【私と新聞】グローバル人財になるために 立命館大学客員教授、元外務事務次官 薮中三十二さん

「紙の新聞の方が見やすくニュースの価値判断がしやすい」という薮中さん=京都市の立命館大キャンパス(寺口純平撮影)
「紙の新聞の方が見やすくニュースの価値判断がしやすい」という薮中さん=京都市の立命館大キャンパス(寺口純平撮影)

 日米・日中交渉、北朝鮮の核と拉致問題など国際交渉の最前線に立ち続け「ミスター外交」と呼ばれる元外務事務次官の薮中三十二(やぶなか・みとじ)さん(73)。現在は大学や私塾で人材育成に尽力する。薮中さんは「世界は日本に期待している。勇気をもって雄飛してほしい」と若者に呼びかける。

 ◆世界の信頼厚く

 この1年間の新型コロナウイルスの感染状況と混乱ぶりをみると、現代の国際社会ではいかに人の移動が活発だったか、それが各国の国内事情に大きな影響を与えていたかがよく分かります。

 日本では少子高齢化が進み、労働力の減少を補うため介護や製造業、1次産業などさまざまな分野で外国人労働者が参入しています。また、人口減少に伴い国内市場の縮小が進むことから、日本の若者は活躍の場を海外にも広げざるを得なくなるでしょう。

 こうしてみると、日本人の生活はもはやグローバリゼーションと無縁では成り立ちません。それゆえに、国際社会の安定化のため、外交や経済産業、科学、文化など多くの分野で日本人が積極的に貢献することが期待されているのです。例えば、地球規模の気候変動への対応や、アジア地域を中心とした平和維持などへの貢献です。

 幸い、国際社会のなかでの日本人への信頼度は、世界の先進国の中でもとりわけ高いものがあります。その期待に応えられる「グローバル人財」(財産としての人材)になる努力がこれからの日本の若者には求められます。

 ◆国際感覚を磨く

 「グローバル人財」になるためにはまずは国際的な感性を磨かねばなりません。そのためには日ごろから国際的なニュースに親しむことが必要ですが、その入り口として日本の新聞を手に取ることから始めてはどうでしょうか。

 新聞に掲載されているニュースはスマホでも見ることができますが、紙の新聞は、記事や見出しの大きさで日々のニュースの重要度が一目で分かります。ひとつひとつの記事を熟読しなくても、毎日さっと新聞の全ページをめくってみる習慣を続ければ、何が世界で注目を浴びているのかが分かります。

 次のステップでは、特に自分の関心があるトピックスを選び、それについての分析・解説記事を時系列に保存しておき、時に読み返せば、時間とともにそのトピックスの解釈が変化することもあり、ファクト(事実)にもとづき物事を考える力がつきます。

 ただ、ニュースを伝える視点は新聞社によって異なることもありますから、他の新聞と自分が購読する新聞の記事を見比べると、より広い視野で物事を見る力がつくでしょう。

 これに加えて、英字新聞やCNNなど海外のメディアのニュースサイトで記事の見出しを見るだけでも、自分が日本の新聞で関心をもっているトピックスについて、日本人と欧米人の視点が違うことにも気づきます。私は外交官時代から現在に至るまでこうした習慣を続けています。

 ◆語学より気持ち

 こうして物事を見る視点を養うと同時に、自分の考えを、根拠を明らかにして相手に的確に伝える力、これを「ロジックをもって話す」といいますが、この力をつけることが大切です。文化の異なる相手との信頼関係は、まずはお互い何を考えているのか、何を望んでいるのか、しっかり意見をぶつけあうことから築かれるのです。

 日本では、文化の異なる人とのコミュニケーションについて語られるとき、英語など語学力に触れられることが多いのですが、語学力は道具にすぎず、ロジック力とそれを伝えようとする強い気持ちが、実は「世界共通語」なのです。

 海洋国家である日本の歴史を振り返ると、日本国として国際デビューし始めた聖徳太子の時代から、歴史の節目節目で海外との交渉によって国を発展させてきたことが分かります。戦後の日本が経済大国の地位を築けたのは戦後のビジネスリーダーたちが優秀な技術力を背景に堂々と世界とわたりあったからです。

 現在、米、中、露といった大国がグローバリゼーションと自国主義の間で揺れる中、前述したように日本への期待感は高まっています。日本の若者の奮起に期待したいと思います。

 【プロフィル】 昭和23年、大阪生まれ。大阪大法学部中退後、44年外務省入省。平成20~22年外務事務次官。この間日米構造協議、北朝鮮の核、拉致問題などの交渉を担当。現在立命館大などで教壇に立つ傍ら、大学生らを対象とした「薮中塾グローバル寺子屋」を主宰、外交官や研究者など人材を輩出。著作に「世界基準の交渉術」(宝島社)、「日本の針路」(岩波書店)など。

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