産経ニュース for mobile

【生活の知恵】「入園グッズは手作りで」幼稚園・保育園から求められ母親は…

記事詳細

「入園グッズは手作りで」幼稚園・保育園から求められ母親は…

生活の知恵更新

 4月の幼稚園や保育園の入園時期。新しい一歩を踏み出したわが子の姿に胸を熱くした保護者も多いだろう。入園や進級に際して2、3月に開かれた説明会で「手作り品」の準備を求められ「大変だった」という声をよく聞く。子供が使うシーツやエプロン、スモック(遊び着)などを「手作りで」と園から求められることが多いからだ。最近は、写真中心のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)への手作り品の投稿も盛んで、参考になると好評の半面、「こんなに上手に作れない」というプレッシャーから、手作り品の“外注”も多くなっている。そもそも手作り品を外注したら、「親による手作り」ではなくなってしまうのだが…。(村島有紀)

<< 下に続く >>

園によって異なる「準備品」

 「えーっ、シーツを縫うんですか? うち、ミシンがないんですけど…」

 神奈川県内の保育園に、0歳児の長女を入園させた母親(40)は、3月の入園説明会で掛け布団、敷布団用のシーツを作ることを求められ、戸惑った。園にある布団の大きさに合わせたもので、指定サイズのシーツは市販されていない。

 母親は洋裁・手芸の趣味はなく、「シーツを縫うためにミシンを買うのはもったいない。子供が起きている間は、針を持つのは危ない」と結局、近くの手芸店に“外注”することにした。費用は布代込みで約1万円。母親は「忙しいから保育園に預けるのに、手作りのシーツを求めるなんて、全く意味がわからない」と不満を隠さない。

 また、都内の保育園に長女を通わせる母親は、シーツだけでなく、エプロンや手提げかばんなども注文し、材料費込みで約2万円かかった。保育園から求められたのは、いずれも市販されていないタイプものばかりで、親の“手作り”が前提だ。「みんな一緒の生地で園が用意すればいいと思う。そんなに、働く母親を追い詰めないでほしい」と漏らす。

 幼稚園の場合は、保育園以上に入園時に手作り品を求めるケースが多い。園児が持つバッグやお弁当袋、ランチョンマット、スモック、エプロンなどを、全て同じ布で作るよう求める園もある。横浜市内に住み30代で育児経験した母親(40代)は「手芸は嫌い。チクチク針を使う時間があるなら、私は息子に本を読んで聞かせたかった」と振り返る。

 逆に、親の負担軽減のため「すべてこちらで用意」を“売り”にする幼稚園や保育園もある。

ネットに“お手本”“外注先”も

 手芸用品を扱う「オカダヤ」(東京都新宿区)によると例年、新年度を前にした1~3月は、子供用の手作り品用の生地の売り上げが増加するという。今年は、キャラクター生地が前年の1・3倍になった。同店では、写真投稿型SNS「インスタグラム」に、手作り品を投稿する「オカダヤママ部」も開始。布に刺繍(ししゅう)をしたり、子供の好きな電車を模したりといったアイデア豊富な作品が続々と投稿され、「器用なママさんですね」「すごいね」「お互い頑張ろう」などのやりとりが展開される。

 一方、インターネット上で、手作り品の“外注”を請け負う業者も増えている。

 3年前から、スモックやバッグなど入園グッズの手作り品をネット上で注文を受け、手作り代行を行っている「ハピメイド」(http://hapimade.com)。運営する「エフエフシー」(岐阜県高山市)によると、オーダーは年々増加し、今年2、3月に計約600件の注文があった。オーナーの山本寿広さん(47)は「これほどニーズがあるとは思わなかった。(少ない人数で)真夜中までミシンを動かしても間に合わないほどの忙しさでした」と話す。

「下手でも、子供が喜ぶ」

 そもそもなぜ、保育園、幼稚園側は、手芸が好きな人も嫌いな人も、忙しい人もそうでない人も、ほぼ強制的に手作り品を求めるのだろうか。

 都内のある公立保育園の園長は「シーツの手作りは、保育園ができた30~40年前の時代の名残。そのころは一家に一台ミシンがあるのが普通で、今のように既製品がないから何でも家で縫っていた。また、自治体によってはシーツ代を用意するお金がないという財政的な理由もある。ただ、シーツにマークを付けたり、バッグやエプロンなどを共布(ともぬの)で作るのは、字をまだ読めない子供のため。マークがあったり、同じ布で作られていたりすることで子供は自分も持ち物と、他の子供の持ち物を区別しやすい」と説明する。

 さらに、子供にとっての利便性のほかに一部の保育園、幼稚園は親子の絆を育む「情操教育の一環」として“親の手作り”を求めているようだ。

 インターネットメディア「ノーツマルシェ」などで活躍する保育情報アドバイザー、三木育美さん(42)は、中学2年から小学3年まで4人の子供を私立保育園に通わせた。その際には、布おもつはもちろん、お昼寝中に一緒に眠るために手作りのぬいぐるみ、手作りのパジャマなどを求められた。

 保育園側は、親が作ったぬいぐるみをよりどころに、子供が親と離れる寂しさを紛らわせ、耐えさせようとしたのだと三木さんは考える。

 「時代の流れで、市販のものでもいいという園もありますが、親の手作り品は下手でも子供が喜ぶ。ものを大切にする気持ちも芽生える。ベビー服で作ったぬいぐるみを、小学生になった後も一緒に寝ている娘をみると、作ってよかったと思う」と三木さん。

見学時に園の方針、確認を

 一方で、見た目のかわいさや出来映えの良さにひかれ、業者に“外注”する人も少なくない。『◯◯幼稚園の指定品を縫います』と、外注を請け負う業者もあり、情操教育とはかけ離れた実態もあるという。

 三木さんは「幼稚園の場合は、自分で教育方針にあった園を選べますが、保育園の場合は、待機児童の多さのために入れることに必死になり、保育方針まで目が行かず、入園が決まってから慌てる場合がある。いずれにしても、入園申し込み前の見学段階で、園の方針や手作り品の有無など事前に確認して、自分の考えにあった園を選べるといい」と話す。

 学習指導要領の改訂で、平成5年から中学の家庭科と技術が男女共修になり、女子にとっては家庭科の授業数が従来に比べ、およそ半減した。昭和40年代の女子中学生は、年間105時間(週3コマ)、3年間みっちり家庭科を習った。一方、平成5年以降は、技術と家庭科が男女共修になり、中学の家庭科は週1コマしかない。しかも既製服の手入れ方法などが中心で、被服製作を行わなくなった学校もある。「小学校卒業以来、針を触ったことがない」(ミシンメーカーの社員)という声もあるほど、女性の手作り品の製作能力は全体的に低下している。

 時代は変わったのに30年、40年前と変わらず、母親の手作りを求める保育園や幼稚園とのずれを感じる一方、自分の手で子供のものを「作りたい」と思うのも親心。手作り品には、既製品にはない温かみがあるからだ。少しだけでも作っているところを子供に見せ、完成したものを手にすれば、喜びもひとしおだ。それができない場合に、裁縫やミシンが得意な親戚やママ友、近所の知人など育児の“ネットワーク”を築く機会にするといい。時間をかけて作った持ち物には、目に見えない大事なものを伝える「力」があるはずだ。