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【本ナビ+1】『去年(こぞ)の雪』江國香織著 100人超の人生の一コマ描く

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『去年の雪』
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 □シンガー・ソングライター 丸山圭子

 ■『去年(こぞ)の雪』(江國香織著/KADOKAWA・1600円+税)

 100人を超える人々の人生の一コマが次々に描かれていく。多彩、変化に富んだ展開で、デビュー32年目という著者が挑んだ斬新でアグレッシブな小説だ。

 幼児から高齢者まで登場人物の年齢、性別、職業、境遇はさまざま、現代だけでなく時代をさかのぼった話も。さらに、すでにこの世を去って“もののけ”になっていたり、さまよう魂だけの存在だったりも。それぞれ数ページの独立した話だが、読み進めると、ふとした瞬間に伏線(仕掛け)があることに気づく。

 推理小説のように確たる答えがあるわけではないが、いくつもの話に羽に傷があるカラスや大群のすずめが出現したり、ある場所が別の時代とつながっていて、突然関係のない話し声が聞こえたり、物が出現したり。人物も夫や妻、子供、祖父母や孫まで登場する家族があったり、別の誰かの話に関わっていたりもする。

 そんな伏線の面白さと、何より、これほど多くの人間模様を描きながら、それぞれの心理描写や情景描写の巧みさに驚く。

『体温』
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 「冬の外気と薄い日ざしを顔の皮膚と目と鼻と口で受けとめながら」生きている感慨を味わう老女。ある日突然目の前の光景すべてが奇妙なものに思え、自分の妻とはわかりつつ、「見知らぬ女だと思った」男。情景描写も「音もなく木々の葉をふるわせて降る雨」「書物が湿気を吸収する、ひそやかな匂いが漂っている」「暗闇には色があるね」など、五感に染みる繊細な感性が光る。

 巻頭に置かれた「だけど、去年の雪はどこに行ったんだ?」の一文、そして描かれる数々の生と死。登場人物の誰かに重なるような、あるいは自分も物語の一部になるような…。そんな思いを通じて、人は一人で生きているのではないというメッセージを感じた。

シンガー・ソングライターの丸山圭子さん(萩原悠久人撮影)
シンガー・ソングライターの丸山圭子さん(萩原悠久人撮影)
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 ■『体温』(多田尋子著/書肆汽水域・1800円+税)

 夫を不慮の事故で失った女性が、時を経てめぐり逢った男性との関係のなかで眠っていた自分の心に気づく「体温」など3作品を収録。穏やかな文章で、孤独に生きる女に染み入るぬくもりが柔らかくやさしく語られる。

 表題作など芥川賞候補6度の著者が、愛する人との距離を愛おしく感じさせてくれる。

【プロフィル】丸山圭子(まるやま・けいこ) 埼玉県出身。昭和51年、「どうぞこのまま」が大ヒット。最新アルバム「レトロモダン~誘い」を中心にライブ活動中。洗足学園音大客員教授。

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