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【夜の政論】「私こそ日本流保守!」吠える民主・枝野氏、自分を必要とする時代が…「いや応なく東京五輪は民主政権」

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「私こそ日本流保守!」吠える民主・枝野氏、自分を必要とする時代が…「いや応なく東京五輪は民主政権」

夜の政論更新

 今国会の最大の焦点となっている安全保障関連法案は衆院採決の機運すらない。「自民党は弛んでいる」と皮肉ってみせるのは、民主党の枝野幸男幹事長だ。永田町の論客として知られるが、つきまとう「左派」のイメージを嫌う。「私こそ日本流保守。安倍晋三首相は保守ではない」-。驚きの言葉の真意に迫った。

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 枝野さんと待ち合わせたのは、東京・平河町のそば店「すわ庵貝坂店」。店内で毎日打つコシの強い手打ちそばが自慢だ。

 「普段は肉食」という枝野さんだが、豊富な和の食材と日本酒、国会から車で5分という近さにひかれ、同僚議員らとたびたび店を訪れるという。

 確かに枝野さんの注文は、高知産のカツオ刺し、旬のタケノコとアスパラなどの野菜の天ぷら、岩手産「菜彩鶏」の塩焼き…など日本酒に合いそうなものばかり。こよい選んだ宴席の友は、宮城県塩釜市の純米吟醸「浦霞禅」の冷や酒だ。

 「司法修習生時代、仙台市で先輩弁護士に飲ませてもらった『浦霞禅』で、日本酒に目覚めました。東北大の学生だった頃は安酒しか飲めず、日本酒が大嫌いだったのですが、この酒は雲泥の差。宮城の誇りです」

 きりっと冷えた「禅」は雑味がなく、すっきりした味わい。丸みを帯びた純米酒独特のうま味が舌先を楽しませる。梅雨時のうっとうしさを癒やすにはぴったりだ。

 今夜の枝野さんは、お会いしたときからすこぶる機嫌がいい。脳裏にあるのは当然ながら安保法案。安倍首相の命運がかかるはずなのに、なぜか自民党に「自爆ミス」が目立つからだ。

 「衆院憲法審査会の参考人質疑は、私たちにとっても想定以上でした。いわば『神風』だよね。自民党推薦の長谷部恭男早大教授までが『憲法違反』と断じるとは…。まあ、ちょっと考えれば、長谷部先生が合憲というはずがないのですが。安保法案の審議で憲法論に切り込むのはもう少し後になると想定し、私が直接出陣しようと準備していたのですが、出番が早まってしまいました。自民党は弛んでいますね。そもそも今回の審議は強引過ぎますよ。必然的に無理が生じるのです」

 枝野さんは、政府が提出した安保法案の中身にも疑問を向ける。2法案のうち1本は、自衛隊法や国連平和維持活動(PKO)協力法など10法の改正部分だけを束ねた「平和安全法制整備法案」だが、10法の要点を特出して1つの法案にまとめたやり方が、「民主党の国会対策を楽にした」という。

 「仮に10法案をばらばらに提出していたら、民主党内では1本ずつ賛否を調整することになり、大変な作業が必要でした。日本の現下の安保環境を考えれば賛成部分もあり、PKO協力法などは修正協議を求めたかもしれません。でも『一括』なら、部分的に賛成しようにもできません。賛否の二択しかないのですから」

 枝野さんがうまそうに「禅」の冷酒グラスに口をつける。「魚は苦手」というが、日本酒がお供なら刺し身もごちそうに変わるから不思議だ。

 とはいえ、安保政策は国家運営の基本。日本をどう守っていくのか、審議では民主党のビジョンも問われるはずだ。中国の軍拡と海洋進出路線などを考えれば、反対一辺倒を唱えるのは、ちょっと無責任ではありませんか。

