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【野党ウオッチ】抑止力を軽視する野党 古代ローマ帝国の失敗に学べ

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参院特別委員会で安全保障関連法案の採決が行われ、鴻池祥肇委員長に詰め寄り、激しくもみ合う与野党議員=平成27年9月17日、参院第1委員会室(斎藤良雄撮影)
参院特別委員会で安全保障関連法案の採決が行われ、鴻池祥肇委員長に詰め寄り、激しくもみ合う与野党議員=平成27年9月17日、参院第1委員会室(斎藤良雄撮影)
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 夏の長期休暇を利用して、塩野七生氏の長編『ローマ人の物語』(新潮社)を久しぶりにひもといた。そこには栄華を誇った古代ローマ帝国が、安全保障や地方自治を軽視した末に、坂道を転げ落ちていく様子が刻銘に描かれていた。野党を中心に理想主義的な安全保障論が幅をきかせ、地方議員のなり手が減る令和の日本にとっても人ごとではない。「歴史は繰り返す」という言葉が脳裏をよぎった。

帝国全盛期から「平和ボケ」

 特に強く印象に残ったのは、ローマ市民を蛮族などから守る皇帝の意識が、2世紀半ばの帝国最盛期に君臨した「五賢帝」の時代に早くも低下し始めていたというこの指摘だ。

 「メンテナンスの必要性への自覚が、アントニヌス・ピウスには欠けていたし、マルクス・アウレリウスにも欠けていたのではないだろうか。晩年のハドリアヌスが怒りっぽく気むずかしくなり、誰からも敬遠される存在になってしまったのも、自らの成した大事業への理解者を、それを理解できる能力のある人々の中にさえもてなかったことへの、絶望と怒りではなかったかと思ってしまう」

 五賢帝の3人目にあたるハドリアヌスは、現在の英国から中東の奥地に至るまで、広大な帝国の辺境をくまなく視察し、すでに先人の手で構築されていた防衛線を再強化した人物として知られている。英国北部に築かれた「ハドリアヌス防壁」も彼の名に由来する。 塩野氏は「現代ならばこれを、抑止力と言う」と解説する一方、後任の2人がこうした努力を怠ったのではないかと指摘。蛮族の侵入に伴う5世紀の帝国崩壊の萌芽(ほうが)となった可能性を示唆する。

 安全保障環境の変化に神経をとがらせ、先手を打って対策を講じることがリーダーの責務であるとすれば、安倍晋三政権が平成27年に成立させた安全保障法制も一種の「ハドリアヌス防壁」ではなかったか。集団的自衛権の限定的行使を可能にし、自衛隊による米艦防護など日本側が貢献できる範囲を広げ、日米同盟を一層強固なものにした。

 「戦争法」「憲法9条を守れ」などとやみくもに批判する野党は、日米安全保障条約の見直しすらちらつかせる米トランプ政権にどう対処するのか。軍事力を増やし、東アジアへの海洋進出を強める中国や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮の動きを踏まえれば、日米同盟を基軸に他国に付け入る隙を与えない「抑止力」の強化が必要なのは言うまでもない。厳しい安保環境に目を背けることなく、現実的な対案も示すべきだろう。

 日本は先の大戦後、経済大国に成長したが、古代ローマ帝国を崩壊に導いた「平和ボケ」が、帝国の全盛期に始まっていた可能性を軽視してはなるまい。

 先の参院選で争点となった憲法改正をめぐる議論でも、野党が抑止力を軽視しているような場面が目立った。立憲民主党は、安倍政権が安全保障法制を廃止することが、首相の求める憲法改正議論を進める条件と位置づけている。安保法制で日米同盟の基盤が強化された面は素通りし、ひたすら廃止のみを唱える姿勢は、抑止力を軽視しているようにしかみえない。

 1990年代にフィリピンから米軍基地が撤退した途端、中国は南沙諸島ミスチーフ礁の実効支配に乗り出した。抑止力を軽視すれば、即座に牙をむく大国が近くにいることを忘れてはならない。

 ちなみに、立憲民主党の枝野幸男代表はツイッターで愛読書について「宮城谷昌光さんや塩野七生さんに代表される歴史ものが中心です」と発信している。塩野作品のどの部分に共感を覚えるのか、機会があれば聞いてみたい。

「公共心」も退潮

 人々が「公共心」をなくして「個人主義化」が進んだことが、古代ローマ帝国が力を失う遠因となったという記述も示唆に富んでいる。

 「ローマ帝国では、地方議会の議員でも、元老院議員と同じく無給職だった。(略)元老院階級に属す男たちが無報酬で国家の要職を務めることを『名誉あるキャリア(クルスス・ホノルム)』と言っていたが、地方自治体のそれは、ローマ社会の中産階級に属す市民にとっての『クルスス・ホノルム』であったのだった。この実情でもなお、熾烈(しれつ)な選挙を経ても名乗りをあげる人に不足しなかったのは、共和政・帝政の別なくローマ人の公共心が強かったからである、とするしかない」

 「だがそれも、三世紀に入る頃には衰えはじめていたのである。(略)中堅層においても、ローマ人の公職忌避ははじまっていたのだった。この面でも、ローマ人は少しずつ、ローマ人ではなくなりつつあったのだった」

 日本の地方議員は有給であるという違いがあるとはいえ、地方自治が危機に直面している状況に変わりはない。

 4月の統一地方選では、議員のなり手不足から無投票となる選挙が多発した。町村議選では4人に1人が有権者の選択を経ずに当選している。地方議員の存在意義すら問われかねない状況だ。

 町村議の議員報酬は、全国平均で月額21万4533円(平成30年7月現在、全国町村議会議長会調べ)。今の地方議員には「ボランティアみたいなもの」と同情論もあるが、「待遇より公共心」を重視してきた人々が減少しつつあるのだとすれば、わが国にとっては大きな危機だ。

(政治部 内藤慎二)

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