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【地方変動】第1部・溶ける自治体(5)老朽インフラ、捨てる選択も

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 ある日突然、橋が落ちる-。悪夢のような未来が現実になろうとしている。インフラの老朽化問題に、新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけているからだ。地方自治体は膨大なコロナ対策費の支出と、地方経済の打撃による大幅な税収減に見舞われている。インフラ整備に割く十分な体力は残っていない。

 奈良県南部に位置し、村としては日本一広い十津川村は、山並みが折り重なり、集落が川に沿うように点在する。急峻(きゅうしゅん)な地形にかかる橋は生活になくてはならず、村役場の浦岡敦さん(35)は「橋の先に一軒でも民家があれば、住人の生活を守らないといけない」と話す。

 肩書は建設課係長だが、“本籍”は県の土木職員だ。インフラ維持の人材が確保できない村に派遣され、老朽インフラの調査や修繕計画を立案している。

 十津川村では土木職員が年々減少し、新規採用は過去5年間でゼロ。一方、奈良県内に多数ある小規模の市町村も、職員のなり手がない同じ悩みを抱える。職員の派遣は、県が「奈良モデル」と名付けた小規模自治体の支援策となる。

 奈良モデルがユニークなのは、県と市町村がそれぞれ有する職員や予算、土地を「県域資源」と位置づけ、県全体で有効活用しようとする点だ。単独では手に負えなくなった難題に対処するには、自治体の垣根をとかし、人材、予算を融通し合うしかない。衰退する地方が、現状を打開する試みとなる。

静かな「壊死」

 病床がない、看護師が足りない。コロナ禍では人材確保も含めた社会資本の脆弱(ぜいじゃく)さが図らずも浮き彫りになったが、インフラという社会資本はすでに静かに「壊死(えし)」が進行し、地方ではそのスピードが速い。

 奈良に限らず壊死を食い止める土木職員の慢性的な不足は深刻さを増す。総務省によると、全国で土木職員がいない自治体は全体の約3割にあたる450団体にも上る。

 一方、国土交通省によると、平成26~30年度の点検で全国の橋の約6万9千施設が「5年以内の修繕が必要」と判定されたが、8割は手つかずだった。予算や土木職員が不足する小規模市町村で遅れが目立つ。

 一般的に、インフラの耐用年数は40~60年。現状の多くのインフラは更新期に入っている。インフラ問題に詳しい東洋大の根本祐二教授(公共政策)は、今まで通りにインフラを維持していく場合、整備に毎年9兆円が必要と試算。それが50年周期で延々と支出され続ける。根本教授は「今あるインフラをそのまま持続させるのは非現実的だ」と断じる。

究極の二択

 インフラを維持するのか、それとも財政破綻を回避し自治体の存続を優先するのか。究極の二択に直面し、「インフラの切り捨て」を選択する自治体も出てきた。

 富山市は28年度から、安全性や住民の使用頻度などを考慮し、橋の維持管理に優先順位をつける「橋梁(きょうりょう)トリアージ」を始めた。撤去が決まり、通行止めとなった橋もある。災害現場で救える命を救う、究極の選択ともいえる「トリアージ」の概念がインフラにも持ち込まれてきたのだ。市担当者は「すべての橋を今まで通り維持し、補修をするのはもはや不可能」と話し、トンネルなどへの適用拡大も検討している。

 コロナ禍は地方経済を傷つけ、自治体の税収は大きく落ち込む。ウィズコロナの時代、インフラなど山積する難題を新しい方法で打開していくしかない。

 地方はこれまでもリーマン・ショック(平成20年)や東日本大震災(23年)といった危機を乗り越えてきた。未曽有の災害ともいえるコロナ禍は一方で、多極分散化、デジタル化をもたらし、新たなビジネスも生んでいる。持続可能な社会へ変革を起こせるか、地方の真価が試されている。

=第1部おわり

小川原咲、吉国在、清宮真一、黒川信雄、鈴木俊輔、石橋明日佳、森井真理、森口友也、小川良、田所涼奈が担当しました。

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