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【日本の議論】広島被災地「砂防ダムさえあれば…」と悔しがる 土石流封じ込めの切り札「砂防ダム」の効果と限界

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【日本の議論】広島被災地「砂防ダムさえあれば…」と悔しがる 土石流封じ込めの切り札「砂防ダム」の効果と限界

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土石流の発生に備え、堆積した土砂の除去作業が行われる御嶽山麓の砂防ダム=10月3日、長野県木曽町(松本健吾撮影) 山の斜面を削り取りながら一気に下り、ときに人家への甚大な被害をもたらす土石流。その猛威を山中で食い止める砂防ダムの効果に今、注目が集まっている。74人が亡くなった今年8月の広島市の土砂災害などでも一定の効果を発揮したとされるが、過去には土石流が砂防ダムを乗り越えて下流にあふれたケースもあり、専門家は「過剰な期待は禁物」と警鐘を鳴らす。50人を超える登山者の死亡が確認された御(おん)嶽(たけ)山(さん)の麓でも砂防ダムの整備が急ピッチで行われているが、土石流対策の“切り札”となるのか。

砂防ダムの有無で明暗分かれる

 「砂防ダムさえあれば、こんなに被害は多くなかったのに…」

 8月の土砂災害で被害が集中し、生々しい爪痕が残る広島市安佐南区の八木地区。町内会幹部は悔しさをにじませた。

 国土交通省中国地方整備局によると、八木地区の山間部の渓流7カ所に計9基の砂防ダムが建設される予定だったが、現地調査に入る前に今回の土石流に襲われた。その後の調査で7カ所の予定地のうち5カ所で土石流が発生したとみられることも分かった。

 一方、砂防ダム7基がある安佐北区では土石流や流木が食い止められ、減災効果があったとされている。

 広島大の海堀正博教授(砂防学)は「たまたまかもしれないが、砂防ダムがあった流域では土石流を食い止める効果があったといえる」とし、砂防ダムの有無が明暗を分けたと指摘した。

 砂防ダムとは、渓流にコンクリート堤を整備し、上流からの土石流を食い止める施設。砂防ダムが土砂で満杯になった場合でも、川底の勾配が緩くなるため、洪水や土石流が発生しても流速が遅くなり、下流への土砂流出を軽減する効果があるとされる。

 国交省によると、砂防ダムは平成18年3月時点で全国の都道府県に6万1808基あり、そのうち国直轄は3810基。都道府県が建設する場合は国が事業費の3分の2を補助している。ただ、1基数億円と予算がかかる上、工期の制約などもあるため設置率は2割程度にとどまっている。

大規模豪雨には限界も

 一方で、砂防ダムには限界もある。想定以上の降雨に伴う土石流などが発生した場合、砂防ダムの許容量を超え、下流に大量の土砂が流れ出す可能性があるからだ。

 今年7月の長野県南木曽町で発生した台風8号に伴う土砂災害では、発生直前までの1時間に7月の観測史上最多の70ミリを記録。木曽川支流の梨子沢で土石流が発生し、複数の砂防ダムを乗り越えて下流の居住地域にあふれだし、中学生1人が亡くなった。

 国交省中部地方整備局によると、上流にある3つの砂防ダムには計約8万5千立方メートルの土砂が堆積していたが、居住地域での堆積量も約1万9千立方メートルに達していた。

 砂防ダムの許容量は100年に1度の雨量を想定しているが、観測史上最多の雨量が降った場合はあふれる可能性が高まる。

 同整備局の担当者は「砂防ダムである程度の土石流を捕捉することはできたが、下流への流出を食い止めることができなかった」と砂防ダムの限界を口にした。

 記録的豪雨による土石流で36人が亡くなった昨年10月の伊豆大島(東京都大島町)の土砂災害では、砂防ダムの減災効果は確認されたが、火山地域の特性から沢筋を乗り越えて土石流が流れる想定外の現象も確認された。

 今年3月、専門家らによる東京都の土砂災害対策検討委員会がまとめた報告書では、火山斜面では流域の境界を示す尾根が不明瞭な場所があり、砂防ダムのない隣接流域に土砂が流れ込んだと指摘。再発防止策として、火山地域の独特な地形を詳細に把握するよう求めた。火山地域で砂防ダムを新設する場合、設置場所も慎重に検討する必要がありそうだ。

老朽化もリスクに

 砂防ダムの老朽化も災害リスクとして浮上している。国交省が昨年、緊急点検した国管理の砂防ダムなど5809施設のうち、構造物の安定性や機能に影響を及ぼす不具合が確認されたのは221施設に上った。

 国交省水管理・国土保全局の担当者は「昭和40年代に作られた砂防ダムでは質が良くないコンクリートを使っているものもあり、自治体管理の砂防ダムを含めしっかり点検する必要がある」と話している。

 相次ぐ土石流被害を受け、各自治体は砂防ダムの機能を高める作業に取りかかっている。

 群馬県は今年度の砂防事業として土砂災害発生時に砂防ダムの効果を最大限に発揮できるよう、近年の集中豪雨などで上限を超えて堆積した砂防ダム内の土砂・流木の除去を重点的に実施している。ただ、砂防ダムの数が多いため「除去作業に手が回っていない」(担当者)のも実態だ。

 御嶽山の麓でも土石流対策として砂防ダムにたまった土砂を取り除いているが、降雨のたびに作業が中断されるなどスピード感を欠いたのも確か。その間に土石流が発生し、下流の人家に影響が出れば、せっかくの対策も無駄になってしまう。

 さまざまな課題を抱える砂防ダムについて、広島大の海堀教授はこう注意を促す。「砂防ダムの役割は、土石流を食い止めている間に、避難のための時間を稼ぐ程度と思った方がいい」

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