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「さよならと言ったら声掛け事案だというのか?」警視庁“不審者情報メール炎上事件”の顛末
日本の議論更新炎上のきっかけは「さようなら」の一言だった。警視庁が3月、地域の防犯情報を発信する「メールけいしちょう」で、「日中に子供が男に『さようなら』と声を掛けられた」とする不審者情報を配信した。メールに記載された声掛けの内容はこの一言だけ。この配信にインターネットユーザーが反応し、「あいさつ禁止の世の中か」などの投稿があふれた。しかし実際は男にはそれ以上に不審な点があったという。子供への声かけ事案は犯罪防止の観点から看過はできず、警視庁は「より具体な情報発信を」と各警察署に呼びかけた。
「何が問題なの?」
《3月11日(水)、午後3時50分ころ、北区神谷2丁目の公園内で、児童が遊んでいたところ、男に声をかけられました。
声かけ等の内容
・さようなら
不審者の特徴については、40歳代、160センチ位、やせ型…(略)》
警視庁が3月11日に配信したメールけいしちょうには、こう記されていた。このメールから読み取れるのは、男が公園で子供にあいさつしたという状況のみで、公園で交わされた“平和な光景”にもとれる。
これに対し、配信当日の夜にはネット掲示板「2ちゃんねる」にスレッドが立ち、激しいツッコミが相次いだ。
「挨拶(あいさつ)禁止の世の中か」
「オレが子供の頃はTVCMで『子供に声をかけてあげましょう』みたいなのやってたんだけど、今は正反対なのね」
「子供を見たら逃げなくちゃいけない時代になった」
ツイッターでも議論が巻き起こる。中には配信方法について指摘する投稿もあった。
「声掛け事案は情報が少ないんだよね。声掛けただけで不審者になっちゃうからさ、情報足していかないと」
「『何が問題なの?』と理解されないような中途半端な配慮をするなら、いっそ『声掛け事案』だなんて紹介しなくていいと思われるんですが」
配信すべき情報の重要性
実際、男はどんな様子だったのだろうか。配信元の赤羽署に聞いてみた。
「1人で遊んでいる児童に近づきながら、意味不明な言葉を発していました。最後に『さようなら』といったことだけ児童が聞きとれたので、メールには『さようなら』と書いたのですが…」と担当者は説明する。その上で「誤解を与えてしまった。『声かけ等の内容』として、『意味不明な言動』とも書くべきでした」とも語った。
同署によると、児童から不審者の話を聞いた保護者が署に連絡し、署員が現場に行って、この状況を聞き取った。児童に向かってきたことや、意味不明な発言を受けて「不審」と判断したという。
メールけいしちょうを担当する警視庁犯罪抑止対策本部はこの件を受け、誤解を受けないように情報を入力することを全警察署に改めて呼びかけた。
同本部の担当者は、「配信の目的は、同じ場所で子供が被害に遭わないようにすること。声掛けから事件につながることもあるので、早くわかりやすく情報を知らせなければならない」とし、今後も積極的な配信を続けていく考えだ。
「前兆事案」は100件増
警視庁が指摘するように、子供を狙った事件は後を絶たない。
子供の犯罪被害対策を特集した平成25年の警察白書によると、全被害件数に占める13歳未満の子供の被害件数の割合は15年に1・4%だったのが24年には1・9%と上昇。
警視庁管内の昨年の子供に対する声掛けやつきまといなどの「前兆事案」は約700件発生し、前年より約100件増えていた。
警察では、子供を対象とした暴力的性犯罪で服役した人の出所情報を法務省から受け、各都道府県警で所在確認や面談を行っている。また子供や女性に対する声掛けやつきまといなどの「前兆事案」の分析や警告を行う専門部隊を全道府県警に設置している。
声掛けは、誘拐や性犯罪など重大事件につながりかねない。
子供の防犯に関する研究を手がけるセコムIS研究所の舟生(ふにゅう)岳夫主務研究員は、「不審者も大きな騒ぎにしたくない。無理やり連れ去るのではなく、子供がついてくるよう仕向けるため、まずは声を掛けて興味を引くケースが多い」と分析する。
「子供に『あいさつを返しましょう』と教えるのは大事だが、道を詳しく聞かれたりついて来るよう言われたりしたら、はっきり断るように注意しておくべきだ。警察からの不審者情報が自宅近くの案件だったら、改めて子供に注意を促すきっかけにしてほしい」と話している。