生涯に一度は「40-40」を狙ってほしい。