【羅針盤】東京農業大学 高野克己学長 失敗を成功の種にできる人材育てる

東京農大の高野克己学長
東京農大の高野克己学長

 日本最大の農学系総合大学として知られる東京農業大学は今年、創立130周年を迎える。次世代型農業から生命科学、醸造まで、ユニークな教育研究活動で知られる。昔も今も変わらず掲げるのは、農と食を通じて「生きる」を支える学び。自身も同大で学び続けてきた高野克己学長に、大学の未来について聞いた。 (聞き手・宮田奈津子、写真・寺河内美奈)

 --創立130周年。農を取り巻く環境も変化してきた

 「東京農大は農業に特化し、専門性が高い世界でも珍しい大学。農業はかつて主要産業だったが、産業革命以降は多様な産業が誕生し、農業の位置づけは下がったようにもみえる。しかし、農の重要性は変わってはいない。科学的なプロセスを駆使し、農の課題を解析していくことが今の使命だろう」

 --変化に対応し、研究領域を広げてきたことが独自性を生み出した

 「出発は一つの農。衣食住のための資源を作り、加工して提供し、幸せな社会を作ること。もともと農には多様な学術分野が含まれ、それを表現してきただけ。作業をしやすい生産技術や機械、保存のための食品製造や加工、売るための経済…。この先も工学や情報解析、薬学など、足りない学問を取り入れていく」

 --世田谷、厚木、北海道オホーツク(網走市)と3キャンパスも個性豊かだ

 「世田谷は、人工的な環境にキャンパスがある。都市には人が作り出す矛盾が充満しているからこそ、課題が近い。北海道オホーツクは、人が自然といかに向き合い、調和して社会を作っていくかの学びに。厚木は田園環境が広がり、人が自然に手を加えることの意味、持続可能な開発と利益のバランスを考えられる。それぞれの特色によって、多様性のある人材育成につながっている」

 --学生のみなさんに学んでほしいことは

 「教科書や論文だけではなく、農の現場を見て、人類の知見と現実が合っているのかを検証することが東京農大の実学主義。文献や先行研究があっても、『何か違う』『どっち?』と迷うことがある。そこを追求し、確認できることが学びのおもしろさ。高度に複雑化した課題を解いていく醍醐味(だいごみ)を実感してほしい」

 --コロナ禍にあり、大学はいかに変化し、どのような人材を輩出していくか

 「実験でも、今は感染症対策から回数や時間の確保が難しい。ならば、質を追求し、データを読み込む力を培う。そういうふうに考え方や学び方を変えていく。自分の持つ力を、チャンスが到来したときに最大限に発揮できるよう努力し続けること。社会のどの分野でも挑戦でき、活躍できる能力を身につけてほしい。失敗を成功の種にできる人材を育てていきたい」

【プロフィル】高野克己

 たかの・かつみ 昭和28年、東京都生まれ。東京農業大学農学部農芸化学科卒業、同大大学院農学研究科博士前期課程修了。昭和60年農学博士取得。同大農学部教授や応用生物科学部長などを経て、平成25年から現職。専門は農芸化学、食品化学、食品製造学。

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