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【経済インサイド】IR、新型コロナで「不要不急」に 参入障壁の高さに不満も

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横浜市への参入方針などを説明したウィン・リゾーツ・ジャパンのクリス・ゴードン代表(左端)、香港系メルコリゾーツ&エンターテインメントのローレンス・ホー会長兼CEO(左から2人目)、米ラスベガス・サンズのジョージ・タナシェビッチグローバル開発マネージング・ダイレクター(右端)。サンズは今年5月に日本のIRからの撤退を表明した=2019年11月7日、横浜市
横浜市への参入方針などを説明したウィン・リゾーツ・ジャパンのクリス・ゴードン代表(左端)、香港系メルコリゾーツ&エンターテインメントのローレンス・ホー会長兼CEO(左から2人目)、米ラスベガス・サンズのジョージ・タナシェビッチグローバル開発マネージング・ダイレクター(右端)。サンズは今年5月に日本のIRからの撤退を表明した=2019年11月7日、横浜市

 新型コロナウイルスの影響で、日本政府が訪日客増加の切り札と位置づける統合型リゾート施設(IR)の計画が立ち往生している。多くの自治体はIRを「不要不急」と位置付けて新型コロナの感染拡大防止に注力。アジアで“最後の大型案件”として積極的だった海外のIR事業者からは、日本のIRの法制度について、「参入障壁が高い」との不満が漏れ始めており、投資意欲に陰りが見える。新型コロナ収束後の計画再開を見据え、制度設計の見直しが必要となりそうだ。

 「コロナが大変でIRどころではない」。IRの制度設計に携わってきた政府幹部ですらこう語るほど、政府は新型コロナの感染拡大防止に追われている。全国の自治体でIRに最も積極的だった大阪府でも、吉村洋文知事がIR担当者をコロナ対応に振り分けるなど、IRは二の次になっている。

 政府は表向き、IRの開業に向けたスケジュールや制度を変更する考えはなさそうだ。菅義偉官房長官は5月13日の記者会見で、「IRは観光立国を目指す上で不可欠」と意欲を示した。政府は、全国で最大3カ所設置するIRの認定基準となる「基本方針」に、感染症対策を盛り込む方針を示した。自治体からIRの認可申請を受け付ける「来年1月4日から7月30日まで」というスケジュールは、IRの誘致を検討している自治体に確認した上で、変更しない方針を明言している。

 しかし、政府がいくらIRに関する方針は「不変」と主張しても、海外のIR企業はかつての熱意を失っているようだ。

 横浜IRに参入を表明していた米最大手のラスベガス・サンズは5月12日、日本からの撤退を表明した。同社は新型コロナで客が激減したことなどから米国とシンガポールのIRを閉鎖。2020年1~3月期決算は、売上高が前年同期比51%減の17億8000万ドル(約1905億円)に落ち込み、最終損益は5100万ドルの赤字に転落するなど、経営状況が大幅に悪化した。このため、日本に新規参入するよりも既存のIRの立て直しを図ることを優先したとみられる。

 サンズの撤退について、政府のIR関係者は「サンズは他国のIRのスタンダードといえる最大手。サンズが撤退するとより小規模事業者しか残らなくなり、政府が期待する大規模なIRができない可能性が出てくる」と懸念する。

 また、撤退表明に合わせてサンズのシェルドン・アデルソン会長が発表した、「日本におけるIR開発の枠組みでは私たちの目標達成は困難」というコメントが波紋を呼んでいる。アデルソン氏は具体的に日本の枠組みのどういう点に問題があるのか言及しなかったが、米ブルームバーグ通信は、事業者に付与される事業の有効期限が10年と短いことをサンズが問題視したと指摘した。

 別のIR関係者は「コロナで経営状況が悪化した海外事業者が『日本のIRでは、カジノの収益の30%も国などに収めないといけない』と文句を言い始めた」と指摘する。日本のIRは、マカオやシンガポールなど他のアジアのIRと比べ、建築コストが高いことも含めて投資に対する利益率が低いことに、事業者が注目し始めたというわけだ。「海外のIRでは、このようなときに日本に投資する余裕があるのか、と大問題になっている」(IR企業首脳)。

 10年間という認定期間の短さや、30%という「国などの取り分」の多さについて、法制度設計に携わった関係者は「事業者に課すハードルが高すぎた」「事業者への配慮がなさすぎた」と反省の弁を述べるが、今のところIR整備法などの見直しの機運は起きていない。

 さらに問題なのは、法制度などの仕組みだけではない。本来、IRはMICE(マイス)と呼ばれる学術会議などを開催する大規模会議場の運営費用をカジノの収益で賄うというビジネスモデルだ。しかし、新型コロナの感染拡大後、世界各国でオンライン会議が普及しており、コロナ収束後も大規模な会議を開催する需要がすぐには回復しない可能性がある。そうなればIRの存在価値自体が問われることにもなりかねない。「三密」への対応が続けば、従来型のカジノからオンラインのカジノに利用者が流出する可能性もある。

 一方で、新型コロナの感染拡大防止対応の業務負担が大都市よりも小さい地方の自治体の方が、IR参入に向けた準備を進めやすいという側面もある。

 すでに誘致を検討している長崎県や和歌山県などにとっては、ある意味でチャンス到来といえるかもしれない。IR関係者は「政府が整備計画を変更しないので、誘致を正式に申請する自治体は限られるだろう。コロナ対応の負担が大きい東京都はおそらく無理ではないか。最初のIRは令和8、9年ごろに開業できるかどうかだろう」との見通しを示した。(経済本部 大坪玲央)

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