 「日本の安保政策でリアリズムを持つのは、北朝鮮と台湾海峡、ぎりぎりで南シナ海だと思うんですよ。そこに政府が中東・ホルムズ海峡などという日本の存立危機と関係ない案件を絡ませたのが諸悪の根源。仮に『日本を守るためだけに、どうしても国際法上の集団的自衛権の一部を認めざるをえない』などと、まともに提案されていたら、世論にどう説明するか、正直民主党はきつかったと思うんです。ホルムズ海峡のような案件が忍び込んだのは、この期に乗じて外交的ポジションを高めたい外務省の悪ノリですよ。罪深いと思いますね」

 ただ、集団的自衛権の是非を正面から議論しないのは、日本の安保政策そのものにとって不幸ではありませんか。

 「今問うべきは、憲法が認める個別的自衛権の外縁をどう埋めるか。首相がよく例に出す邦人輸送中の米艦防護も、本当に必要な範囲なら個別的自衛権で説明できます。自民党は『国際法上は集団的自衛権なのだから、憲法解釈の変更が必要』と言いますが、国内的に個別的自衛権と歯止めをかけておくことが重要なのです。安全保障のリアリズムでは、それこそが重要かつ十分ですよ」

 枝野さんが箸を置いて、話のスピードをあげる。

 「逆に政府は、日本の安保にとって核となる敵基地攻撃能力に関する議論をスルーしている。他国が日本の領土に上陸したら『終わり』というのは、歴史が証明していると思います。日米同盟が基軸というのは当然ですが、いざというとき、まずは自前で守るという体制づくりが不可欠です。それは北朝鮮情勢だけでなく、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の問題にも言えることですよ」

 これだけ聞くと、自民党の一部より「右寄り」という印象も受ける。枝野さんはどうしても「左派」というイメージが先行していますが…。

 「『左派』は御社のレッテル貼りですよ! 私こそ『日本流保守』の政治家。逆に安倍首相は、保守の対極にあるとすら感じます」

 安倍首相が保守の対極? どういうことですか。

 「日本は古来、海や山など『八百万(やおよろず)』を神とあがめる多神教の国。異なる価値観にも一定の寛容さを持ちながら、村落共同体がベースとなり、日本人は田植えや稲刈りを助け合って暮らしてきました。この集団にいれば、そこそこ生きられる。これが日本の『伝統的保守』の原点であり、欧米でいうとリベラルや社民に近いんです」

 「他方、国内で『保守』を名乗る一部勢力は、明治維新以降に流入した『欧米型保守』を大切にしている。このベースはキリスト教などの一神教。多神教と違い、異なる価値観を認めたがらない。特に安倍首相は経済政策をみると、弱肉強食の『アメリカ型保守』にもみえる。欧米流リベラルに近い日本の伝統的保守とは相いれないんですよ。昭和初期が日本の伝統的保守と思っている政治家は、歴史を勉強した方がいい」

 ただ、労働組合を支持母体にしている民主党の幹事長が「保守」と言い切るのは、無理がありませんか。

 「安倍首相もそうですが、それこそ『55年体制』の思考停止した見方。民主党は社会党じゃないからね。私は『アンチ巨人』だから、政治家を志望したとき自民党は選択肢に入れなかった(笑)が、もし55年体制当時だったとしても、社会党には入らなかっただろうな。今回のようなつまらない解釈改憲をされないように、歯止めを明確化する方向なら、憲法9条は変えた方がいいとも思っていますし」

 確かに枝野さんは、民主党きっての対中・対韓強硬論者として知られる。韓国で弊社の加藤達也前ソウル支局長が出国禁止措置を受けた際、「非常に重要な人権問題。政府は一層強い態度で臨まなければならない」などと激しく批判した。枝野さんは「当たり前のことを言ったと思うが、自民党の日韓議員連盟幹部の方が腰が引けた対応をみせて驚いた」と指摘する。

 「私は本当は『保守』で売りたい」と語る枝野さん。ただ「党内で私をもり立てようとしてくれる人からは『コアな支持層が誤解して離れてしまう』とアドバイスを受けますがね…」と苦笑いする。

