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【iRONNA発】原発賠償 格差が福島の人々を曇らせる

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原発賠償 格差が福島の人々を曇らせる

iRONNA発更新

 「原発賠償金でパチンコ、高級車」。東京電力福島第1原発事故の補償をめぐり、よく耳にするこんな話だけでは本質はとらえられない。移住しようとしても帰還しようとしても、賠償金の格差が人々を曇らせてきた。原発事故から4年余り。損害賠償で福島の未来はつくれない。

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 自民党の東日本大震災復興加速化本部は5月をメドに、震災復興への第5次提言をまとめる。安倍晋三首相も震災4年のインタビューで、政府として、福島を再生させる政策パッケージを5月にまとめ、自立への将来像を夏までに決定する、と語った。大きなテーマの一つが東京電力による損害賠償のあり方だ。

 避難区域をたびたび取材した一人として、そこに盛り込んでもらいたいことが1つある。それは「損害賠償の打ち切り」だ。

 もちろん、避難者の生活再建はいまだ十分ではない。しかし、「避難生活に伴う精神的苦痛に対し、1人当たり月額10万円を支払う」という精神的損害賠償のあり方は、自立に進もうとする人を足踏みさせてしまうように見える。

 例えば、除染やインフラ整備のめどがついた福島県楢葉町で、昨年前半には行うはずだった避難指示解除がいまだ実行されていない大きな理由の一つがこの賠償金である。避難指示解除から相当期間(この場合、1年とされている)が過ぎると、賠償金が打ち切られるからだ。

 ある程度の期間分を算定して一括で前払いする、弱者への対応は別途用意するなど、細やかな制度設計は必要だろうが、震災後5年というこのタイミングで、避難区分などによらず、全域における「打ち切り」という方向性を打ち出すことが、福島の未来を前向きで明るいものにするために必要ではないだろうか。

全国トップ10を独占

 一定額をまとめて支払うというやり方はとっぴなことではなく、既に一部で実施されている。放射線量が最も高い帰還困難区域では当初、解除の見込みがない事故後6年強についてまとめて精神的損害賠償が支払われていたが、平成25年12月の中間指針第4次追補を受けて、長期間の故郷喪失に伴う慰謝料として700万円が一括で追加支払いされた(合計1人当たり1450万円)。

 もちろん、賠償の継続や増額を求める声はある。しかし、一方で賠償金の有無や多寡をめぐって、たくさんの軋轢(あつれき)が起きていることも事実である。特に、避難者と、賠償を受けていないもともとの住民が混在している南相馬市やいわき市では「賠償金をもらい過ぎだ」という声も多く耳にする。

 いわき市では、避難者が賠償金を使って建てた新居に対し、「賠償御殿」と揶揄(やゆ)する声も出ている。道路も病院も混雑し、今年3月発表の公示地価では、なんと、いわき市が住宅地の上昇率で全国トップ10を独占した。アパートを借りるのもままならない状況に、もともとの住民のストレスは高まっている。

そろそろ区切りを

 では、現状支払われている賠償金は不十分なのだろうか。実は、これまで合意に達して支払われた賠償金の平均額はきちんと開示されている。最新の資料は昨年12月末時点でのもので、原子力損害賠償紛争審査会の配布資料として公開されている。

 それによれば、4人世帯の場合、個人賠償(精神的損害賠償、避難費用、就労不能損害などの計)は4人合計で約4千万円、宅地・建物で約4千万円、家財で約500万円、田畑・山林で約500万~1千万円、住宅確保損害で約2千万円が支払われている。

 これらは項目ごとの平均額で、それぞれ母集団が異なる(すべてを請求しているとは限らないし、持ち家や田畑は所有している人といない人がいる)ため、足し上げることには注意を要するが、単純合計すれば、帰還困難区域で1億5318万円、居住制限区域で1億503万円、避難指示解除準備区域で1億351万円となる。

 賠償金がどの程度であれば適切かという判断は非常に難しいが、政治のリーダーシップでそろそろ区切りを示していくべきなのではないだろうか。

【プロフィル】大江紀洋 おおえ・のりひろ 月刊誌『Wedge』編集長。昭和52年、奈良県生まれ。東大卒。平成18年から同誌編集部に所属し、主に製造業やエネルギー分野を担当。iRONNA当番編集長も務める。

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