PR

【ゴッホ展】建築家、安藤忠雄さんが語るゴッホの魅力

PR

安藤忠雄さん(閑野欣次撮影)
安藤忠雄さん(閑野欣次撮影)
その他の写真を見る(1/2枚)

 ゴッホの初期から晩年までの重要作品と、その画業形成に大きな影響を与えた「ハーグ派」「印象派」の巨匠らの作品をあわせて展示する「ゴッホ展」(産経新聞社など主催)が神戸市の兵庫県立美術館で開催中だ。希代の画家の魅力を、建築家の安藤忠雄さん(78)に聞いた。(正木利和)

■心のままに

 建築家の安藤さんと画家ゴッホ。不思議な取り合わせだが、ちょっとした「縁」で結ばれている。

 今回のゴッホ展にも数多くの作品を貸し出しているオランダのクレラー=ミュラー美術館は、世界で2番目のゴッホ作品数を誇るミュージアムだ。100年近く前にゴッホなどを集めた実業家が作品を収蔵するために建てたその美術館は、いまも広大な緑の敷地のなかに建つ。実は、その新館の建設を安藤さんが任されることになった。

 「緑深い森のなか、柔らかな光に包まれて、生き生きとゴッホの世界が息づいている。クレラー=ミュラーは世界で最も美しい美術館のひとつです」

 安藤さんとゴッホとの出会いは1968年。20代の終わり、2度目の世界旅行でオランダを訪れたときだ。

 「オランダにはレンブラント、フェルメールの黄金時代があったわけですが、当時の絵画とは基本的に王侯貴族の肖像画といったような、特権階級のナルシシズムを満たすためのもの。対して、19世紀末に生きたゴッホは自分の心のままに表現を求め、その自由のために命を燃やしたわけです」

 そこに、ゴッホの絵の輝きの源がある。

■生の重さ

 「ゴッホの画には、何か、昨日描かれたような不思議なリアルさがありますよね。『麦畑』も、麦の生命力というのかな、金色が土に突き刺さっているように描かれている。一本一本の麦の存在が心に迫ってくるように感じられるんです」

 「戦う建築家」の目は、ゴッホが人生の終盤にモチーフとした『糸杉』を見てさらに細部へ向かう。

 「『糸杉』は特に好きな画のひとつですね。シンプルな自然のモチーフの分、ゴッホの痕跡、息遣いが強く感じられ、まるで<部分>に生命が宿っているよう。生きること=描くことであったゴッホがゆえの<部分>の生命力。その重なりが、<全体>の画に圧倒的な力を与えている。部分と全体の理想的な関係、このテーマは建築の表現にも通じるものなんです」

フィンセント・ファン・ゴッホ《麦畑》 1888 年 6 月 油彩・カンヴァス 50 × 61cm P. & N. デ・ ブール 財団(c)P. & N. de Boer Foundation
フィンセント・ファン・ゴッホ《麦畑》 1888 年 6 月 油彩・カンヴァス 50 × 61cm P. & N. デ・ ブール 財団(c)P. & N. de Boer Foundation
その他の写真を見る(2/2枚)

 ゴッホの筆づかいにまで思いをはせる安藤さんは、その核心をこう表現する。

 「人間の生の重さ、生きていることの尊さ・美しさが伝わってくる」

■無垢な気持ちで

 弟テオらにあてた数多くの書簡にも注目する。

 「ゴッホがかくも大きな存在となった理由のひとつに、死後に出版された書簡集がありますよね。世界で唯一の理解者であり、支援者であった弟テオとの本音の言葉のやりとりから浮かび上がる、天才画家の人生の苦悩と葛藤。その真実に触れた人々の心の感動が、ゴッホのイメージをつくりあげました」

 「書簡集は、読み物として質が高い。ゴッホは大変な読書家で、本からのインスピレーションで描かれた画も多くあるそうですから。画と同じくらいに言葉を大切にしていたのでしょう。ともかく、在りし日のゴッホを伝える膨大な書簡が弟テオの妻の手で保管されていたのは非常に幸運なことでした。生き方と作品が符合する稀(け)有(う)な作家の人物に迫る、唯一無二の文献です」

 鑑賞者はそんなゴッホの絵をどう見ればよいのか。「予備知識など何もいりません。無垢な気持ちで心のままに見たらいいでしょう。ほかのどんな画家とも違う道を選び、誰にも見向きもされないまま生き切った。そんな作家の生の叫びが、自然と心に語りかけてくると思います」

この記事を共有する

おすすめ情報