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【ゴッホを語る】(1) 見える世界を変える「糸杉」 お笑い芸人、作家 又吉直樹さん

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又吉直樹さん
又吉直樹さん

 僕は美術展を見終わって外に出ると、いつもより世界が美しく見えます。何回も見たはずの景色が、空気が、すごく特別なもののように感じられるんです。それは、作家の「目」を借りているからだと思います。

 「ゴッホ展」で一番、僕の見える世界を変えてくれたのが「糸杉」です。絵は動画ではないので、描かれているのは一瞬の姿かたちです。でも「糸杉」は動いているように見える。それは、そこにあった大気、流れた時間、そしてゴッホの心情までもが、1枚の絵に収まっているということではないでしょうか。意識して取り込まれたのではなく、ゴッホが糸杉のある空間を描く中で、自然と内包されたという感じがします。あと、月が出ているのに明るめの空と、糸杉の濃い緑の色のバランスが、めちゃくちゃ好きですね。

 ゴッホは気難しくて、付き合うとなると大変な人物だったと思います。でも、もしゴッホが社会性のようなものを手に入れていたら、「ゴッホの絵」は描けなかったかもしれません。僕らの目はきっと、どこかで「世界はこうなんだよ」と教えられたり、何かを理解したりしたために、ゴッホが見えるようには世界が見えなくなってしまったのだと思います。

 でもゴッホの絵をずっと見ていると、「こうやったかもしれない」と思う瞬間があるんですよね。ゴッホの目を借りて、何かを見られる瞬間がある。だからゴッホの絵には、なんか強烈にひかれるんです。(藤井沙織)

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