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【話の肖像画】女流囲碁棋士・謝依旻(30)(9)バンジージャンプでリセット

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第30期女流本因坊就位式には、振り袖姿で登壇 =平成24年1月
第30期女流本因坊就位式には、振り袖姿で登壇 =平成24年1月

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 《平成16年入段の向井千瑛(ちあき)五段とは、何度もタイトル戦で顔を合わせた。25年秋の女流本因坊戦五番勝負ではフルセットの末、敗戦。6連覇で途切れ、向井五段は初の戴冠となった》

 同期入段で年齢も(自身が2歳下と)近い。相手の強さは分かっている。結果だけみれば勝ち越していますが、負けてもおかしくない碁がいっぱいありました。絶対大丈夫-と思ったことはないですね。

 そのときの女流本因坊戦は第1局に負けて「今回で終わりかな」という気持ちがよぎりました。テレビの「情熱大陸」(TBS系のドキュメンタリー番組)の取材があって、せっかくの機会だからいい成績を残したいという思いがあったのに、(第1局で敗れ)3連敗したらどうしようかと。第2局に勝ち1勝1敗になったけど、第3局に負け。第4局を勝って最終局に持ち込み、正しく打てば勝つチャンスがあるのに負けてしまって…。碁の内容が後から後から頭に浮かんでくる。冷静に打てば、勝てたのに…と。切り替えようとするんだけど、人間なので、すぐにはなかなか忘れることができませんでした。

 《気分を切り替えるために選択したのが、なんと“バンジージャンプ”。338メートルあるマカオタワーの展望台、世界一高いとされる233メートル地点からのジャンプだった》

 今後、女流本因坊戦のトーナメントを勝ち抜いて、再び挑戦者になれるかどうかも分からない。2カ月後(26年1月下旬)には女流棋聖戦三番勝負で防衛戦が始まる。負けたことが頭に残ると「次もそうなるかも」と考えてしまう。そんな感情を、次のタイトル戦に持ち込みたくなかった。リセットしようと、台湾に帰る用事があったタイミングでマカオに行ったんです。飛ぶ前に(台湾棋院の)黒嘉嘉(ヘイ・ジャジャ)七段にだけ、連絡したんです。「もし万が一、何かあったらよろしく」と。大げさ? やったことないから、どうなるか分からないじゃないですか。そうしたら「頑張ってね。感想教えて。健闘祈る」と、淡々とした内容のLINEが返ってきました。

 飛ぶ瞬間がめちゃくちゃ怖かったんです。室内で待つ間は音楽がガンガン流れていて、気持ちも乗っていけた。いろいろ説明してくれるのですが、英語だからよく分からない。いざ外に出ると手すりをつかみたくなるけど「飛ぶんだからいいだろう」みたいな感じで、払いのけられる。心の準備もそんなにできないまま「スリー・ツー・ワン、Go」、キャ~って。

 今まで何を悩んでいたんだ、と。命より大事なものがあるのかと思いました。囲碁に負けたって、命はある。碁を打てるだけでもいいじゃないか。生きてさえいれば、できることはたくさんある、と実感した-。それくらいの体験でしたね。落ちるのは数秒。下までいくと1度、100メートルくらい上がるので、景色を見渡す余裕がありました。リタイアする人もいますが、もう1回飛んでもいいかな。

 バンジージャンプの効果があったのかどうか、女流棋聖戦は前期と同じ、青木喜久代八段に勝って防衛(通算4期目)を果たすことができました。(聞き手 伊藤洋一)

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