産経ニュース for mobile

【日本の議論】『ホテルオークラ』建て替えに反対する海外大物セレブたちの「セーブ・オークラ!」

記事詳細

『ホテルオークラ』建て替えに反対する海外大物セレブたちの「セーブ・オークラ!」

日本の議論更新

 「将来後悔しないように今、行動を起こしましょう」-。イタリアの高級ブランド「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブ・ディレクター、トーマス・マイヤーさんは公式サイト(bottegaveneta.com)にアップされたビデオメッセージで、こう世界に呼びかけている。

<< 下に続く >>

 建築に造詣が深く、日本のモダニズム建築を愛するマイヤーさんがとりわけ憂慮しているのが、ホテルオークラ東京本館(東京都港区)の建て替え計画だ。

 高度成長期の1962年に完成したオークラ本館は、建築家の谷口吉郎を筆頭に、当時の建築・デザイン・工芸・美術のトップランナーを集めて建造された、日本モダニズム建築の代表格。設計コンセプトは「世界からの客人を『日本の伝統美』でもてなす」。正面玄関からロビーに入るとまず、古代からの造形「切子玉形」を重ねた象徴的な灯具「オークラ・ランターン」が目に入る。また、少し低くなったメーンロビーには、漆塗りの円卓を囲み5脚の椅子が梅花のように配置され、「麻の葉紋」の木組み格子から柔らかな光が差し込む。モダンでありながら、随所に和の意匠や素材が駆使されたこの空間に、マイヤーさんは「西洋と東洋の完全な調和」を見るという。

 ところが本館は今年8月末で閉館し、東京五輪の需要を見越して38階建てと13階建てに建て替えられ、2019年春にオープン予定。五輪を機に都市が変貌する前に「日本のモダニズム建築の価値を世界に情報発信すべき」と考えたマイヤーさんは、各国メディアやSNS(交流サイト)などを通じて「セーブ・オークラ(オークラを救え)」のメッセージを発信、問題意識の共有をはかっている。そしてマイヤーさんとともに、日本のモダニズム建築の発信に力を入れているのが、ライフスタイル誌「カーサ ブルータス」(マガジンハウス)だ。

 同誌2015年1月号や公式サイト(http://casabrutus.com/special/japanese-modern-architecture/my-memory-of-okura)には、「なくならないで、私のオークラ」と題し、海外の著名なファンの声が多数紹介されている。「クリエイティブな仕事をしている人たちが宿泊したいと思うのは、オークラ」と英デザイナー、ポール・スミスさんは語り、同じく英デザイナーのマーガレット・ハウエルさんも「未来に残すべき文化財」だと惜しむ。建築家のスティーブン・ホールさんは「本館取り壊しは悲劇」とした上で、「他の方法を模索して、子供たちに受け継ぐべき」と進言している。

 同誌の松原亨編集長は「社会運動をしたいのではなく、オークラのファンであり顧客、消費者である立場からの『要望』『希望』を集めてみた。五輪を機会に、新しいものを一からつくるのか、文化的背景を抱える既存のものを、保存しながら使っていく方がいいのか-。考えるための“広場”をつくりたい」と話す。「実際、サイトへのアクセス数は右肩上がりで増え続けており、海外からも多い」と、同誌デジタルメディアディレクターの木熊太郎さん。

 さらに、海外主要メディアでもオークラ本館建て替えのニュースは報じられ、ワシントン・ポスト電子版は2015年2月2日付で、「オーキッド・バー」を含む本館の魅力をたたえるとともに、「この国の“取り壊し”文化の最新犠牲者」と辛辣(しんらつ)に表現した。カーサ ブルータスの松原編集長も疑問を呈する。「本館ロビーはオークラの“顔”。なくしてしまうのは、経済原理で考えても損ではないのか?」

 こうした声に対し、ホテルオークラの広報担当は「現本館が日本のみならず、海外のお客さまから高い評価を得て、これほどまでに惜しむ声を頂いていることに心から感謝申し上げます」とコメント。最新の施設・機能を備えた新しい本館でも「ホテルオークラが大切にしてきた日本の伝統美をしっかりと継承したい」と表明した。

 実は記者も「これが最後かも」と思い、先ごろ本館に泊まってみたが、客室などの設備の古さや老朽化は否めない。しかし階段スペースのタイルや通路の小さな照明など、細部まで行き届いたデザインには先人たちのこだわりが詰まっている。新しい本館も、このようにあちこち探検したくなる空間になるのだろうか。

 広報担当によると、解体し現状確認しないと移設を判断できない部分も一部あるが、「現本館ロビーの佇まいを継承していくほか、インテリア、装飾などにつきましても法律の許される範囲で、新本館に継承していきたい」という。(黒沢綾子)