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【話の肖像画】女流囲碁棋士・謝依旻(30)(7)対局中に大震災、初の封じ手

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東日本大震災により、第23期女流名人戦三番勝負第2局が中断。立会人の淡路修三九段(右)に封じ手を渡した=平成23年3月11日、東京都千代田区の日本棋院
東日本大震災により、第23期女流名人戦三番勝負第2局が中断。立会人の淡路修三九段(右)に封じ手を渡した=平成23年3月11日、東京都千代田区の日本棋院

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 《4連覇を目指した平成23年の女流名人戦三番勝負。相手は前期、そして前年秋の女流本因坊戦でストレート勝ちした同期入段の向井千瑛(ちあき)四段(当時)。しかし第1局で敗れた》

 大阪商業大学での第1局は、自分にチャンスもなく完敗。三番勝負で第1局を落とすと大変なんです。もう後がないから。余計なことを考えるんです。次も負けたら…とか、タイトル失ったら…とか。

 《第2局は9日後の3月11日。中盤戦に入った午後3時前。大きな揺れが日本棋院東京本院7階の対局室を襲う。東日本大震災だった》

 碁盤(を置いた机)が大きく揺れて碁石も、部屋にあった花瓶も落ちそうで、天井からはほこりのような黒い粉が降ってくる。そのときは私の手番でしたが、揺れが激しくて碁どころじゃない。生きるか、死ぬかの問題。千瑛ちゃんの顔をみて、「中断したほうがいいよね」と訴えると、「うん」とうなずくから、記録係に消費した時間を記してもらった。すぐ外に出ようとしたけど揺れが長く、何かにつかまっていないと立っていられないほど。数分後、立会人の先生や棋院の職員の方が来て、脱出することになったんです。

 隣の控室でコートを取って外に出ようとしたけど、(別の部屋に入った)千瑛ちゃんと記録係が出てこない。机の下に避難しているんです。「何してるの、逃げようよ」と。台湾では天井が落ちたり、建物が倒れるなどの危険があるから、地震のときは一刻も早く外に、とにかく広いところへ出るよう言われているんです。1階玄関の外に出ると、対局に来ていたアマチュアの方や、近隣のオフィス街の人でいっぱい。揺れが収まったので建物内に戻り、4階の理事長室に初めて入りました。大竹英雄理事長(当時)と千瑛ちゃんと対局再開を待っていました。

 《同日、都内より揺れが小さかった甲府市での第35期棋聖戦は最後まで打たれ、張栩(ちょう・う)棋聖が初防衛を果たした。しかし女流名人戦は続行不可能と判断された》

 関係者の方が次に打つ手を書いて封筒に入れる“封じ手”をした方がいいのでは、と提案してくださいました。再開まで持ち時間が減らない状況で考えることができるのは不公平なので、提案していただき、(手番の)私にとってよかった。2日制の女流棋戦はないので、封じるのはもちろん初めて。中盤の大事なところで候補手はたくさんある。余震が続く落ち着かない中、正解かどうか分からないけど、すぐには負けないだろうという手を選びました。それからまさか10日以上もあく(再開は23日)とは思っていなかったから、あの手でよかったかなあと考えっぱなしでした。その夜、(マンション10階の)自宅に帰ったら、棚からお皿が飛び出し、割れていた。やっと帰ってきたのに、これか…と。お皿が割れているのは見なかったことにして、寝ました。

 《再開後の第2局、そして第3局を勝利して4連覇を達成。後日、就位式の席で井山裕太十段(当時)と賞金の一部を被災者に寄付すると告げた》

 原発事故のこともあり、台湾の実家から電話がかかってきたのですが、対局があるから帰るわけにいかない。あの状況でもタイトル戦を打てたのは、周囲の皆さんのおかげ。義援金は(被災者の)力になれたらという気持ちからでした。(聞き手 伊藤洋一)

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