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【日本の議論】台風連発「空振り恐れぬ避難勧告」は住民に理解されたのか

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【日本の議論】台風連発「空振り恐れぬ避難勧告」は住民に理解されたのか

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 過去最大規模の警戒態勢が敷かれ、12都県で計約357万人に避難勧告・指示が出された台風18号の上陸からわずか1週間。立て続けに台風19号が日本列島を縦断し、避難勧告の対象者は22府県で181万923人に上った。最多だった前回18号に次ぐ多さとみられるが、受け入れ施設の確保状況や、実際に避難所を利用した人数を見ると、「空振りを恐れぬ」避難勧告・指示の実効性に疑問を投げかける声もある。自治体は今後、避難勧告や指示を出すタイミングに苦慮しそうだ。(野田佑介、石井那納子)

伊豆大島の重い教訓

 気象庁によると、10月の台風の平均上陸数は0・2個で、10月に2つの台風が上陸したのは昭和30年、平成16年に続いて3回目という。今回の2つの台風で自治体が早めに避難勧告・指示を出すようになった背景には、あの「伊豆大島の教訓」がある。

 昨年10月に記録的な豪雨をもたらした台風26号の影響で、伊豆大島(東京都大島町)では大規模な土砂災害が発生。39人が死亡・行方不明となった。大島町は夜間に避難勧告を出すのを見送り、行政の不作為が被害を拡大させたと批判を受けた。

 当時、大島町では台風の危険性を認識していたが、夜通しで被害対応などを行うことを見越して、夕方までに全職員が一時帰宅。その間、土砂崩れの危険を示す「土砂災害警戒情報」が出されたが、都から町の担当者に連絡がつかず、都が町に送ったファクスが気づかれないまま約6時間放置されたという。

 さらに、陣頭指揮を執るはずの川島理史町長らトップ2人は島根県などに出張中。土砂災害が発生する中、「真夜中の避難は被害を増やす」と避難勧告を見送り、結果として被害拡大を招いた。

 この反省から、内閣府は今年4月に自治体向けの指針を9年ぶりに見直し、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン(案)」を公表。自治体に周知したうえで9月に正式改定した。

 それによると、大雨注意報などが出た際には、首長を含め担当職員らが庁内に待機するよう求める「防災態勢のモデルケース」を示したほか、土砂災害警戒情報が出た場合には「空振り」を恐れず、土砂崩れが起きる可能性が高い地域に速やかに避難勧告を出すことを基本原則とした。

 しかし、今年8月の豪雨でも広島市北部で土砂災害が発生、伊豆大島を上回る死者・行方不明者を出した。防災・減災に詳しい関西大学の石垣泰輔教授(61)=環境防災水工学=は「自治体に与えた衝撃は大きいものがある。後から悔やむよりも避難勧告を出した方がよいと考える自治体は増加しただろうし、その後相次いだ台風が自治体の判断をさらに加速させる一因になったと考えられる」と指摘する。

港区の避難所利用者はたったの6人

 台風18号が都心を直撃した10月6日、東京都港区は約2万3千世帯、4万5千人に避難勧告を出した。港区は都心のオフィス街のイメージが強いが、区内には白金台や三田のように自然の残る地域も多く、区の担当者によると、急傾斜の崖など土砂災害の危険箇所が23区内で最多の118カ所あるという。

 区内に6カ所の避難所を設け、午前10時半過ぎから区のホームページやツイッター、フェイスブックなどを通じて周知を開始。区としても初の事態に、区民からは「どうすればいいのか」など問い合わせが数百件寄せられたが、避難所を利用したのは、2施設でわずか6人だけだった。

 今回は避難を見送ったという港区の会社員、阿部千香子さん(41)は、避難勧告対象の4万5千人という人数に対し、指定された6カ所の避難所で受け入れ可能な人数が計7200人に過ぎないことを挙げ、「受け入れ先の確保が不十分だと、避難した人が命の危険にさらされる可能性があるのではないか」と疑問を投げかける。

 一方、区の担当者は「判断が遅れてはいけない」と強調し、「区内には頑強なつくりの高層建物も多く、必ずしも指定された避難所に向かわなくても身の安全を確保できる場所は多い」と話す。

 同じ台風18号で市民5万人に避難勧告を出した東京都町田市の担当者も、「勧告を出した地域の住民全員に避難所に来てもらう考えはない。早め早めに情報を提供することで、自宅の中でも安全な場所で過ごすなどの対応につなげてほしい」と話す。

“逃げない避難”とは

 こうした行政と住民の認識の違いを、どう受け止めたらよいのか。石垣教授は「避難勧告の概念が変更されたことが周知徹底されていないという問題点がある」と話す。

 「避難」というと、どうしても自治体が開設した避難所へ逃げ込むイメージを持ってしまう。しかし、台風や豪雨の場合は無理に外に出るよりも、屋内にとどまったり、高層階へ上がったりする方が安全を確保できる場合がある。

 自宅の背後に崩れる危険性のある崖や山などがある場合も同様で、斜面から離れた部屋に移動するだけでも土砂災害に巻き込まれる可能性を低くすることができるという。

 「屋内待避」や「垂直移動」「垂直避難」などと呼ばれるこうした避難のあり方は、これまで明確に位置付けられてこなかった。内閣府はガイドラインの改定などに伴い、避難勧告の概念も変更。従来の勧告は「速やかに避難所に向かうこと」(内閣府)を想定していたが、新指針では「頑強な建物の場合には屋内にとどまる」「2階に逃げる」など屋内避難も想定。住民の負担を減らすことで、「空振りの可能性があっても、住民に危険を知らせることを重視した」という。

身の回りの危険を知る

 ガイドラインの改定を受け、多くの自治体は避難勧告・指示を積極的に出す方針に転換した。これはつまり、住民もその情報にすべてを委ねるのではなく、その場の状況からどう行動するのがベストか、個人個人で判断することが求められるということでもある。

 石垣教授は「まずは自分の生活範囲にある危険を知ることが重要」と強調する。災害は限定的な地域でおきることが多いが「気象情報のように広域に向けて発信される情報は、自分が当事者になるかどうかわかりづらい。身近な危険を知っていれば、被害の予測や避難のタイミングを判断できるようになる」と話す。

 台風18号では避難勧告の遅れなどから、土砂崩れで2人が犠牲となった横浜市。台風19号で市内に勧告が出されることはなかったが、前段の避難準備情報をもとに、48世帯107人が避難したという。

 石垣教授は、減災のためには「住民一人一人が主体性を持ち、行政やマスコミからの災害情報をわがこととしてを受け止める必要がある」と指摘する。その上で「最終的には、勧告を受けた住民自身の行動がすべてを左右する。普段から自宅の周辺にどんな危険があるのかを知り、避難に備えることが『大島の教訓』を生かすことにつながるだろう」と述べた。

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