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【経済インサイド】中国「アジアインフラ投資銀」欧州も参加、弱まる米の影響力…悩む日本「米にハシゴ外され船が沈んだら…」

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中国「アジアインフラ投資銀」欧州も参加、弱まる米の影響力…悩む日本「米にハシゴ外され船が沈んだら…」

経済インサイド更新

 中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」構想が国際社会を揺らしている。旺盛なアジアのインフラ需要に応える枠組みと歓迎する向きもあるが、その先には人民元の国際化を狙う中国の野望もちらつく。先進7カ国(G7)を始め欧州勢の参加表明も相次ぐ中、日本はいかに向き合うべきなのか。激しさを増す米中の覇権争いからは米国の影響力低下も垣間見える。

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「中国の、中国による、中国のための機関」

 「中国の、中国による、中国のための国際機関に見える。中国の視界にあるのは米国だけだ」

 日中韓外相会談に向け、関係国との調整に入っていた2月上旬、外務省幹部は旧知の財務官僚に中国側の狙いをこう解説した。

 米国に本部がある世界銀行(参加国188カ国)、日本が最大出資国のアジア開発銀行(ADB、67カ国・地域)など世界各地には多くの「開発銀行」が存在する。世銀には米国が約17%、ADBには日本が約15%を出資し、途上国の開発支援と向き合ってきた。

 だが、AIIBは本部も総裁ポストも中国が独占し、5割近い出資が見込まれており、中国の政治・外交上の影響力を拡大するための機関になるとの見方は強い。国際金融秩序を主導してきた日米両国の外交当局が警戒するのは、こうした理由だ。

 とはいえ、アジアのインフラ整備需要は旺盛で、まだまだ満たされていない。ADBの試算によれば、2010~2020年に域内では計8.3兆ドルのインフラ需要があるとされる。AIIBが設立されれば、技術力が高い国の企業にとっても新たな開発事業を獲得するチャンスを見込める。

明確な回答をしない中国

 こうした需給バランスを巧みに国家戦略に当てはめた中国は、習近平国家主席による2013年10月の設立表明後、一気に攻勢を仕掛けてきた。

 「ニュージーランドやオーストラリアも賛意を示している。もっと増えてきたら日本はどうすれば良いのだろうか」

 わずか1年後の2014年秋には、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国すべてを含む計22カ国がAIIB参加に向け署名。今年に入ると、ある財務省幹部は中国が強める外交攻勢を前にいらだちを隠せなくなっていった。

 中国がAIIB参加を日本側に最初に促したのは、2014年7月の日中財務国際局長会談。この際、日本側は(1)AIIBによる融資基準は不明確ではないのか(2)参加国の発言権は確保されるのか(3)ADBなど既存の国際機関との協力関係を構築できるのか-の3点を問いただした。

 だが、これまで中国側は明確な回答をすることがないまま、既存の国際金融機関とは異なる新たな途上国支援の枠組みをアピール。創設メンバーへの参加期限を3月末と区切り、したたかに参加を催促してきた。

 今年1~2月にはモルディブなど5カ国が加わり、参加表明は計27カ国に拡大。さすがに中国から押し込まれることを懸念した自民党幹部の一人が財務、外務両省に見解を求めると、日米両国が抱く懸念に対して答えるよう中国側に投げかけていると説明した。

 その懸念は(1)融資審査能力への疑問(2)公正なガバナンス(統治)への不安(3)既存の国際機関との関係-などだ。日米はAIIBが巨額な融資を行う場合、それ以前に支援してきた世銀やADBなどと借り入れ国との関係が複雑となり、返済順位が不明確になるとみている。

欧州勢が相次いで“離反”

 借り入れ国の返済能力を無視した貸し付けが行われ、仮にその国が財政破綻に陥れば、別の国際機関に被害が生じる恐れがあるというわけだ。融資基準や組織運営の不透明さに加え、環境破壊につながる乱開発が途上国や新興国で横行することへの懸念もある。

 こうした考え方は、安倍晋三首相や菅義偉官房長官が記者会見などで繰り返す日本政府の対処方針につながり、AIIB参加はこうした条件をクリアしない限りは難しいとの判断に傾いた。

 だが、米国とタッグを組む日本にも誤算は生じた。3月12日にG7で初めて英国が参加表明すると、ドイツ、フランス、イタリアなど欧州勢のドミノ倒しが起きたのだ。AIIB構想に強く反発し、先進国などに不参加を陰に陽に求めてきた米国の影響力低下が著しいことを物語った。

 日本政府は「(AIIB協議の)中に入って、きちんとやるべきだという意見が欧州には多い」(麻生太郎財務相)と平静を装ったが、あっという間に構築された「日米包囲網」には焦りもにじんだ。

あっという間の「日米包囲網」

 中国は年内にAIIBの業務開始を目指しており、今夏に予定する設立協定の署名を前に参加国はさらに膨らむとみられる。米国の考えに近いとみられた韓国も参加表明しており、日本政府内には「日本も参加するかどうか真剣に考える時期に来ている」(経済産業省幹部)との声もあがる。

 このため、政府はADBなど既存の国際機関との役割分担や補完関係が確保されるなど、中国側から前向きな回答があれば、改めて参加の是非を検討する考えだ。ただ、麻生財務相は27日の記者会見で「これらが全く明確でないから、参加については慎重な立場というのは昔から変わらない」と述べ、3月末を迎えても懸念払拭に動く気配がない中国側の姿勢に首をかしげた。

 中国はAIIBを軌道に乗せるためにも、日米に対しては今後も参加を呼びかけ続けていくとみられている。安倍首相は4月下旬からの訪米に合わせ、オバマ米大統領と対応を協議する方針で、6月までに与党内の議論を詰める考えだ。

 現時点で参加に慎重な日米だが、すでに両国が主導する世銀やADBは、AIIBとの協力関係を模索する動きも見せている。

 ADBの中尾武彦総裁は25日の会見で「AIIBが発足すれば、敵対というオプションはありえない」と述べ、AIIBとの協調融資などを想定していることを明らかにした。ただ、その場合もADBの融資基準は堅持し、環境対策などに配慮しないプロジェクトは避ける考えも強調。世銀やADBが採用している「国際基準」を、AIIBにも当てはめる「高等戦術」に出ているといえる。

世銀、ADBが“高等戦術”

 参加か、不参加か、それとも第3の道か。激化する米中の覇権争いのはざまで、財務省高官はこう苦しい胸の内を打ち明けた。

 「新たな船に『乗り遅れるな』という安易な妥協は避けるべきだ。だが、米国にはしごを外されて今の船が沈没するのも困る…」