 店員が締めのそばの種類を尋ねてきた。「すわ庵」では、季節ごとに秋田や山形産のそばの実を使い分け、気温や湿度と相談しながら毎日店先でこね上げる。本日のそばは北海道深川産だ。枝野さんは太く黒い麺の「田舎もり」を注文。のどごしのいい「せいろもり」も捨てがたい。風味豊かな手打ちそばは「禅」との相性も抜群だ。

 「私が尊敬する政治家は台湾の李登輝元総統。北朝鮮のような体制にもなりかねなかった世襲独裁体制を転換し、アジア屈指の民主化を成功させた。若手議員当時、台湾で李さんから聞いた言葉が忘れられません」

 枝野さんが語り出した。

 「『政治とは何か』という問いに、李さんは流暢(りゅうちょう)な日本語で『時間の関数』と答えられた。私は政治家として経験を重ねるほど、この言葉の重みを痛感するんですよね」

 枝野さんは過去のブログで、「時間の関数」の意味について「正しかった政治・政策が今も正しいとは限らず、今正しい政治・政策が将来にわたり絶対的に正しいわけではないもの」と説明している。民主党は「時間の関数」の原理通りに自民党から政権を奪取し、「時間の関数」を間違えて政権を失ったような…。残酷な言葉でもありますね。

 「逆に、時間の関数を今の政局に当てはめれば、少なくとも今後2年間、野党が物事を動かすのは至難の業だと思うんですよ」

 確かに、衆参両院で多数を握る自民党の足元はそう簡単に揺らぎそうもない。民主党には、過去の政権運営に対する厳しい視線が残ったままだ。

 「私はよく『昭和17年論』を話しています。東条英機首相(当時)に抵抗して獄舎に突っ込まれた人たちは、ある意味では立派だったけれど、リアルな政治論としては、結果戦後の混乱期に役に立たなかったというのはダメだ」

 だからといって、2年間を静かに過ごすというわけにもいかないでしょう。枝野さんが「時間の関数」に基づく勝負のタイミングは、いつだと感じているのですか。

 「2020年東京五輪・パラリンピック。このときは、私たちがいや応なく与党になっているでしょう。だから五輪に新国立競技場の屋根が間に合うか、とても気になるのですよ。開会式を予定する7月末の夜の東京なんて、5割の確率で雷雨となるでしょう。万一の際は一体どうするんですかね。この泥を私たちの政権が背負うことになるのですから」

 あと5年後…。現政権は安保議論をやっている今も高い内閣支持率を誇っていますよ。5年以内に自民党政権の牙城を崩すのは難しいのでは。

 「私は、来年夏の参院選を安倍さんが首相として迎える確率は『5割』と思っているんです。これから安保だけでなく、経済などさまざまな波乱要因がある。仮に1ドル250円程度まで円安が進んだら、五輪どころの騒ぎではなくなりますよ。そうなる危険性もゼロではないでしょう?」

 ひょっとしてそのときは、「枝野首相」ですか。

 「私を必要とする時代が来ないことが、日本にとってはいいことだと思いますよ!」

 歯切れ良く語る枝野さんだが、人気アイドルグループ「AKB48」の大ファンという側面は、意外に知られていない。こよいの宴席には、筋金入りのAKBファンである弊社の酒井充野党キャップも同席し、AKB論で盛り上がった。

 酒井記者「今年の総選挙で、高橋みなみさんのスピーチには泣きました」

 枝野さん「高みなさんのスピーチには魂がこもっていましたね。人生をかけ、あれだけ真剣にスピーチを考え抜くのは素晴らしい。うちの議員もじっくり見て学ぶべきだ。しかし今年は、私が投票したい竹内美宥(みゆ)さんが立候補しなかった。求める投票先がないというのは非常に残念。やはり全選挙区に候補者は立てなければなりません」

 遠い目で2人を見るしかなく、酒ばかりが進んだ。

(政治部 水内茂幸)

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【すわ庵 貝坂店】 東京都千代田区平河町1の5の2青木ビルB1。(電)03・5210・3636。営業時間は午後5時半~11時。土日祝日休。