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感覚を分かち合う体験 「記憶の珍味」諏訪綾子展

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記憶を味わうリチュアル(儀式)を行う諏訪綾子(右)=加藤健撮影
記憶を味わうリチュアル(儀式)を行う諏訪綾子(右)=加藤健撮影

 「苦い思い出」や「甘酸っぱい恋」など、味覚と記憶を結び付けた表現は多い。でも、なぜ「珍味」なのだろう。

 諏訪綾子は「食」を表現媒体に活躍するフードアーティスト。「食は人の無意識に届きやすい」と語る彼女は、他者の五感に訴えるような体験型作品を、世界各地で展開してきた。資生堂ギャラリー(東京・銀座)で開催中の個展「記憶の珍味」では、個人的な記憶を複数の人間で少しずつ共有するような、不思議な感覚が味わえる。

 展示室には諏訪が調合した8種の匂いが用意されており、来場者はそれらを一つずつ確かめることから始める。どれも、いわく言い難い匂いだ。個人的にはすぐに記憶の光景と結び付く匂いもあれば、何となく知っているが思い出せないもの、まったく未知の香りもあった。

 最も記憶が引き出された匂いを選ぶ。するとその匂いにまつわる文章が提示され、最終的に記憶を味わう体験へと導かれる。実は、8種の匂いはすべて諏訪自身の記憶に基づくもの。だから、自分の奥底にある記憶と諏訪の記憶が混じり合い、分かち合うような奇妙な感覚に陥る。

 本展ではもう一つ、不定期に諏訪が行うリチュアル(儀式)もある。白い衣装に身を包んだ諏訪が、まさに儀式をつかさどる形で、「記憶の珍味」を円卓を囲む参加者らにふるまうのだ。参加者の反応から、「個人主義が強い海外に比べて、日本人は感覚を共有する能力が高いのかな」と諏訪。思えば香を聞き、茶を点(た)てる日本古来の儀式も、他者との感覚の共有だった。

 「記憶は、食べるほどにクセになる珍味と似ている」と諏訪は言う。「苦い思い出も何度も味わうことで珍味のように変容し、深みが増していくのではないでしょうか」

 3月22日まで、月曜休。入場無料。問い合わせは03・3572・3901。(黒沢綾子)

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