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【悩める日本の「航空医」】(下) 身体検査で不合格者は年間1千人超、パイロット不足も深刻化しており、解決策なし

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(下) 身体検査で不合格者は年間1千人超、パイロット不足も深刻化しており、解決策なし

悩める日本の「航空医」更新
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 多くの乗客の命を預かる航空機パイロットは、法定の航空身体検査の項目で1つでも不合格となれば乗務できない。年間1万人余りが申請するが、厳しい内容のため、不合格者は1千人以上に及ぶ。航空需要の高まりに伴うパイロット不足が今後深刻化する見通しだが、質と量を両立させる抜本的な解決策は見いだせていない。

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視力は1・0以上

 航空身体検査では国が指定した医師が内科、循環器、外科、眼科、精神神経、耳鼻咽喉-の各項目を詳細にチェックする。精神神経分野では既往歴、日常行動などに注意して検査するが、既往歴だけでも出生時の状況や生後の発育のほか、高熱疾患、頭部外傷、失神発作、不眠などの有無も判断材料となる。

 肥満にも厳しく、体容量指数(BMI)の標準は30未満が標準。乗務中の体調急変を招く動脈硬化などの原因になる恐れがあるからだ。視力も裸眼で0・7以上、両眼では1・0以上が求められる。

 しかし、厳しい検査をパスしても、乗務中に体調が急変したケースもある。平成12年9月、全日空機が名古屋から佐賀に向け飛行中、機長が意識不明となり、その後、小脳出血のため死亡した。16年3月には成田からシンガポールに向かっていた全日空機で、副操縦士が急性膵炎(すいえん)を発症している。いずれも、もう1人のパイロットが操縦し、目的地まで飛行したが、厳しい検査といえども万能ではないことを示す。

過去には不正通過も

 乗務続行の可否を決める航空身体検査。国土交通省によると、25年度の検査では自家用を含め約1万人が申請し、1割程度が不合格となっている。不合格でも判定が難しい場合は、指定医が複数の専門医らで構成する国土交通省の審査会に諮り、条件付きで合格するケースも少なくない。

 航空会社によっては、パイロットの不合格が運航計画に影響を与える場合もあり、過去には不正に手を染めたケースもあった。20年5月、がんの病歴を隠すよう指示するなどして外国人機長の資格に必要な航空身体検査証明を不正に取得させたとして、スカイネットアジア航空(宮崎市)が国交省から業務改善勧告を受けている。

 一方、自ら大事をとって乗務しないケースも多い。航空評論家で日航元機長の山田不二昭さん(66)は血圧が上限値に近かったため、医者の指導を受けながら一定期間、乗務を休んだことがある。「体調不良を隠して乗務し、万が一事故になれば大変なことになる。パイロットは通常、自発的に会社に相談している」と話す。

アジアでは4倍超必要

 パイロット不足の傾向は今後、深刻化する。世界全体での航空需要の拡大を背景に、2030年に必要とされるパイロット数は2010年の2倍以上の約98万人と見込まれる。とりわけ、アジア太平洋地域では4・5倍の約23万人が必要となり、各社のパイロット争奪戦も激化しそうだ。

 各国は国際民間航空機関(ICAO)基準に沿って、検査マニュアルを作成しているが、身体的特徴などもあり、検査項目にばらつきがある。そのため、日本の航空会社を希望する外国人パイロットの中には、検査基準をクリアできないケースもある。

 検査基準については、日本でも過去に複数回見直され、「国際基準に近づいている」(航空関係者)が、それでも国交省航空局の担当者は「パイロットの人数拡大を優先するため、検査を緩くすることはない」と言い切る。

 国交省は23日、現行64歳の乗務上限を67歳に引き上げるなどパイロット不足解消に動き始めた。上限引き上げには厳しい身体検査が条件だが、高齢化に伴う健康面への懸念も付きまとう。

 パイロットの質と量をどう両立させるか-。日本の航空業界は解決策を模索している。