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【衝撃事件の核心】会社は120億円詐取、社員は1億円横領…悪用されたパチンコ業界の「慣習」

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会社は120億円詐取、社員は1億円横領…悪用されたパチンコ業界の「慣習」

衝撃事件の核心更新

 中古パチンコ台販売会社から約1200万円を着服したとして、元幹部の男が警視庁に逮捕された。男の着服額は計1億円に上るとみられる。だが、この元幹部が食い物にしたその会社自身が、社長の指示の下、120億円以上を他社からだまし取っていた。今や20兆円市場とも言われるパチンコ業界。しかし、「パチンコ台業者は銀行からの融資が得にくい」(捜査関係者)といい、業界内でパチンコ台の売買に見せかけた融資をするならわしがあるという。この会社はそうした“業界の慣習”を悪用した形だが、その手口は-。

1億円「公園で拾った」 借金返済せずにキャバクラで豪遊、FXも

 着服は、5年間にわたり続けられていた。業務上横領容疑で逮捕された東京都台東区の中古パチンコ台販売会社「オムコ」(破産)の社員、野口久夫(ひさお)容疑者(43)は同社の管理部長だった平成21年9月~26年2月、毎月のように、給料とは別に会社から100万円単位で現金を懐に入れていた。

 手口は単純だ。取引先に借入金を返済する際に、返済額を水増しして会社に請求。借入金はそのまま取引先に返済し、残った水増し分を関連会社の口座に入金し、自分用に出金する。

 印鑑、通帳、カードの3点を管理し、経理の一切を取り仕切っていたという野口容疑者。逮捕前の任意の事情聴取には「公園で拾った」などと供述していた野口容疑者も、逮捕後は「私利私欲のために横領した」と容疑を認めた。

 捜査関係者によると、23年4月には消費者金融の借金がかさみ個人再生をしていたが、着服した現金は返済に充てず、キャバクラ代や外国為替証拠金取引(FX)への投資に使っていたという。

 しかし、話はそれで終わらない。野口容疑者は着服と並行して、社長の孫(ソン)陽成(ヤンソン)被告(59)=詐欺罪で起訴=の指示下で、会社ぐるみの詐欺にも手を染めていたのだ。

「融資受けにくい業界」 パチンコ売買装い実質貸し借り

 調査会社などによると、オムコは17年1月に設立で、ピーク時の年商は60億円。中古パチンコ台の販売やパチンコ台の取り付け作業などを手がけ、福岡市などにも支店を置いていたが、徐々に売り上げが悪化し、21年5月期には債務超過に陥った。

 捜査関係者によると、パチンコ台業者は「金融機関からの融資を非常に受けにくい」。債務超過に陥り資金は金融機関以外から調達せざるをえず、オムコは業界では「常識」とされる、他社とのパチンコ台の売買を通じた実質的な資金融資という慣行に頼るようになっていったという。

 パチンコ台の売買を通じた実質的な融資は以下の流れで進む。例えば、貸し手のパチンコ業者が、オムコに1千万円の実質的融資をする場合はこうだ。

 貸し手はオムコに1千万円を送金する際に、オムコからパチンコ台を1千万円一括で買う契約を結ぶ。オムコは元金1千万円に利息を付ける形で、そのパチンコ台を分割払いで買い戻す契約を結ぶ。そうすることで、外見はパチンコ台の売買という体裁をとりながら、実質的には融資になる取引ができ上がる。

 契約上はパチンコ台を売って買い戻すだけだが、支払い方法を一括と分割に分けることで、実質的な融資が成立するわけだ。

 ただ、問題なのは、パチンコ台はすぐにオムコが買い戻すために、実物のパチンコ台自体はオムコ側に止まっている点だ。貸し手側は、本当にパチンコ台が存在するのか、オムコが買い戻したパチンコ台を実際に別の会社に売って“返済原資”を捻出しようとしているのか、確認するのが難しいのだ。

 オムコは、この全てを悪用した。ときには子会社を使ってさらに取引の流れを複雑にしながら、実際にはパチンコ台を売る当てがないのに、貸し手の会社とパチンコ台を売り買いしては実質的な融資を引き出していたのだ。

 売る当てがない以上、パチンコ台の買い戻しの分割料金が支払えるわけもない。26年2月、オムコは破産手続きを開始。捜査2課の調べでは、債務超過に陥った21年5月期以降の5年間で4社から同様の手口で120億円以上をだまし取っていたとみられる。

「業界の象徴的事件」 顧客離れで市場停滞「今後も続く」

 「まさに業界の闇の象徴のような事件だ」と振り返るのは、中古パチンコ業界に詳しい金融関係者だ。

 金融関係者によると、中古パチンコ台は人気機種だと、販売当時数十万円だった機種が中古になると2倍の値段で売れることがあるなど、「当たればもうかる山師のような世界」。ただ、新規参入も相次いで競争が激化。不透明な取引やずさんな契約が横行しているという。

 オムコの不正取引発覚の発端となった東証ジャスダック上場のパチンコ関連企業「JALCOホールディングス」を相手にした不正取引では、オムコが約2年間でJALCOに販売したと申告していた台数のうち実に9割以上が実在しなかった疑惑が第三者委員会の調査で浮上。JALCOが業績見通しを大幅に見直す事態にまで発展した。

 パチンコ業界は恒常的な顧客離れに悩まされており、一時は加熱した中古パチンコ台市場も停滞気味という。金融関係者は不気味な見通しを口にした。

 「今後も、パチンコ関連産業は倒産や、その回避に伴う不正の発覚が続いても驚きはしない」